【水口学長のESG通信】金融庁有識者会議の到達点と今後の課題

金融庁は2021年6月、筆者(水口)が座長を務めたサステナブルファイナンス有識者会議の報告書を公表しました。同年1月の第1回会合以来、半年間で8回の会合を重ねてきた成果です。その内容は、ESGと受託者責任の関係やインパクト投資などの横断的論点から、企業の非財務情報開示、機関投資家やESG評価・データ提供機関、間接金融などの各論まで、サステナブルファイナンス全般に及びます。有識者会議の議論はどこまで到達し、何が課題として残されたのか、報告書のポイントを見ていきたいと思います。

【水口学長のESG通信】人権の危機に備えよ ウイグル問題とステークホルダー資本主義

 中国の新疆ウイグル自治区の問題は、企業や投資家に一種の踏み絵を迫る問題です。ウイグル産の綿を使っていないと表明したアパレルメーカーが逆に中国での不買運動に直面しています。それは、この問題が単にサプライチェーンの強制労働の問題にとどまらず、中国型の国家資本主義とどう向き合うのかという問題であることを示唆しています。逆に言えば、ステークホルダー資本主義の本質が問われているとも言えます。本稿ではこのことを掘り下げて考えてみたいと思います。

【水口教授のESG通信】ステークホルダー資本主義は本物か - 2020年という年の意味

 ESGの視点から重要と思われる2020年の出来事として、①新型コロナウイルス感染症の蔓延、②中国による香港国家安全維持法の制定、③グリーンリカバリーの進展、④IFRS財団によるサステナビリティ基準審議会の設置の提案の4つがあげられます。これらに共通するのは、環境と社会と経済の距離が縮まったということです。その意味ではステークホルダー資本主義「元年」となってもよい年でした。しかし一方で、「口ではステークホルダー資本主義を唱えながら、実際はまだ株主第一主義ではないのか」との批判も聞かれます。その批判の声に耳を傾けてみたいと思います。

【水口教授のESG通信】ESG情報開示のゆくえ - IFRS財団の提言が意味すること

2020年9月に、国際会計基準審議会(IASB)の設置団体であるIFRS財団が、新たにサステナビリティ基準審議会(SSB)の設置という方針を打ち出し、意見募集を始めました。ESG情報の開示に関しては基準やフレームワークが乱立しているので、グローバル基準を作ろうという提案です。同じ2020年9月には世界経済フォーラムも報告書を出し、CDP、CDSB、GRI、IIRC、SASBの5団体も共同ステートメントを公表しました。ESG情報の開示基準はどこに向かうのか、これらの動きから考えていきたいと思います。

【水口教授のESG通信】欧州グリーンディールの本気度 - EUタクソノミーの背景

欧州委員会は2020年3月に欧州気候法の提案をしたかと思うと、サーキュラーエコノミーアクションプランや生物多様性戦略などを立て続けに公表し、7月には水素戦略を出しました。いずれも欧州グリーンディールを具体化する動きです。私たちは、つい、EUタクソノミーなどの個別の動きに注目しがちですが、それも欧州グリーンディールというより大きなビジョンの一部と言えるのではないでしょうか。タクソノミーだけに注目していたのでは見えてこないEUのビジョンの全体像に目を向けてみたいと思います。

【水口教授のESG通信】ウイグル人強制労働問題を考える - 中国と人権と投資行動

2020年7月23日、「ウイグル地域での強制労働廃絶のための連合」というNGOの連合が世界の企業に行動を呼びかける声明を公表しました。中国政府は少数民族であるウイグル人を組織的に拘束し、強制労働させているので、サプライチェーンがウイグル人強制労働と関わる可能性のある企業は、その可能性を遮断すべきだというのです。実際、新疆ウイグル自治区での問題はこれまで何度か報道されてきました。企業と機関投資家はこの呼びかけにどう応えるべきでしょうか。中国と人権と投資行動という難しい問題を考えてみたいと思います。

【水口教授のESG通信】コロナ以降、社会は変わるか - 幸福度調査から考える

 新型コロナウイルスのパンデミックを経て社会は大きく変わる、と言われています。しかし本当にそうでしょうか。また、変わるとしたらどんな方向への変化になるでしょうか。2011年の東日本大震災の後も、社会が変わるのではと思われました。けれども2012年から始まった国連の幸福度調査では、日本の幸福度は年々下がり続けています。今度も同じことにならないでしょうか。それではなぜ日本の幸福度は下がってきたのか。そうならないためには、何を変えることが必要なのか。幸福度調査を参考に考えていきます。

【水口教授のESG通信】欧州サステナブル金融政策の動向 - タクソノミーの外側に注目を

2020年3月9日にEUタクソノミーに関する最終報告書が公表されました。本体に付属書を合わせると650ページを超える大作です。当然、その中身が気になると思います。しかし実はこの報告書だけでなく、それに関わる制度的枠組みが重要です。2019年11月には金融機関によるサステナビリティ情報の開示に関するEU規則が成立し、12月にはタクソノミーの根拠となるEU規則が政治合意に至りました。そこで本稿では、タクソノミー最終報告書だけでなく、これらのEU規則も含めた欧州のサステナブル金融政策の動向を見ていくことにします。

【水口教授のESG通信】昆虫から食料問題を考える - コオロギのゴーフレットを生んだ研究

 国連の2019年版の世界人口推計によれば、2019年に77億人だった世界人口は2030年には85億人、2050年には97億人に達すると予想されています。このような人口増加に所得水準の上昇が加わることで食肉への需要が大幅に高まれば、生態系や気候変動への負の圧力も高まります。そこで、植物由来の人口肉や培養肉と並んで昆虫食の可能性が検討されています。ではどうすれば、昆虫食を普及させることができるでしょうか。ドイツの学会で発表された日本人研究者の研究と、その研究を踏まえて実際に発売されたコオロギのゴーフレットの例を手掛かりに、昆虫食の普及の可能性について考えていきます。

【水口教授のESG通信】ESG投資の生態系を考える - NGOの役割を中心に

 2019年、インドネシアは大規模な森林火災に見舞われました。現地のNGOは、泥炭地の開発を促進してきた大手パルプ企業の責任を指摘するレポートを公表しましたが、批判された企業もレポートに反論を掲載しています。ESG投資家はこの問題にどう向き合うべきでしょうか。単に企業とNGOの対立ととらえるのではなく、ESG投資自体を多様な主体と多様な意見からなる一種の生態系とみなす視点から、考えていきたいと思います。