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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 オーストラリアとニュージーランドを主な拠点とする巨大銀行グループのオーストラリア・ニュージーランド銀行(以下、ANZ)が、地元住民から強制的に土地を奪ったとされるカンボジアのサトウキビ農場と製糖所への融資が、OECD多国籍企業行動指針*違反の疑いがあるとNGOに告発された。ANZはオーストラリア上場企業のトップ5に名を連ね、ニュージーランドの最大手銀行である。オーストラリア財務省内のOECDナショナル・コンタクト・ポイント(NCP)はANZに対し、新興国における融資案件のデュー・ディリジェンスをより厳格化し、人権問題に関する紛争処理メカニズムを確立し、結果を公表するしくみを導入することで、地域社会への説明責任を果たすよう求め、12ヵ月以内に報告書を提出するよう要請した。

 今回のケースは、OECDのガイドライン違反に当たる疑いあるとしてNGOから告発を受け、NCPの調査対象となる金融機関が相次ぐ中で起きたものである。これまでにオランダに拠点を置く4つのNGOが、気候変動と環境に関する国際的なガイドラインに違反したとしてING銀行を訴えている。またクレディ・スイスは、建設反対運動が起きている米国のノースダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)への関与をめぐって告発されている。OECDは、ガイドラインの下では機関投資家は投資先企業と「一体」であり、ガイドライン違反の疑いで調査対象となっている新規案件の20%以上を金融セクターが占めていると明らかにしている。

 ANZの案件は既に3年近く調査が続いているが、2015年8月にオーストラリアのNCPが訴えを受理したのが始まりである。各国のNCPは、訴えが起こされた場所の司法管轄下で、「ソフトロー」であるOECDガイドラインに基づいて申立ての審査と調停を行う。ANZをOECDに提訴したのは、カンボジアの人権NGO「Equitable Cambodia」と、土地および地域社会の育成(キャパシティービルディング)に取組む人権団体「Inclusive Development International (以下、IDI)」である。Equitable CambodiaとIDIは、ANZが完全子会社のANZロイヤルバンクを通じ、2011年にPhnom Penh Sugar Co. Ltd (以下、PPS)に4,000万豪ドルを融資したことがOECDガイドラインに違反しており、PPSが地元住民を強制退去させ、住む場所と暮らしを奪ったと訴えた。また、村民の脅迫に関与しているほか、児童労働や危険な労働環境を強制していると訴えている。NGO側は、ANZはこの問題に対して「責任の一端を担っている」にすぎないと認める一方、同グループが、ビジネスと人権に関する国連指導原則(UNGP)に従って、問題の「回避または解決」に向けて適切な手段を講じなかったとしている。そしてANZに対して、PPSによって強制退去させられたとする681世帯に、融資を通じて得た利益を支払うよう求めている。 

 ANZはNCPの調査に対し、自らは農地買収資金を融資しただけであると反論している。また、PPSには現地の法令を順守するよう促しており、融資審査におけるデュー・ディリジェンスも適切であったとしている。一方で、自らが影響力を行使してPPSの業務慣行を改めさせられなかったことは遺憾であると述べた。ANZは当初、当該事業で得られた利益を譲渡する意向はなく、OECDのガイドラインにも違反していないと説明していた。また、正式な紛争処理手続きは策定していないものの、人権侵害があったことが確認されれば救済手段を検討すると述べていた。しかし、ANZグループのシャイン・エリオットCEOは、10月12日に開かれた議会の委員会で「当該事業で被害を受けた住民に補償金を支払うことを検討している」と述べた。さらに、「PPSへの融資の目的は製糖所の建設資金であり、サトウキビ栽培用地を買収するためではないが、それは言い訳にならない。状況は憂慮すべきものであり、今回の出来事はあってはならないことだ」と説明した。

*OECD多国籍企業行動指針とは、
 経済協力開発機構(OECD)が定めた企業の責任ある行動に関する「勧告(Recommendation)」をまとめたガイドラインのこと。法的拘束力はないが、行動指針参加国の多国籍企業は自主的に行動することが期待される。1976年に採択され、世界経済の発展や企業行動の変化などの実情に合わせ、これまで5回(1979年、1984年、1991年、2000年、2011年)改訂された。一般方針、情報開示、人権、雇用及び労使関係、環境、贈賄、贈賄要求及び金品の強要の防止、消費者利益、科学及び技術、競争、納税など幅広い分野における原則と基準がまとめられている。


https://www.responsible-investor.com/

【参照】
Responsible Investor, Hugh Wheelan  「ANZ Group joins list of financial services groups in crosshairs of OECD Multinational Guidelines after human rights ruling」2018年10月15日(2018年11月6日情報取得)
外務省「OECD多国籍企業行動指針」2018年4月27日(2018年11月6日情報取得)

【関連記事】
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】オランダNCPによるING銀行への調査:気候変動をめぐる初めての事例」2017年12月18日


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