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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 欧州の規制当局が気候変動リスクへの対応を加速している

 2018年10月15日、イングランド銀行傘下で英国内の銀行および保険会社を監督する ”健全性監督機構(PRA)” が新たな規制案として、金融機関に ”気候変動リスクの管理体制の確立" と "リスク管理の確実な計画または方針" を策定済みであることの証左の提示を求める新たなガイドラインを提案した。規制案には、金融機関に "低炭素社会への様々な移行経路" のシナリオに基づいて "レジリエンス(柔軟性)" と "バルネラビリティ(脆弱性)" を評価し、金融安定理事会の気候財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に示されている、気候変動関連財務情報の追加開示を検討するよう求める当局の意向も盛り込まれている。規制案に対するパブリックコメントの募集期間は2019年1月15日までで、その後、最終案がPRAの既存の監督フレームワークに盛り込まれる。

 イングランド銀行は世界の中央銀行の中でも気候変動リスクへの対応をリードする立場にあり、今回の規制案は同行の長年の取り組みの集大成といえる。マーク・カーニー総裁が2015年にロンドンのロイズ保険で "ホライズンの悲劇" と題する象徴的な講演を行って以来、同行は気候変動が英国の保険業界に及ぼす影響について調査し、昨夏にはその対象を銀行業界にも広げ、先月(2018年9月)その結果を公表している。

 非営利環境法律団体(ClientEarth)の弁護士であるデイビッド・クック氏はレスポンシブル・インベスターの取材に対し、最終的な規制案は "PRAが期待する、規制に準拠するために必要な対応" を示すもので、" 絶対要件を定める" ことはないだろうと述べている。また、「PRAは監督する金融機関に対して、気候変動リスクへの対応はもはや金融機関の義務であることを明示している。今後は戦略的レベルでのリスク対応を通じてガバナンスおよび財務情報開示の現行規制に準拠していることを立証するよう、一段と強く求めていくだろう」と指摘する。「PRAが実際に規制を執行するにあたっては、罰金の徴収、公的譴責、当該金融機関または承認取得者の業務停止/制限などの選択肢が考えられる」ともコメントしている。

 英国のもう1つの主要監督機関で、規約型年金制度、銀行、相互会社、金融アドバイザーなどを所管する金融行動監視機構(FCA)も気候変動リスクについて前向きな動きを見せた。FCAは ”気候変動に対する英金融システムのレジリエンス強化に向けた合同アプローチ” の一環として、気候変動およびグリーンファイナンスに対するアプローチ案へのパブリックコメントを募集することを発表した。FCAのアンドリュー・ベイリー長官は公表された文書の冒頭で、「気候変動そのものがもたらす影響だけでなく、低炭素社会への移行は金融市場と商品に多大なインパクトを及ぼす可能性がある」と述べている。
 「消費者の間では ”グリーン” 金融商品へのニーズも高まりつつある。そうした動きが広がれば、グリーン関連商品のタクソノミー(グリーン商品と市場の分類方法)、情報開示、パフォーマンス評価に加え、最終的には公正性と消費者保護の重要性も増すだろう。FCAは 、これらの商品を購入する消費者のための体制強化と保護を実現し、消費者のニーズに応じて市場が公正で秩序ある発展を遂げるよう監督する役割を担っている」とも述べている。

 英国外でも、オランダの中銀であるオランダ銀行(DNB)がディスラプティブなエネルギー転換が国内に及ぼす影響を調べるストレステストの結果を発表した。こうした調査は中銀としては初めてと思われる。DNBはストレステストで、4つの「深刻だが十分起こり得る」エネルギー転換シナリオを用い、今後5年間に国内の銀行、保険会社、年金基金に及ぼす影響を調べた。想定した4つのショックシナリオは以下のとおりである。

  1. 二酸化炭素排出量の削減政策が早急に導入され、実効炭素価格が1トン当たり100ドルに押し上げられる
  2. テクノロジーの画期的な進歩により、エネルギーミックスに占める再生エネルギーの比率が倍増する
  3. 政策導入とテクノロジーの進歩が同時発生する
  4. 政策見通しの不透明感から信頼が失われる

調査報告書は、4つのシナリオ下で発生する可能性のある損失はいずれも「大規模だが管理可能である」と結論づけた。ストレス対象資産に占める損失の割合が最も大きかったのは保険会社の11%と年金基金の10%で、銀行は3%にとどまった。 

 ドイツ、英国、フランス、オーストラリア、中国など、世界18か国の中央銀行グループ(Network for Greening the Financial System 、以下NGFS)は、気候変動のリスク評価をめぐる制約について報告書を発表した。その中で、データの質とアベイラビリティ(可用性)に加え、”グリーン” アセットと ”ブラウン” アセットが抱える財務リスクの違いが理解されていないことを挙げた。報告書は、「先を見据えたシナリオ分析やストレステストなどに基づく新たな分析・監督アプローチ」の開発を求めている。NGFSは2019年4月に発表する次回の報告書で、TCFDの提言に沿った "少数のハイレベルシナリオ" を提示することでリスク分析を簡素化し、”グリーン” アセットと "ブラウン" アセットのリスクの違いを明確化し、中央銀行が "先行事例" を提示できる分野を特定することを目指す。


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【参照】
Responsible Investor, Khalid Azizuddin 「Europe’s regulators push forward on climate risk」2018年10月16日(2018年11月1日情報取得)

Bank of England, 「Enhancing banks’ and insurers’ approaches to managing the financial risks from climate change」2018年10月15日(2018年11月1日情報取得)

FCA「FCA opens a discussion on the impact of climate change and green finance on financial services」2018年10月15日(2018年11月1日情報取得)

DNB「An energy transition risk stress test for the financial system of the Netherlands」2018年10月11日(2018年11月1日情報取得)

NGFS「First Progress Report」2018年10月11日(2018年11月1日情報取得)


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