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 ESG投資はこれまで欧米の大手機関投資家が牽引してきた。中でも、責任投資原則(PRI)に署名したアセットオーナーが中心になってきた。だがここにきて、個人投資家に注目が集まり始めている。その背景には、個人投資家の多くがサステナビリティに価値を置くとの調査結果が出始めたことがある。2018年3月に公表された欧州委員会のアクションプランでも、個人をターゲットにした提案が盛り込まれた。では今後、本当にESG投資のすそ野を個人へと広げていくことができるだろうか。そのために必要なことは何か考えてみたい。

1.サステナビリティに関する選好を考慮せよ

 このコラムでも以前紹介したとおり、欧州委員会が2016年末に設立した「サステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ(High-Level Expert Group on Sustainable Finance:HLEG)」は、2018年1月末に最終報告を公表した。提言内容は多岐にわたるが、その中に次のような一節がある。

 「ヨーロッパの家計の貯蓄はEUの金融資産全体の40%以上を占める。個人投資家の3分の2以上が投資意思決定において環境と社会の目標を考慮することが重要だと考えており、ほとんどの個人がサステナブルな手法に基づいた投資をしたがっているという十分な証拠がある。それにも関わらず、そのような選好(preferences)に従って投資する機会を得ている投資家は、現在、ほとんどいない。欧州の個人向けのESGファンドは、急速に成長しているとはいえ、市場全体の2%以下でしかない。その上、ファイナンシャル・アドバイザーの役割に関する各国の規定 - これはMiFIDⅠ及びⅡ(欧州金融商品市場指令)に強く影響されている - には、そのような選好について顧客に尋ねよとの要求事項は全く含まれていない。その結果、多くの個人投資家はこれらの選好を表明することもない」

 この主張の根拠としてHLEGの最終報告書が引用しているのは、ナティクシス・インベストメント・マネージャーズの2016年の調査である。同社はパリに本社を置く大手運用機関であり、調査は22カ国、7100人の個人投資家を対象に行われた。その結果、世代や性別に関わらず回答者の75%は個人的な価値観と合致した投資をすることを望み、80%近くが倫理的に経営されている企業に投資したいと答えたというのである。

 翌2017年には、イギリスを本拠とする大手運用機関のシュローダーも類似の調査結果を公表した。調査対象は30カ国、2万2100人の個人投資家であり、そのうち78%の人が、サステナブル投資は5年前に比べてより重要だと感じていると答えたという。この比率は世代によって異なり、ベビーブーマー(51-69歳)では67%、ジェネレーションX(36-50歳)では79%なのに対し、ミレニアル世代(18-35歳)では86%が5年前より重要になったと答えている。

 このような認識の変化は行動にも表れている。同じ調査で、75%の人が少なくとも時々はサステナブル投資を行うと答えており、中でも42%はしばしば、又はいつもサステナブル投資をするという。もっとも、この比率はその他のサステナブル行動に比べるとまだ低い。たとえば、家庭のごみをしばしば、又はいつも削減ないしリサイクルすると答えた人は72%であった。ここにも世代の差があり、ベビーブーマーでしばしば、又はいつもサステナブル投資をする人は31%だが、ミレニアル世代では52%にのぼった。

 HLEGの最終報告を受けて欧州委員会は、2018年3月8日に『アクションプラン:持続可能な成長に向けた金融』を公表した。そこで示された10項目の行動計画のうちアクション4に関連して、次のような記述がある。「投資仲介機関は、顧客に適した(suitable)金融商品を勧めるために、投資アドバイスに先立って、顧客の投資目的やリスク許容度を確認することが求められる。しかし投資家や受益者の『サステナビリティに関する選好』はしばしば十分に考慮されていない」

 そこで投資アドバイスの際に「サステナビリティに関する選好」が考慮されるよう、MiFIDⅡ及び保険販売業務指令(IDD)に基づく規制を改定しようというのである。個人投資家向けのESG投資は今後のフロンティアと言ってよいのではないか。

 

2.SRIファンドからESG投資へ

 それでは日本はどうだろうか。日本がヨーロッパと若干事情が異なるのは、機関投資家によるESG投資が一般化するより前に、個人向けのエコファンドやSRIファンドが一定程度広まったということである。市場全体に占める比率は大きくはないが、今でもSRIファンドはある。個人向けのESG投資と言われれば、多くの人はSRIファンドをイメージするだろう。

 SRIファンドとは一般的にはESG評価によるスクリーニングを加味して投資先を選んだ投資信託である。それもESG投資の一形態である。では、「ESG投資のすそ野が個人に広がる」とは、SRIファンドの購入が増えることだと考えればよいのだろうか。言い換えれば、SRIファンドが個人のサステナビリティに関する選好の受け皿となるのだろうか。そもそもESG投資とは特定のファンドで行えばよいことなのか。

 この夏、とあるシンポジウムで参加者から次のような質問があった。「SRIファンドというけれど、実際の投資先を見ると有名な大企業が多く、いわゆる大型株ファンドとあまり変わらないのではないか。ESGの評価がどのくらい反映しているかわからないし、これで環境や社会がよくなるという実感もわかない」

 このような意見は目新しいものではない。ESGスクリーニングが大企業ほど有利になるのは自然なことであり、大型株に偏りやすいとの指摘は以前からあった。それはSRIファンドという商品の特性であって、その商品自体に問題があるわけではない。ただ、ESG投資の個人への普及という意味では、いわゆるSRIファンドだけでは足りないのも事実だろう。では何が求められるのか。以下は私見だが、少なくとも3つの要素が考えられる。

 第1に方法論の多様化である。機関投資家によるESG投資はスクリーニングだけでなく、インテグレーションやダイベストメント、エンゲージメントなど多様な手法が開発され、併用されてきた。さらにグリーンボンドやインパクト投資など、新たな投資機会も生まれている。個人投資家に対しても、このような多様なESG投資の機会と選択肢が提供されるべきではないか。

 第2にインパクトの追求である。機関投資家が集まるPRIでは、すでに数年前に「認知(awareness)からインパクトへ」をキャッチフレーズに掲げた。個人投資家の場合も、サステナビリティに関する選好が重視されるならば、単に形式的にスクリーニングされているだけでなく、実質的なインパクトの存在が実感できることが重要になるのではないか。

 第3に運用機関全体での対応である。たとえばエンゲージメントという方法は実質的なインパクトを生む可能性があるが、特定のファンドだけで行うわけにはいかない。運用機関としてのスタンスが問われることになる。ESG要因が投資機会やリスクになるならば、ESGインテグレーションも特定のファンドだけでなく、運用全体の問題になる。したがって、もし個人投資家がサステナビリティに関する選好を持つならば、組織全体でESGに取り組んでいる運用機関、その点で信頼できる運用機関を選ぶ必要がある。逆に言えば運用機関の側も、自社がESGにどのように取り組んでいるのか、適切に説明し、アカウンタビリティを果たすことが重要になる。

 このように考えると、個人向けESG投資の時代とは運用機関がESGの観点から選ばれる時代かもしれない。それは、ESGに関する総合力が問われる時代なのではないだろうか。

 

【関連資料】
1. Natixis Investment Managers(2016), Mind Shift: Getting Past the Screens of Responsible Investing(2018年10月5日情報取得)
2. Schroders(2017), Global Investor Study: Global Perspectives on Sustainable Investing 2017(2018年10月5日情報取得)


【関連コラム】
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】サステナブル金融とは何か - 欧州委員会アクションプランの意味すること」2018年4月27日(2018年10月5日情報取得)
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】サステナブル金融への挑戦 - EUハイレベル専門家グループの提言」2018年2月28日(2018年10月5日情報取得)


QUICK ESG研究所 特別研究員 水口 剛