RIロゴ
画像

本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 人権問題の権威として知られ、国連事務総長特別代表を務めるジョン・ラギー教授は、「投資家は人権に関する専門知識をほとんど持っておらず、関心もあまりない」と指摘する。同氏がハーバード大学ケネディスクールで新たに発表した共同論文※では、「環境・社会・ガバナンス(ESG)投資のうち『飛び抜けて弱い』要素は『社会(S)』であり、国連の『ビジネスと人権に関する指導原則(UN Guiding Principles on Business and Human Rights: UNGPs)』を取り入れるべきだ」としている。

 以下、『Money, Millennials and Human Rights: Sustaining ‘Sustainable Investing’』と題した同論文によると、アセットオーナーやアセットマネジャーおよびミレニアル世代によるESG投資への関心の高まりを示唆する一方、ESG投資が直面する課題として、明確な基準が確立されていないことやESGの全ての要素(特に「社会(S)」)に関する情報の質にばらつきがあることに警告を発している。また、アナリストや格付け機関、投資家が「社会(S)」に関する要素を評価する際、ラギー氏が策定した国連の『ビジネスと人権に関する指導原則(以下、UNGPs)』を活用するよう提案する。「環境(E)」 については炭素強度など定量的指標があり、「ガバナンス(G)」についてはコーポレートガバナンス・コードなど各国で基準が存在する。しかし、「そもそも『社会(S)』要素については、各データプロバイダーによる独自の項目や指標が大半であり、例えるなら、それぞれのシェフが半信半疑で選んだ様々な材料を組み合わせて料理を作り、一部のお客さんに試しに出しているようなものだ」としている。各種のESGレーティングのスコアを比較した結果、格付け機関同士の相関性が最も低かったのは「社会(S)」だったという。

 同論文では、ニューヨーク大学が12の異なる報告フレームワークの1700に上る「社会(S)」に関する指標を対象に実施した調査結果も紹介している。それによると、「社会(S)」に関するレーティング情報のうち投資家を主なターゲットとしたものはわずか12%にとどまったのに対し、「環境(E)」は97%、「ガバナンス(G)」は80%と高かった。さらに、「社会(S)」要素に関するレーティングのうち、企業活動が外部へ及ぼす影響を評価しているものはわずか8%だったのに対し、企業の方針といった内部要因を評価対象にしているものは92%に達したという。同論文は、この結果について「評価しやすいものだけを評価し、重要な点を見過ごしている」とし、「社会(S)」分野において人権という要素を概念化する方法が定まっていないこともパフォーマンスの低下につながっており、一貫性がないため比較可能な状況ではないと指摘。さらに、既に確立している人権基準でさえ軽視されることが多く、場当たり的な適用にとどまっているが、こうした人権基準は国際合意によって策定されたものであり、アナリストが「社会(S)」に関する要素を評価し判断するための指針になるべきものだとしている。

 「こうした事態を招いている一番の原因は、投資関係者に人権についての関心や専門知識がほとんどないことに加え、人権問題の関係者にも投資について多少の関心はあっても専門知識がないという現実だろう」と同論文は分析する。その上で、ESG投資にUNGPsを導入することで「社会(S)」要素の強化を図るべきであると提言している。UNGPsの報告フレームワークは、ビジネスと人権問題に取り組むNGOのShiftと大手監査Mazarsが共同で策定。企業が人権問題について適切かつ意義のある情報を報告するためのガイドラインであり、運用資産残高が5兆3,000億ドルに上るアビバ、BNPパリバ、ハーミーズなど約90の機関投資家が支持している。

 

 ※ラギー氏と最近修士課程を卒業したエミリー・ミドルトン氏による共同論文


 

RIロゴ

【参照】
Responsible Investor, Vibeka Mair「Investors have little expertise or interest in human rights -Ruggie」2018年7月6日(2018年8月13日情報取得)

【関連サイト】
HARVARD Kennedy School 「Money, Millennials and Human Rights: Sustaining ‘Sustainable Investing’」2018年1月(2018年8月13日情報取得)
Business & Human Rights Resource Centre「Putting the “S” in ESG: Measuring Human Rights Performance for Investors」2017年3月17日(2018年8月13日情報取得)

【関連記事】
QUICK ESG研究所 「【RI 特約記事】国連、銀行に人権苦情処理メカニズムへの取り組みを要請」2017年7月31日


QUICK ESG研究所