RIロゴ
画像

本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。


 米国が2017年6月1日に地球温暖化対策の国際的枠組みである「パリ協定」離脱を表明してから1年が経過した。「パリ協定」では、脱炭素化に向けて世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して2℃以内に抑えるという「2℃目標」が規定されている。米国に本部を置くサステナビリティNPOであるCeres(セリーズ)のミンディ・ラバーCEOは、この1年を振り返り以下のように語った。

 「私達は何としても『2℃目標』を達成する。トランプ大統領のパリ協定離脱宣言によって連邦政府レベルでのリーダーシップが期待できないなか、投資家や企業によるパリ協定の目標達成に向けた機運はむしろ高まりつつある。主要機関や企業が積極的な行動をとり続けるには、公共政策や規制制度による後押しが必要であるが、私は目標達成が難しいとは考えていない。『2℃目標』に向けた真摯な取り組みは、企業や州政府、地方自治体、投資家だけにとどまらず、ヘルスケアや教育の分野にまで広がりをみせており、目標達成は十分実現可能だろう」

 投資家や企業の取り組みには目覚ましいものがある。この2年間でバンク・オブ・アメリカ、シティグループ、JPモルガン、ウェルズ・ファーゴといった商業銀行によるクリーンエネルギーへの投資額は計8,500億ドルに達した。ニューヨーク州はMSCIが提供する低炭素戦略インデックスへの投資を20億ドル積み増したほか、サステナブル投資の総額を70億ドルに増やした。カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)も同インデックスやサステナブル投資に25億ドルを投じ、カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)は太陽光発電事業への数億ドルの投資とカンザスおよびオクラホマ州の風力発電施設への2億3,300万ドルの投資計画を公表している。

 米アップルは、世界にある自社施設で使用する電力を100%再生エネルギー化したと公表。配車サービス大手のリフトは、カーボンクレジットを購入し、同社のサービス利用時に排出される二酸化炭素を相殺すると発表した。また、フランスの大手化粧品会社ロレアルの米国法人も2019年中に米国内の製造・流通施設21か所でカーボンニュートラルを達成すると宣言している。現在、Science Based Targetsイニシアチブ(SBTi)*を支持する世界の企業123社のうち24社は米国企業だ。

 ただし、後退した側面もあると彼女は指摘する。「例えば、自動車製造大手のゼネラルモーターズとフォードは米国で定められているCAFE(企業平均燃費)基準の見直し(1ガロン当たり27マイルから54マイルへ引き上げ)を受け入れると公表していたが、ここにきて業界団体である『オートアライアンス』と両社の現経営幹部が、あらゆる手段を講じてこのコミットメントを退けようとしている。また、化石燃料業界も再生可能エネルギーに一定の投資をしているとはいえ、その変化のスピードは緩慢であり、パリ協定の目標を達成するには、同業界の抜本的な変革が必要である」

 パリ協定支持の声明として設備大手のジョンソンコントロールズは、「当社は市、州、大学および民間セクターのパートナーと連携しながらパリ協定の目標達成に向けて引き続き取り組んでいく」と発表。ハートフォード生命保険は「当社は温室効果ガス(GHG)の大幅な排出削減実績と継続的な排出量削減目標の設定が評価され、二つの『2018 Climate Leadership Award』を受賞した。温室効果ガスの20%削減目標については、当初計画を2年前倒しして2016年に達成した。新たな目標は、排出量をさらに年間最低2.1%のペースで削減し、2027年までに25.7%、2037年には46.2%(いずれも2015年比)削減することだ」としている。

 トランプ米大統領によるパリ協定離脱宣言当日には、多くの投資家たちはこれを批判する声明を発表したが、改めて自らの立場を表明するコメントも寄せられている。

 CalPERSのサステナブル投資部門のマネージングインベストメントディレクターであるべス・リヒトマン氏は、「当社はパリ協定を積極的に支持し、『2℃目標』の実現に引き続き取り組んでいく。米国政府の政策にかかわらず、気候変動が及ぼす物理的な影響と低炭素社会への移行は、グローバルな投資家が考慮すべき極めて現実的な投資課題だ」と述べる。2017年、同社は温室効果ガス排出量の多いグローバル企業に対し、投資家が共同でエンゲージメント活動を実施する「Climate Action 100+」イニシアチブの立ち上げを宣言した。「運用資産総額30兆ドルにおよぶ著名投資家が、投資先企業との共同エンゲージメントを通じて企業のビジネス戦略とパリ協定の目標を合致させるための解決策を見つけ、低炭素化に向けた取り組みをサポートする。当社は受益者のために長期的に利益を生み出す必要がある。エンゲージメント対象企業の繁栄だけではなく、世界全体の温室効果ガス排出量を抑え、投資対象企業が気候変動のもたらすリスクにさらされることのない未来を目指さなければならない。CalPERSは、収益性が高い再生可能エネルギー事業や投資先の不動産関連企業による省エネルギー技術の開発にも継続的に投資している。我々はパリ協定から離脱していない」と話す。

 また、CalSTRSのジャック・エーネスCEOは「トランプ米大統領のパリ協定離脱表明後も当社は同協定の原則を支持するスタンスを変えていない。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を気候関連情報の開示および投資先企業とのエンゲージメント活動に組み入れている。また、投資対象企業に気候変動に関わる情報の開示要請や規制当局への働きかけ、同じ考えを持つ組織との連携や株主提案の支持などの取り組みを続けている。長期投資家として、気候変動リスクの低減に向けて主導的役割を担うことは米経済および退職年金基金の健全性を維持する上で不可欠である」と語った。
 

*Science Based Targetsイニシアチブ(SBTi):地球の気温上昇を産業革命前の気温と比べて2℃未満に維持するという科学的な知見と整合する、企業の温室効果ガス削減目標のこと


RIロゴ

【参照】
Responsible Investor, Paul Hodgson「Paul Hodgson: A year from the US withdrawal from COP21: Investors are still in」2018年6月1日(2018年6月21日情報取得)


QUICK ESG研究所