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 企業の人権に関する取り組みを評価する国際的なイニシアチブCHRB(Corporate Human Rights Benchmark)は、パイロット版ベンチマーク発表から1年が経過した2018年4月、同イニシアチブが掲げる5つの目標に対する進捗を報告する2018年のプログレス・レポートを公表した。

 CHRBは、2017年3月のパイロット版ベンチマークで、企業の人権への取り組みを独自のメソドロジーにもとづき評価したスコアとランキングを公表した。評価対象は3業種で、農作物35社、アパレル30社(うち8社は農作物と重複選定)、資源採取産業41社の合計98社、平均スコアは 100%中28.7%であった。60%以上のスコアを取得したのは、BHP Billiton(業種:資源採取産業)、Marks & Spencer Group(農作物/アパレル)、Rio Tinto(資源採取産業)の3社のみであった。CHRBの投資家メンバーは、パイロット版ベンチマーク結果の公表後、UNGP Reporting Framework Investor Coalition*の代表と連名で、評価対象企業98社に対し、CHRBによるスコア結果がもたらした影響、人権方針の策定、デューデリジェンスの見直しへの活用についてレターで回答を求めた。2018年4月現在、29社から回答を得ている。

 今回のプログレス・レポートでは、5つの目標について1年間の取り組みと成果を分析し報告している。

目標1:企業の人権への取り組みを可視化し、理解しやすくする

 一般に公開した評価メソドロジー、スコアおよびランキングは、企業による人権課題の理解の促進に役立っている。米国の大手食品会社Marsは、CHRBの評価メソドロジーを「複雑な人権課題をシンプルな枠組みに落とし込むことで、実践を促す」と評価し、自社の人権課題への取り組みに活用している。

目標2:ランキングを意識した健全な競争環境を構築する

 ランキングの公表は、複数の企業にとって将来的に良いスコアを取りたいという動機付けになっている。UNGP Reporting Framework Investor Coalitionと協働して評価対象企業に送付したレターも、企業が行動を起こす大きな原動力になっている。例を挙げると、レターに回答した英豪資源大手Rio Tintoは「今後対応すべき課題を特定するため、CHRBのスコアを詳細に分析している。(中略)ベンチマークは、透明性を向上させるための議論の枠組みの構築に役立つ」と述べている。
 競争環境を作ることが第一歩である。今後は「競争環境に参加しない」ことがネガティブな結果に繋がることを確実なものとし、投資家や市民社会と協力して企業に働きかける必要がある。 

目標3:評価の低い企業に対し、市民社会や労働者、規制当局、消費者が働きかけるための情報を提供する

 パイロット版ベンチマークの公表は、人権課題への取り組み度合が低い企業を抽出し、改善を求めて働きかける第三者に対し有益な情報を提供した。社会的責任投資を推進するオーストラリアの非営利団体Australian Centre for Corporate Responsibility (ACCR)は、CHRBのスコアをもとに、小売り大手のウールワースにサプライチェーンの人権デューデリジェンス改善を求めた。その結果、ウールワースは労働組合(The National Union of Workers: NUW)と協働でサプライチェーンの労働者の人権擁護に取り組む、という歴史的合意に至った。今後はステークホルダーにとって評価情報を活用しやすいものにするため、改善を図る必要がある。

目標4:投資家が「社会的費用」を投資の意思決定に組み入れることを可能にする

 パイロット版ベンチマークの発表から1年で、投資家の投資意思決定に劇的な変化が生じることを期待するのは時期尚早であるが、ドイツのユニオンインベストメント、イギリスの保険大手アビバ・インベストメント、スウェーデンの運用機関ノルディア、オランダのAPGなどは、パイロット版ベンチマークの評価結果をエンゲージメント活動に活用し始めた。今後は、多岐に渡る投資家のポートフォリオ構成銘柄に対応するため、カバレッジを増やしていく必要がある。

目標5:企業がビジネスの中核として人権課題を考慮し、取り組みの改善を図る道筋を示す

 パイロット版ベンチマークや、評価結果レポート(2017年5月公開のCHRB「Key Findings 2017」)が公表されたことにより、優れた取り組みを実施している企業が明確になった。ベンチマークの対象企業、非対象企業のどちらにも、評価メソドロジー自体をガイドとして捉え、ギャップ分析や自社の取り組み向上に利用している企業がある。

 2018年度、評価対象の業種に変更はない。CHRBは2017年12月に更新した新たなメソドロジーにもとづき、大手農作物、アパレル、資源採取産業の100社を評価し、2018年11月に結果の公開を予定している。2019年に発表する予定のベンチマークでは、情報通信産業(ICT業種)が新たに評価対象になる予定である。

*UNGP Reporting Framework Investor Coalition:国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)に則り、人権課題に取り組む企業を対象とした報告ガイダンス(UNGP Reporting Framework)を支持する投資家連合

 

【関連サイト】
CHRB 「Progress Report April 2018」2018年4月(2018年6月19日情報取得)
CHRB 「Progress Report April 2018 Executive Summary」2018年4月(2018年6月19日情報取得)


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QUICK ESG研究所 後藤弘子、小松奈緒美