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本稿は、CDPのセクターレポートをQUICK ESG研究所が翻訳したものです。
 

気候変動関連指標からセメント会社の収益を考察

 本レポートは、CDPが2016年6月に公表したセメント会社の評価ランキング(以下、リーグテーブル)を更新し、内容を拡充したものである。ここでは大手上場セメント会社13社を対象に、低炭素社会への移行に向けた取組み状況をランク付けする。これら13社を合わせたセメント生産量は世界全体の15%を占めるにとどまるが、インド、欧州、米国といった主要市場で大きなシェアを確保している。世界のセメント生産量の50%は中国が占めているが、中国企業の開示情報は限られているため分析対象には含まない。  

 また2016年のレポートと比較すると、アジアのセメント会社4社―インドのACC、アンブジャ・セメント(ともにスイスに本社をおくラファージュホルシムの上場子会社)およびダルミア・バラット(Dalmia Bharat)、台湾のアジア・セメント―が新たに調査対象に加わる一方、イタリアのイタルチェメンティはドイツのハイデルベルグセメントの傘下に入ったため調査対象から外れた。

 セメント業界のエネルギー消費量はセクター別で第3位であり、二酸化炭素排出量は鉄鋼産業に次ぐ第2位で世界全体の排出量の6%を占める(国際エネルギー機関による2017年の統計)。現状ではCOP21で採択されたパリ協定に準拠しておらず、産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃より十分低く保つという目標を達成するためには環境を大幅に変える必要がある。

 セメント業界が排出する二酸化炭素の大部分は生産過程で生じる。脱炭素化に向けた主な対策として、代替となる原材料および燃料の利用が考えられるが、その方策は限定的である。また、二酸化炭素排出量の削減に有効な二酸化炭素蓄留(以下、CCS)技術の導入も進んでいないため、新製品開発の動きも活発ではない。 

 セメント会社のリーグテーブルは、2017年に公開された「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」 の最終提言に則り、以下の評価項目の結果にもとづいている。

  • 移行リスク:各社のリスクエクスポージャー(リスクの大きさ)を、二酸化炭素排出量およびエネルギー強度、財務の柔軟性、川下分野の規制リスクに基づき評価
  • 物理的リスク:各社が直面している重大な物理的リスクや水リスクのエクスポージャー、水の使用および管理状況を評価
  • 移行機会:代替する原材料および燃料、低炭素製品およびテクノロジーの利用状況をもとに、低炭素社会への移行に向けた取組み状況を評価
  • 気候変動に関するガバナンスと戦略:二酸化炭素排出量の削減目標を含めた各社のガバナンス体制のほか、ガバナンス・報酬体系と低炭素化に向けた目標との整合性を評価

主な分析結果

  • 調査対象としたセメント会社の過去4年間における排出原単位は平均で年率1%低下したが、これは2℃目標を達成するためには不十分であり、目標実現に向け低下ペースを2倍以上速める必要がある
  • 地域特有の傾向が顕著であった。例えば、インドのセメント会社のクリンカ*成分の構成比は69%と世界の他の地域の78%を下回っている。これは、インドではフライアッシュやスラグなど、クリンカの代替となる原材料を入手しやすいためである。一方、先進国では代替原材料の供給に限りがあるため利用が拡大していない。欧州のセメント会社は、フライアッシュやスラグに代わる持続可能な原材料を探すか、現行の排出原単位の改善につながる低炭素テクノロジーを開発する必要に迫られるであろう
  • セメント業界にとってCCSは低炭素化に向けた重要な技術であるが、いまだ試験段階にある。ハイデルベルグセメントはこの分野の大型プロジェクトで他を牽引する存在だが、欧州以外の地域におけるCCS関連の研究開発費は抑制されている
  • 売上高に占める研究開発費の割合は他の産業に比べて低く、ハイデルベルグセメント、太平洋セメント、ラファージュホルシムの0.6%が業界内で最高である。低炭素製品の開発はなお初期段階にあり、欧州勢が主導的役割を担っている  
  • セメント業界に適用される二酸化炭素排出規制は緩やかであり、欧州排出権取引制度(EU ETS)の下で排出枠の無償割り当てを受けられる欧州企業はメリットを受け続けている。CCSのような技術の導入を促すためには炭素価格が現在の3倍から6倍に上昇する必要がある
  • 建築関連の規制強化と低炭素化実現に向けた自治体の積極的な行動により、近隣に工場を構える企業がリスクに直面する可能性がある。本調査では資産レベルで分析を行い、リスクを評価した
  • 調査対象のセメント会社13社のうち11社は二酸化炭素排出量の削減目標を設定しているが、2℃目標の達成条件を満たしているのはこのうち3社のみである
  • 今回の調査で最も評価が高かったのはダルミア・バラット(Dalmia Bharat)、アンブジャ・セメントおよびコロンビアのセメントス・アルゴス(Cementos Argos)で、最も評価が低かったのはアジア・セメントと日本の太平洋セメントである

 *クリンカとは、セメントの原材料である石灰石などを粉砕し焼成した焼塊のこと。これを引き下げることで二酸化炭素排出量を削減できる。

 以下のリーグテーブルは、主要なセメント企業のパフォーマンスとランキングを表にしたものである。ランキングは、企業のパフォーマンスに大きな影響を及ぼしうる炭素および水関連の幅広い指標についての詳細な分析にもとづくものである。リーグテーブルは、政府によるパリ協定に向けた取組みに沿った業界の対応状況を示すためのものであり、順位の低い企業は低炭素社会への準備が不十分な企業といえる。

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出所:CDP公開資料よりQUICK ESG研究所作成
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図2:低炭素社会移行における機会とリスク

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バブルサイズ:気候変動ガバナンスと戦略におけるパフォーマンスの高さを示す。バブルが大きいほどパフォーマンスが高い

出所:CDP公開資料よりQUICK ESG研究所作成

 

【参照】
CDP「Building Pressure」2018年4月(2018年5月9日情報取得)

【関連記事】
QUICK ESG研究所「【CDPセクターレポート】Catalyst for change:変化をもたらす触媒」2018年2月5日(2018年5月9日情報取得)


堀田美和(翻訳)、QUICK ESG研究所 小松奈緒美