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本稿は、CDPのセクターレポートをQUICK ESG研究所が翻訳したものです。
 

低炭素社会に向けた取組みが進む化学企業は?

要旨:気候関連指標を化学業界の収益力に結び付ける

  本レポートは、2015年8月にCDPが公表した化学業界のリーグテーブルを更新したものである。世界の大手上場化学企業22社の気候変動への対応状況を評価し、ランキングにしている。調査対象22社の年間CO2排出量は、化学業界全体の25%にあたる2億7千6百万トンである。なお、調査対象に中国の化学企業や石油・ガス開発企業の石油化学事業は含まない。

 化学業界はエネルギーを大量消費する。中でも石油化学の年間エネルギー消費量は世界の産業全体の11%(化学業界全体では28%)、CO2排出量は世界の産業全体の13%を占める(IEA 2017)。 同時に、化学製品とその製造技術は、他業界のエネルギー効率改善および低炭素製品、また、それらの製造工程とも何らかの形で関係している。そのため、工業製品の95%は化学に依存しているといわれる(ICCA)。 

 大規模な化学プラントや複合施設は、長年にわたり年2%のエネルギー効率改善を目標としているが、既存プラントの改善率は0.5~1.5%にとどまっている。

 化学業界には石油化学専業企業、水平および垂直統合に基づいたビジネスモデルをもつ総合化学企業、食品、ヘルスケア、電気電子、自動車など幅広い最終消費財市場にサービスを提供する特殊化学企業など、様々な企業がある。

 また、多くの化学製品はあらゆる産業のバリューチェーンの様々な場面で使われる。この状況が煩雑さや透明性の欠如を助長し、監督官庁やスコープ3把握の課題となっている。

  調査対象企業22社の気候変動への対応状況は、以下4つの主要観点で評価している。これらは、G20金融安定理事会の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に連動している。

  • 移行リスク:企業の排出量強度、エネルギー強度、およびバリューチェーンにおけるスコープ3排出量に基づくエクスポージャーを評価
  • 物理リスク:水使用量や取水量とともに、水質および企業の水管理指標を評価
  • 移行機会:製品や製造工程のイノベーション、低炭素化に伴う収益、研究・開発費用および再生可能エネルギー使用量に基づき、低炭素社会に向けた進捗と戦略を評価
  • 気候変動ガバナンスと戦略:排出量削減目標および低炭素製品に関連したガバナンスと報酬体系を含む企業の管理体制を分析

主要結果

  • 化学業界は、排出量削減およびエネルギー強度面のパフォーマンスが高い。調査対象企業の多くが、排出量削減およびエネルギー効率で年間2~5%の改善率を達成し、その成果は企業の最終収益に直接寄与した

  • 短期的な改善ペースは速くないが、効率化への取組みは継続されている。野心的な目標を掲げる企業は少ないが、小さな取組みであっても業界の大きさを考えると影響力は大きい

  • 改善の積み重ねにより、今後5年から10年は対応可能かもしれないが、中長期的な炭素リスクが高いため、原料や製造工程を根底から大きく変える革新的な技術が必要だ

  • 移行リスクや物理リスクが残る一方、革新の機会もある。低炭素社会への移行を促進させ、リスクを低減する化学製品や技術は潜在的な収益機会をもたらす
  • 化学業界の売上に対する研究・開発費の割合は、他業界の約5倍である。これは、低炭素技術から収益を得るための投資が化学業界全体に広まっていることを意味している
  • 要素ごとに細分化されたデータの不足による透明性の欠如が課題である。長年にわたる国境を越えたM&Aや業界の垂直統合が、分析と規制を困難にしている
  • グローバルな化学業界においては規制が不平等になる可能性がある。欧州の化学企業は、厳しい炭素排出削減規制と高額な中長期的設備投資に直面している
  • 現在、サーキュラーエコノミー(循環型経済)促進への規制圧力は限られているが、今後、化学業界では梱包材(プラスチック)汚染に対する炭素規制が予想される。これは、自動車製造業のディーゼル規制と同様である
  • 化学業界の特性上、水の重要度はセクターごとに大きく異なる
  • 化学業界における中国の存在感は大きい。本レポートでは中国の化学企業を調査対象としていないが、近々予定されている中国の排出量取引制度(ETS)の導入計画は、調査対象企業22社における化学製品の需給に大きな影響力を持つ
  • アクゾノーベルは、多くの評価指標において他社を凌ぐパフォーマンスを示すリーダー企業である
  • 最下位は台湾プラスチックライオンデル・バセルである

 以下のリーグテーブルは、主要な化学企業の特徴を表している。企業のパフォーマンスに大きな影響を及ぼしうる炭素および水関連の幅広い指標についての詳細な分析に基づいている。リーグテーブルは、政府によるパリ協定に向けた取組みに沿った業界の対応状況を示すためのものである。順位の低い企業は低炭素社会への準備が不十分な企業といえる。

図1:リーグテーブル サマリー
リーグテーブルサマリー

出所:CDP公開資料よりQUICK ESG研究所作成

図2:低炭素社会移行における機会とリスク
バブルチャート
バブルサイズ:気候変動ガバナンスと戦略におけるパフォーマンスの高さを示す。バブルが大きいほどパフォーマンスが高い
出所:CDP公開資料よりQUICK ESG研究所作成

【参照】
CDP「Catalyst for change」2017年10月(2018年2月5日情報取得)


QUICK ESG研究所 鈴木敦史、小松奈緒美