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 欧州委員会が2016年12月に立ち上げた「サステナブル・ファイナンスについてのハイレベル専門家グループ(HLEG: High-Level Expert Group)」は2017年7月、中間報告書を発表した。報告書は、サステナブルな金融システムに向けた現状を明らかにし、提言をまとめたもので、「サステナブル・アセットの分類手法」と「グリーンボンドのEU認証」に大きな期待を寄せている。

 持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」の採択によって、持続可能な経済、社会、環境の実現に向けて資金フローを適合させるというグローバル・コンセンサスは決定的となった。米国がパリ協定からの離脱を表明したとしても、この流れに変わりはない。

 公的、民間を問わず、この取組みのカギを握るのは金融セクターである。しかし、経済、社会、環境の観点から真に持続可能性(サステナビリティ)を実現するためには、金融システムのリエンジニアリングを深堀することが必要となる。

 欧州委員会が2016年12月に立ち上げたHLEGはこの課題に取り組んでおり、サステナブル・ファイナンスに関するEUの包括的な戦略を策定し、EUの金融政策にサステナビリティを組み入れることを目指している。

 EUにおいて、サステナブル・ファイナンスとは、「より良い発展(better development)」と「より良い金融(better finance)」の2つを意味する。前者は、経済、社会、環境のそれぞれの側面での持続的な発展を、後者は、重大なESG要因とともに、より長期にフォーカスした金融システムである。

 これに呼応し、サステナブル・ファイナンスは二重の責務を負う。1つは、金融システムの安定と資産評価を強化することである。これは、ESG要因を含む長期の重大リスクと価値創造の無形要因の評価と管理を改善することによってもたらされる。もう1つは、持続可能で包摂的な成長に向けた金融セクターの寄与度を高めることだ。具体的には、イノベーションやインフラといった長期的なニーズに資金を提供すること、低炭素、高資源効率の経済へのシフトを加速することである。

 その先にはさらに、安定的でかつ長期にわたって教育、経済、社会課題に対応しうる金融システムの構築がある[図]。

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図 EUサステナブル・ファイナンスの3つの定義
出所:High-Level Expert Group on Sustainable Finance「FINANCING A SUSTAINABLE EUROPEAN ECONOMY」2017年7月(2017年11月1日情報取得)

 その道のりは、金融それ自身から始まるのではない。最初のステップは、サステナブルな経済モデルの理想像を描きだすことにある。第2のステップは、経済を理想的なモデルへ転換することに向けて金融がどれだけ変化する必要があるかを見極めることである。これは、金融市場におけるプラクティス、行動規範、振る舞いの変化だけではなく、政策、金融規制の調整をも意味する。

 EUはこれまで、低炭素、高資源効率、高度循環型経済というサステナブルな経済モデルを発展させてきた。それらは、質の高い雇用、技術イノベーション、持続的成長に特徴づけられる。また、金融危機後の改革によって金融システムの安定化を達成した。次なる課題は、持続可能な発展への金融システムの寄与度を向上させることにある。
 このためにまず、全てのマーケット参加者の投資文化や振る舞いを変えることに注力する。特に問題視するのが超短期指向の金融行動である。サステナブル・プロジェクトに資金が流れていること、長期目標の達成に向かっていることを確認する必要がある。サステナブル・プロダクトを推奨し、選択するためのインセンティブも重要となる。

 HLEGは2017年7月、中間報告書を発表し、サステナブル・ファイナンスの実現にむけた提言案をまとめている[表]。

No. 提言案
1 サステナブル・アセットの分類手法を策定する
2 グリーンボンドや他のサステナブル・アセットに関するEU認証を制定する 
3 受託者責任にサステナビリティを明確に盛り込む 
4 ESGに関する報告要件を厳格化する 
5 EUの金融規制に「サステナビリティ・テスト」を導入する 
6 「サステナブル・インフラ・ヨーロッパ」を創設し、サステナブル・プロジェクトに資金を呼び込む
7 ESG関連リスクの評価における欧州監督機構(ESAs: European Supervisory Authorities)の役割を強化する
8 適切な会計基準を採用することで、エネルギー効率をテーマとする投資への制約を取り払う

表 HLEGのまとめた8つの提言案
出所:High-Level Expert Group on Sustainable Finance「FINANCING A SUSTAINABLE EUROPEAN ECONOMY」2017年7月(2017年11月1日情報取得)を基に筆者翻訳

 とりわけ大きな期待がかかるのは、「『サステナブル・アセットの分類手法』と『グリーンボンドのEU認証』」(欧州委員会副委員長兼ユーロ・社会的対話担当委員兼金融安定・金融サービス・資本市場同盟担当委員 ヴァルディス・ドンブロウスキス氏、欧州委員会副委員長兼雇用・成長・投資・競争力担当委員ユルキ・カタイネン氏)である。
 サステナブル・アセットの分類手法で合意が得られれば、投資家マインドが改善し、企業はどの資産がサステナブル投資の対象として適格なのか判断しやすくなる。
 共通語として確立するためには、マーケット参加者が、EU分類を投資プロセス・ガイドラインおよびプロダクト評価・プロダクト評価プロセス基準に組み入れ、適用していくことも求められる。特に、グリーンボンドに関する欧州基準の制定は、EUグリーンボンド市場の最大限の可能性を発揮することにつながろう。
 一方でEUは、サステナブルな金融プロダクトの開発を推進することが望ましい。サステナブルなインフラとなる新しい公的リスク保証やサステナブルな成果をもたらすテクノロジーを使ったサステナブルな新しい金融プロダクト、サービスの開発支援、グリーンボンド、ソーシャルボンド市場の発展を支援する必要があるだろう。

 HLEGは今後、インベストメント・チェーン、レンディング・チェーンの主要参加者とのエンゲージメントを経て、2017年12月に最終報告書をまとめる予定だ。
 

【関連資料】
High-Level Expert Group on Sustainable Finance「FINANCING A SUSTAINABLE EUROPEAN ECONOMY」2017年7月(2017年11月1日情報取得)


QUICK ESG研究所 中村 友亮