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 2017年8月16日、オーストラリアのマイケル・キーナン法務大臣は、同国の産業界が現代版奴隷問題に適切に対応することを目的とした法制定に向け、概要案(「Modern slavery in supply chains reporting requirement」)を公表し諮問を開始した。

 国際労働機関(International Labour Organization、ILO)、国際移住機関(International Organization for Migration、IOM)および人身売買や奴隷撲滅を目指すオーストラリアのNGOであるウォーク・フリー・ファウンデーション(Walk Free Foundation、WFF)は、48か国を対象にした最新の調査結果「Global estimates of modern slavery: Forced labour and forced marriage 2017(現代奴隷のグローバル推計:強制労働と強制結婚)」を公開した。本調査によると、2016年現在、奴隷状態にある人は世界で約4,030万人に及ぶ。また、地域毎の奴隷状態にある人の割合はアフリカが最も高く1,000人に7.6人、続いてオーストラリアを含むアジア太平洋地域が1,000人に6.1人となっている[1]。

 欧米ではすでに人身売買や強制労働、人権の侵害といった奴隷的労働に対処するため、サプライチェーンの透明性の向上を目的とした報告の義務付けなど、法規制の動きが出ている。

 アメリカのカリフォルニア州では2012年に、同州で事業を営む一定以上の規模を有する製造業者及び小売業者に対し、サプライチェーンの確認方法及びサプライチェーンにおいて人身売買及び奴隷的労働が行われているリスク等の開示を求める「カリフォルニア州サプライチェーン透明法(SB 657)」が施行された[2]

 イギリスでは2015年に、自国内で事業を営む一定の要件を満たす企業に対して奴隷・人身売買に関する情報開示を要請する「英国現代奴隷法(Modern Slavery Act 2015)」が制定され、ステートメントを開示する日本企業も出てきている[3]

 フランスでは2017年2月に、国内で5000人超の従業員または全世界で10,000人超の従業員を直接/間接的に雇用し、国内に本社機構をもつ企業に対し、自社及びサプライチェーンの事業活動を対象に人権や環境等への影響に関するデューデリジェンスを実施することを義務付ける法律が成立した。違反が判明した場合には€1,000万のペナルティが課される[4]

 オランダでも、企業に対してサプライチェーンにおける児童労働の特定と対応を求める法律の制定に向けた動きがある。

 オーストラリア政府は、法的拘束力をもったオーストラリア版現代奴隷法の制定を目指している。概要案では、国内でビジネスを運営する大手企業に対し、年次で自社及びサプライチェーンにおける奴隷労働に関する方針と取組み内容を開示することを求めている。開示項目としては英国版現代奴隷法で定められたものを参照し、最低限、以下の項目を開示しなければならない。

 1. 組織の構造と事業内容及びサプライチェーン
 2. 自社の事業とサプライチェーンが抱える奴隷労働リスク
 3. 奴隷労働に関連する方針や規定、従業員研修やサプライヤーとの契約の取組みおよびそれらのプロセスの有効性
 4. デューデリジェンスと有効性

 さらに、開示に際しては取締役会による承認および取締役の署名が必要になる。開示情報は、各社のウェブサイトおよび、報告要請に基づいて開示されたステートメントを蓄積する、セントラル・レポジトリと呼ばれるサイトへの掲載を求める予定である。また、開示要求の対象となる業種はリスクの高い特定の業種に限定されることなく、広範な業種が想定されている。なおオーストラリア政府は、詳細なガイダンスを後日公開するとしている。

 一方、今回公開された概要案に懸念を示す人権NGOが存在する。アメリカに拠点を置く国際NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチは、以下の点を指摘している。

  • オーストラリア版現代奴隷法はデューデリジェンスに関する情報開示を求めているものの、デューデリジェンスの強制力はなく開示要求を満たさない企業に対するペナルティもないことから、本法律の有効性に懸念が残る
  • 概要案によると、法律が適用される企業は売上高がAU$1億(約88億円、AUD1=JPY88)以上の大企業を予定しており、深刻な人権問題が懸念される企業や業種への考慮が十分でない(英国版現代奴隷法では、売上高が£3,600万(約50億円、1£=JPY138)を超える企業が対象となっている)
  • オーストラリア政府自身が自らの調達先企業に対して、情報開示を義務付けしていない[5]

 オーストラリア政府は、今回公表した概要案に対する諮問を10月20日まで実施する予定であり、2018年上期中に法案(草案)を開示する見込みである。

 

※2017年10月5日 リンクの表記等、一部を修正しました。


【関連資料】

Attorney-General's Department (Australian Government)
Modern slavery in supply chains reporting requirement」(2017年10月4日情報取得)

[1] alliance87「Global estimates of modern slavery: forced labour and forced marriage 2017」(2017年10月4日情報取得)
[2] State of California - Department of Justice - Office of the Attorney General 「The California Transparency in Supply Chains Act」(2017年10月4日情報取得)
[3] QUICK ESG研究所「【水口教授のヨーロッパ通信】現代奴隷法 - サプライチェーンの人権リスク -」(2017年10月4日情報取得)
[4] SupplyChainDIVE「France passes law requiring supply chain due diligence」(2017年10月4日情報取得)
[5] HUMAN RIGHTS WATCH「Australia’s ‘Modern Slavery’ Proposal Falls Short」(2017年10月4日情報取得)


QUICK ESG研究所 小松 奈緒美