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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳したものです。

ABP年金基金、ホセ・メイヤー氏

RIは、ワーカーズキャピタル委員会※(Committee on Workers Capital: CWC)と提携し、所属する企業の労働組合を通じて、その企業の年金基金において責任投資に積極的な理事を推薦してもらい、一連のインタビュー内容を公表することにした。このインタビューシリーズの第一弾は、382億ユーロを運用するオランダ年金基金(Pensioenfonds ABP、以下ABP)の理事会副会長、ホセ・メイヤー(José Meijer)氏である。

※ワーカーズキャピタル委員会(CWC)とは、ワーカーズキャピタルの責任投資に関するエンゲージメントと行動のための国際労働組合ネットワークのことである。世界25カ国から300人以上の参加者を抱えている。

 ABPについて

 ABPは、受益者290万人を抱える、オランダの公務員及び教育関係者向け年金基金である。世界最大の年金基金の1つであり、責任投資のリーダーでもある。ABP理事会は、従業員、雇用主、退職者を代表する13人のメンバーで構成されている。

  • 独立理事長 1名
  • 従業員を代表する理事 4名
  • 雇用主を代表する理事 5名
  • 年金受給者を代表する理事 3名

 理事会を支えるABP執行部には約40人のスタッフが所属しており、ABPの資産はオランダの運用会社であるAPGアセットマネジメント(以下、APG)が管理している。APGはABPの子会社に当たり、ABPが株式の92%を保有している。APGの主要顧客はABPであるが、他にもオランダの複数の年金基金の資産を管理しており、資産の80%をインハウス運用、一部は外部委託(プライベート・エクイティ、インフラストラクチャ―投資など)している。また、APGは、企業や公共政策に対するエンゲージメントなど、ABPの責任投資方針を実施している。ABPの使命は、現在および将来にわたり、責任投資を通じて確実な年金を受益者に提供することである。

何故、年金基金の理事に関心を持ったのか?

 理事という仕事は、退職後の人々の生活を支えるための資産運用を委任されており、とてもやりがいがある。年金基金の運営を通して、受益者に何が起こっているのか、広く一般的に言えば、社会で何が起きているのかを最前線に立って目の当たりにすることができる。通常、理事は年金や団体交渉における経験および知識を有する人が選出され、オランダ中央銀行の審査に通る必要があるが、私は労働組合兼雇用主であるオランダ労働組合連盟(FNV)からABP理事に任命された。

 ESGや責任投資に関する理事会の決断は、どのように受益者の価値観を反映するのか?

 2015年に発表された新たな責任投資方針は、受益者やステークホルダーとの定期的な情報交換を義務付けている。APGは年金の制度管理に関連するコミュニケーションを担い、ABPは受益者に対する調査や理事会による受益者との直接対話を通じて、情報交換している。オランダの巨大年金基金として、責任投資に関する全ての議論に関わり、受益者と定期的に連絡を取り合うことで、彼らが何を望み、何を考え、何を期待しているのかを理解することが重要と考えている。

意思決定の際に、受益者の価値観や自身の価値観と、財務的利益を生み出す必要性とを、どのように調和しているのか?

 新方針の下では、受益者が望むもの、理事会の考え、ESG基準、そして受益者利益の調和が保たれるため、私自身が対処する必要はない。しかし、全ての決定事項において、リスク、リターン、ABPのコストおよびESG要因が考慮されていなければならない。ESG基準、国際的規範、条約、イニシアチブ(国連グローバルコンパクト(UNGC)など)およびオランダにおける規制は、基金の責任投資方針に反映されている。新方針では、サステナビリティという名目のもとで利益を妥協することはしない、と受益者にコミットしている。サステナビリティと収益は一体化されているのだ。

理事会の方針策定にあたり、ESGや責任投資を考慮する手助けとなる要素および制約要素は何か?

 受益者からの圧力、理事会メンバー共通の信念、そしてAPG内部の運用部門からの支持など、多くの要素が基金の方針策定に影響している。オランダ年金基金連盟が優れた年金基金統治規範を策定し、オランダの法律の一環となっていることも手助けとなる重要な要素の1つである。この規範では、年金基金による責任投資方針の策定が求められ、これを遵守しない場合には、理由説明が必要となる。制約要素としては、全ての受益者が責任投資を支持するわけではなく、年金の安定性のみに関心のある人がいるということである。私たちは受益者に、責任投資を行うことで財務的収益を失うことはないと伝えており、このことを継続的にモニタリングしている。

労働組合指名の理事として、ESG課題に対する労働組合の要求にどのように対処しているか?

 通常、理事会では個々の投資について議論しないため、労働組合からESG課題に関する要求を受けた場合には、対応策が複雑化する可能性がある。労働組合の指名を受けた理事としては、ESGの「S」、つまり社会に焦点をあてた1~2件のキャンペーンに絞ってもらえるとありがたい。また、様々な企業に影響を及ぼすような広範囲な課題について要求するよりは、企業単位で行動を求めてもらった方が、労働組合にとって賢明であると考える。例えば、ココアやコバルトのような課題についての行動を求められた場合、複数企業を対象にすることは、一企業に働きかけるのに比べて、対応が複雑になってしまう。私が理事として労働組合から行動要求を受けた際には、必ずしも理事会に持ち込むというわけではなく、ABPのスタッフと相談し、彼らとAPGのスタッフとで、対応策を話し合ってもらっている。

理事会で議論した中で、最も印象に残っているESG課題は?

 2014年に実行したイスラエルの銀行からの投資引き上げ(ダイベストメント)に関する議論である。受益者からの多数の手紙や、Avaaz(政治的汚職や貧困、紛争、気候変動問題に対してキャンペーン活動を行うNGO)からも170万人が署名したオンラインの嘆願書を受け、持ち株の売却を要求された。一方、投資継続を求めるグループからの圧力もあり、理事会でこの問題について話し合った。複雑で意見の相違も多く、受益者と社会からの圧力、運用部門の見解、ABPに対する評判リスク、イスラエルの銀行による人権侵害疑惑の信ぴょう性など、全てを考慮する必要があった。

この問題に取り組む際に直面した課題は?

 最大の課題は、受益者の意見の間に隔たりがあったことである。ABP理事会が行うべきこととして101もの意見が挙がった。受益者からも数多くの意見がよせられ、ABPの執行部門とAPGとが協力して対応していたが、ある時点で限界に達してしまった。

 この課題をどのように解決したか?

 経験上、このような状況においては、包み隠さず率直に対応することが重要と学んでいたので、同僚に対し、イスラエルの銀行への投資について批判的な意見への対応に自信がなく、不安を抱えていることを伝えた。この経験は責任投資方針の改定にあたり、教訓となり、新方針の実行には5年間の猶予を設け、様々な産業部門がどのように新方針に適合するかレビューしている。同行への投資と新方針が適合するかの判断は2018年以降になる。

 投資に対する考え方を確立するためには、明確な方針を策定する必要がある。理事として、投資判断に責任を負うが、私自身が全ての投資判断を下すわけではない。方針を策定し、基金の資産運用部門がその方針に従って投資判断するため、新方針を策定する際には、同一の基準で全業種を評価できるような枠組みを設定することが重要であった。新方針では、リスク、リターン、コスト、ESGを総合的に評価することが可能である。また、場合によっては、他と比べて評判リスクが高くなる業種があるため、業種を評価する際のESG要素の1つにABPの評判リスクも含めている。よって、新方針は、より堅実な投資判断に役立つものと確信している。また、受益者に対して決定事項を説明しやすくなる。

年金基金の理事会が直面している新たなESG課題とは?

 ABPは、EとGについては優れた方針を掲げているが、Sについては対応が遅れている。重要な社会的課題としては、労働の不安定さや結社の自由、団体交渉などが挙げられる。例えば、オランダの柔軟な労働契約が問題になっている。また不動産業界で働く従業員に生活賃金(最低限の生活水準を維持するための賃金水準)が払われていないことも、理事会が取り組むべき重要な課題の1つである。情報の信頼性など、様々な問題が、これらの課題を複雑化している。ABPは、評判リスクを抑えるために、APGに対して問題提起後24時間以内に概要報告を求めることを考案している。投資に関する評判リスクは、APGではなく、資産を保有するABPにあるため、迅速な対応能力を備えたい。組合は社会的課題に対応しなければ十分な仕事をしているとは言えず、評判リスクに影響する。しかし、資産保有者と運用部門については必ずしも影響するとは限らず、「S」を適切に考慮することが評判リスクに繋がるとは考えないのが現状である。そのため、目下の最大課題は、投資における社会的なリスク要因をEとGと同等に扱うことである。

年金基金の理事で、ESG方針改善に関心の高い方への助言は?

 情報を交換し、課題について共に話し合いましょう。

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【関連ページ】
https://www.responsible-investor.com/home/article/cwc_abp_interview/ (執筆日:2017年5月31日)


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