シュローダー・インベストメント・マネジメントの画像

 英国系のシュローダー・グループは、早くからESG要素を運用プロセスに取り込んできた。同グループは、古くは1870年の日本初の鉄道敷設の資金調達にも貢献し、日本経済の発展に関わってきた。インタビューの前半では、同グループのESGへの取り組みについて、来日したシュローダー(英国)のジェシカ・グランド氏に話を聞いた。ジェシカ氏はESG活動の透明性の重視、ESGインテグレーションへの取り組みや協働エンゲージメントの有効性について語り、ESG課題の評価機関であるVigeo EIRISとの長期間にわたる友好関係についても触れた。

 後半では、シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社(以下、日本法人)の豊田一弘運用部日本株式チームファンドマネジャーと荒井卓運用部日本株式プロダクト担当部長に、日本法人のESG投資に対する取り組みを聞いた。豊田氏は同社の議決権行使やエンゲージメントの司令塔である「コーポレートガバナンス委員会」の責任者を務めている。

ジェシカ氏の画像(写真)ジェシカ・グランド氏

<前半>シュローダー(英国)のジェシカ・グランド氏

 シュローダー・グループは、ESG投資を含む責任投資(responsible investment)を20年ほど前に取り入れた。その長い歴史の中でもここ10年間は、ESG投資への取り組みをさらに強化している。多くを学びながら、時には失敗も経験することで、2015年には責任投資実施状況に関する国連責任投資原則(PRI)の評価で最高評価のA+のレーティングを得るに至った。このレーティングを維持するためにも、今後一層ESG投資への取り組みを拡充していきたい。

 ESGチームは現在10名体制であり、チームの一番の目的は、ESG要素を運用プロセスに組み込んだ運用手法「ESGインテグレーション」により、企業の持続的成長を評価し、長期的なリターンの向上を追求することだ。そのために、当社はエンゲージメントを重視している。エンゲージメントの目的は、企業に、自社がESG課題を抱えていることに気付かせ、それらの課題や変化を成長機会に転換できるよう、促すことだ。このような活動が、企業の長期的な持続的成長につながると考える。また、ESGチームは投資家のために、ESG要素が投資にインパクトを与えるのか理解できるよう、サポートしている。そのために、ESGチームのスペシャリストは各業種を担当し、専門性を高めている。水不足を例にとると、社会全般に与える影響だけではなく、飲料業界におけるインパクトも分析している。

 現在、ESGチームは、3つのテーマにフォーカスしている。1つ目は企業とのエンゲージメントである。ESGチームは、2015年には世界33カ国で合計500社※とESG課題についてエンゲージメントを行い、5,000社※を超す株主総会で議決権を行使した。2つ目はESGインテグレーションの促進である。3つ目は投資家のニーズに沿った商品を組成することだ。(※ ESG 専任チームによる実績であり、他の国・地域の現地運用部門の実績は含まれません。)

 当グループのESG投資の取り組みは、非常に高いレベルの透明性を追求し、顧客からの説明要望に応えるため、活動内容に関するレポーティングを強化し、年次報告書だけでなく、四半期ベースでも活動を報告している。顧客向け専用レポートには企業とのエンゲージメント活動について、より詳細な情報を盛り込んでいる。

シュローダー・グループのESGの取り組みの画像図1. 出所:シュローダー日本法人

ESGインテグレーション

 当社は、企業が発信するESG情報が飛躍的に増大していると日々感じている(10年前と比較すると約6倍の情報量に匹敵する)。そのため、情報をどのように体系化し、投資判断に使っていくかが重要となる。

 ESGスペシャリストにとって、担当業種で最も重要なESG課題が何かを理解するのが肝心だ。そのため、シュローダーグループでは、約170の産業サブグループに特化した各種指標や評価基準などをアナリストやファンドマネジャーに提供している。そういったESGの最新動向に関する幅広い情報は、バリュエーションの評価やリスク分析に役立てられる。

 データベース提供者として、Vigeo EIRISとも長期的な関係を築いている。Vigeo EIRISは評価メソドロジーの透明性だけではなく、注目される論争点を洗い出すことにも長けていると考える。

エンゲージメント(企業との建設的な対話)

 投資家は企業への単なる資金提供者だけではなく、企業に長く寄り添い、責任あるオーナーであることも重要だ。エンゲージメント活動の半分は事実を探り、より多くの情報を引き出すことにある。残りの半分は、ビジネスリスクを最小化するための取り組みだ。

 環境に関するエンゲージメントを例にとると、企業の計画がどのくらい耐久性があるか、様々な国の新たな環境関連の法令についてどのような前提を置いているか、企業の事業計画について非常に深く調査し、対象企業と対話する。

 エンゲージメントの数は着実に増えており(図3)、最近はその中でも協働エンゲージメントの増加が顕著だ。当社は、協働エンゲージメントにおいては、誰と一緒にエンゲージメントするかを重視する。ロンドンは、投資家が一堂に会し、ベストプラクティスを議論する場に恵まれている。このため、投資家同士のミーティングを通じて、誰と協働でエンゲージメントするか決めることができる。

ESGチーム(ロンドン本社)のエンゲージメント図2. 出所:シュローダー・グループ(2015年12月末時点)

協働エンゲージメントが増加している理由は、単独の投資家だけがM&Aや役員選任などの事項を懸念しているわけではないと、企業に気づいてもらえるからだ。企業が変化を起こそうとしないケースもあるが、投資家が今後の見通しを明確に企業に伝えることができれば、変化を促す一助になる。鉱山関連や、PRIのプラットフォームでの人権に関するエンゲージメントなど、環境、社会の課題についても協働エンゲージメントを行っている。

 日本では現在、協働エンゲージメントは行われていないが、監督当局や規制の変化に注目している。

 シュローダーの特長は、エンゲージメントの開示にある。当社は、ESG活動の透明性への期待は高まっていると考えており、ロンドンの主要企業の議決権行使では、なぜ当社が議案に反対しているか、企業に対して明確に理由を説明している。

アセットオーナーとの関係

 米国、英国の大規模なアセットオーナーと公的年金基金は、小規模なアセットオーナーと比較して、ESGに高い関心を持っている。大規模なアセットオーナーは、各種規制に沿ってESG投資をするためのリソースを有しているからだ。アセットオーナーがESG投資で重視するのは、5年から10年後の長期的な収益を得られるようになることだ。このため、ESG課題に関心を持つアセットオーナーと共に取り組み、アセットオーナーのニーズを投資戦略に盛り込んだ例もある。

今後の方向性と、日本へのメッセージ

 私達は近年、アセットオーナー側の変化を感じている。以前は、「ESGを実践しているか」と問われるだけだったが、今は「ESGをどのように実践しているか見せてもらいたい」というように変わってきた。アセットオーナーはESGの付加価値を知りたがっている。

 そのため、当グループではエンゲージメントの透明性などを一層高めたいと考えている。また、ESG投資を強化した運用戦略の設定も増やしていきたい。さらに近年、株式だけではなく、債券運用におけるESGインテグレーションにも力を入れている

<後半>シュローダー日本法人の豊田氏、荒井氏

 日本法人のESGへのアプローチとスチュワードシップ活動の特徴として、次のような点があげられる。

◆議決権行使とエンゲージメントは長期的な企業価値向上への寄与を目的とし、投資活動の重要な柱との位置付けている

◆議決権行使の基本原則に、「環境問題や社会問題に一定の配慮をしつつ経営されている質の高い企業は、競争に勝ち残り且つ株主にとり長期的な便益を提供する可能性が高い」と明記し、サステナブル・グロース(持続的な成長)を重視している

◆ESGの要素は定性スコアの一部として、株価のフェアバリュー(適正株価)を算出する際に考慮。定性評価項目には「経営の質」や「株主重視の姿勢」など非財務のESG要素の他、バランスシートの健全性といった財務情報などを含む

◆2016年6月に、「シュローダー・アジアパシフィック・エクセレント・カンパニーズ」を設定。ESGの観点での定性評価にフォーカスした銘柄を選択している

豊田氏、荒井氏の画像(写真)向かって左から、豊田氏、荒井氏

質問

ESG情報の具体的な投資への活用

(Q)責任投資において、ESG情報ならびに非財務情報について、その活用方法を教えてください。その中で、企業の経営戦略・理念、ESG・非財務情報全般などの区別と分類が明確になっていますか。財務情報と関連付けした活用(インテグレーション)などについて、具体的にその内容を教えて下さい。

(A)日本法人の日本株運用では、12名のアナリスト全員が担当企業について、フェアバリュー算出の際にESGの要素を取り入れて評価している。対象銘柄は、日本株市場で時価総額上位約400銘柄の大型株100銘柄と中型株300銘柄、小型株の調査ユニバースは500銘柄程度だ。

 日本法人の特徴は、リサーチの段階で、ESGの要素を投資対象企業の株価フェアバリュー(適正株価)の算出に適用している点にある。ESGの要素は定性評価項目の一部を成し、図3の「経営の質」、「株主重視の姿勢」のカテゴリーに含まれ、職場環境、離職率、法令順守の姿勢、少数株主利益重視の姿勢などを評価する。ESGの要素の他に、定性評価項目として「成長性」、「収益の質」、「財務内容」などを分析する。

 具体的には、投資対象企業の担当アナリストが3年後の一株利益を推計し、それを基に算出した株価に対し、さらに定性評価スコアをつけ、プレミアム/ディスカウントという形で増減させた値をフェアバリューとしている。定性評価スコア次第で、プレミアム/ディスカウントの割合は±50%程度になる場合もある。

 このようにESGの要素は定性評価項目の全てというわけではないが、重要な部分を占めている。表に示したフェアバリュー算出の仕組みはESGという言葉が無かった時から大枠は変わっておらず、アナリストは、以前からESGの要素を評価していたことになる。

 プレミアム/ディスカウントの幅は、銘柄のファンドへの組み入れに責任を持つファンドマネージャーとアナリストが個々の銘柄についてディスカッションする際に議論する。例えば、ガバナンスに関するディスカウント率が大きい場合は、ガバナンスにリスクがあることを認識した上での投資判断ということになる。

 外部評価機関のESG評価は参考にしているが、あくまでESG要因を含むアナリストの定性評価を独自に行っている。

リサーチの画像図3. 出所:シュローダー日本法人
※上記に示す評価基準は、あくまでもシュローダーが考える独自の基準であり、必ずしも一般的なものであるとは限りません。

エンゲージメントなどの対応

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、企業とのエンゲージメント(目的を持った対話)をどのように実践していますか。具体的な内容をできれば事例に即して教えてください。

(A)日本版スチュワードシップ・コードの前後で一番変化したのが、エンゲージメントだ。日本法人では2015年1月に、議決権行使とエンゲージメントを主導する新たな組織として「コーポレートガバナンス委員会」を立ち上げた。以前はファンドマネージャーやアナリストが個別に企業と対話していたが、現在は当委員会が中心となり組織的にエンゲージメントを行っている。

 エンゲージメントの対象企業は、財務戦略の面で課題を有する企業、あるいは経営課題を抱えた企業など、アナリスト、ファンドマネージャーが推薦した企業の中から、エンゲージメントで改善の余地がある企業を現在では10社ほど選定している。実際に対話の相手となるのは、トップマネジメントを含む経営陣、場合によっては社外取締役とのミーティングも行っている。

 対話の内容は、社外取締役の活動状況や株主還元策などガバナンス(G)に関わる点が多く、企業価値に直結するテーマとなっている。最近の事例を2つ挙げると、1つ目はバランスシートの効率性に課題が残る企業に株主還元策を推奨した例だ。ある企業は成長が鈍化していて、既存の配当政策を続けると、内部留保が過度に大きくなり、ROEが低下する可能性が高かった。このようなケースを避けるため、より高い配当性向を目指すべきだとすすめた。

 2つ目は、ディスクロージャーだ。特定の分野における開示が不足しており、本来市場で評価されるべき価値が評価されていなかったことから、積極的なディスクローズを推奨した。この企業からは、取締役会で長期投資家の意見としてシェアするため、意見を文章にして欲しいとの要望を受け、レターとして弊社の見方をまとめた。

 今後は、英国で議論されている環境(G)や社会(S)面でのエンゲージメントも議題になっていくと感じている。特に社会(S)に対するエンゲージメントに注目しており、企業が従業員の生産性を高める取り組みができているかどうかが重要になってくると見ている。例えば、離職率が高く、リテンションに大きなコストがかかる企業については、サステナブル・グロースと言う意味でリスクを有しており、エンゲージメントのテーマになりうる。

議決権行使基準

(Q)責任投資において、日本版スチュワードシップ・コード受け入れへの対応、特に、議決権行使に関する実践方法を教えてください。

(A)日本法人の議決権行使[3]に対する方針は、2015年1月に「議決権行使委員会」から「コーポレートガバナンス委員会」に組織変更した時に、委員会メンバーを3名から4名に増員した点以外は、変わっていない。特に強調したいのは、ESGの要素を適切に取り扱うことが長期的な企業価値増大につながるという考え方を議決権行使基準に明記していることだ。基本原則において「環境問題や社会問題に一定の配慮をしつつ経営されている質の高い企業は、競争に勝ち残り且つ株主にとり長期的な便益を提供する可能性が高い」と明記している。

 議決権行使においても、ESGの要素は重視している。例えば、社会(S)面の要素において、法令違反により企業価値にマイナスとなる事象が発生した場合、取締役選任の議案に反対する、などだ。

 また日本法人では、議案に対して一律な数値基準で反対しないようにしている。例えば、社外取締役の取締役会への出席率が75%に満たない場合、選任反対を検討するが、何か特別な事情があるのかどうか、今後対策を練っているかどうかなど、企業とコンタクトをとった上で最終的に判断している。

 議案の賛否判断は議決権行使に関わるガイドラインに沿って行うが、精査が必要と判断されるものについては、コーポレートガバナンス委員会での協議を経て最終決定する。

具体的なファンドの事例

(Q)責任投資をキーワードに掲げて運用しているファンドにはどのようなものがあり、その運用資産規模、アセットオーナーの属性(年金基金、金融機関の資産運用、事業法人の資産運用など)、リスクとリターン特性を教えてください。

(A)日本法人が手掛けている日本株アクティブ運用は、個人向けファンドや内外の年金基金向けの運用戦略を中心に構成している。

 こうした中、満を持して、2016年6月に、ESGの要素をより重視して銘柄選択を行う個人向け公募投資信託の「シュローダー・アジアパシフィック・エクセレント・カンパニーズ」を設定した。全体の約4割を日本株が占め、日本法人が日本株運用を担っている。残りの6割はアジア・オセアニア株で、シュローダーの他法人が運用する。

 「シュローダー・アジアパシフィック・エクセレント・カンパニーズ」は、ESGの観点をより重視した銘柄選択を行うのが特色で、組み入れ上位の10番目には日本企業のブリヂストンが入っている(2016年8月末時点)。ブリヂストンは特にSやGの観点で、株主還元の積極化が期待できること、社外取締役が過半を占める取締役会構成、投資家との積極的な対話の姿勢、女性登用などダイバーシティ重視の経営スタンスを評価した。

「エクセレント・カンパニー」を厳選する視点お画像図4. 出所:シュローダー日本法人
※上記に示す評価基準は、あくまでもシュローダーが考える独自の基準であり、必ずしも一般的なものであるとは限りません。

今後の方向性、その他

(Q)他に、責任投資に関し、何か独自の取り組みや考え方がありますか。貴社からのメッセージがありますか。

(A)長期投資、企業の持続的成長の観点での投資判断にはESGの各要素を正しく評価することが不可欠だ。日本法人は、投資をする際に中長期的に「経営の質」を重視し、サステナブル・グロースを実現できる企業に投資したいと考えている。現段階では英国に比べ、ガバナンスにより焦点を置いているが、今後、投資先企業との対話のテーマもEやSに広がることが見込まれる。企業を取り巻く様々なリスクを把握し、適切に対応するという観点から今後もESGの切り口は有効なアプローチを提供すると考えている。具体的には、人手不足の状況化下での労働生産性向上に向けた取組みや環境規制の強化に対応した経営戦略の策定などである。

[1] 日本版スチュワードシップ・コードについて
http://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/about-schroders/stewardshipcode/

[2] Responsible Investment Report
http://www.schroders.com/en/SysGlobalAssets/staticfiles/schroders/sites/global/pdf/2015ri.pdf

[3]議決権行使
http://www.schroders.com/ja-jp/jp/asset-management/about-schroders/proxy-voting/

■プロファイル(会社概要)
シュローダー・グループは1804年の創業以来、200年以上にわたり、英ロンドンを本拠地として英国屈指の資産運用会社としての地位を築き上げた。現在、27カ国37拠点(2016年12月末時点)に営業・運用の拠点を据えている。日本との関わりは、1870年に遡り、日本初の鉄道(新橋・横浜間)敷設の資金調達や関東大震災後の経済復興を手掛けた。東京に事務所を開設したのは1974年である。

■PRI Public Transparency Report 2014/15
https://reporting.unpri.org/surveys/PRI-Reporting-Framework-2016/6a23ed84-6bbf-4416-9d0b-6c49f63bc9ac/79894dbc337a40828d895f9402aa63de/html/2/?lang=&a=1

■運用資産の概要
シュローダー・グループ全体の運用資産総額:3,860億英ポンド(56兆円)(2016年12月末時点)。1英ポンド=144.12円換算約56兆円

■取材日:
シュローダー(英国)、2016年10月12日(聞き手:松川恵美、鈴木敦史、真中克明)
日本法人、2016年8月30日 (聞き手:高瀬浩、真中克明)


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