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 本稿は、レスポンシブル・インベスター(RI)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が閉幕した11月13日、アロック・シャルマ(Alok Sharma)議長が涙ながらに声を詰まらせる映像が流れた。

 成果文書「グラスゴー気候協定」に盛り込まれた石炭使用の「段階的な廃止」という表現が土壇場で「段階的な削減」へと後退したことについて、前国務大臣であるシャルマ議長は「このような終わり方になったことを本当申し訳なく思い、各国代表に謝りたい」と述べた。

 その後シャルマ議長は、昼夜を問わず過酷な協議を重ねる日々が続いたことによる寝不足でつい感情的なコメントを発してしまったと弁解した上で、グラスゴー気候協定は「歴史的な成果」であると主張した。だが、パリ協定が採択された6年前のCOP21とは全く異なるムードになったことは否めない。当時の潘基文(バン・キムン)国連事務総長はCOP21閉幕時のスピーチで、「私たちは子供や孫の目を見つめ、彼らや将来の世代のためにより暮らしやすい世界を残すため、手を携えて取り組んだとようやく語れるようになった」と述べた。

 この2週間でどれほどの前進があったのだろうか。2015年の祭典以降、準備を続けてきた民間部門のすべてのプレーヤーにとって、それは何を意味するのだろうか。

 パリ協定に署名した196ヵ国が採決した今回の協定により、世界は平均気温の上昇を1.5度未満に抑えるという目標に近づいたとはいえ、大きく進んだわけではない。専門家は、各国が現在の方式で削減計画を実行した場合、気温上昇は2.4度になると予測している。

 責任投資原則(PRI)の気候変動ディレクターを務めるサガリカ・チャタジー(Sagarika Chatterjee)氏は「今回のCOPの主な成果は政策のスピードアップである」と述べ、2023年に予定されている「グローバル・ストックテイク(世界全体の実施状況の定量化)」が今回の会議で始動したことと、来年末までに各国が気候誓約(2030年の中間目標を含む)の強化を約束したことを挙げた。「各国のコミットメントは、政府による当面の政策措置の強化だけでなく、金融機関の取り組みの強化にも重点を置いている」と同氏は指摘する。

 COP26で民間部門の役割に焦点が当てられたことは、COP21との最大の違いといえるだろう。気候対策の支援の面でも、民間部門への期待は高まっている。2015年当時は信頼できるカーボンフットプリントを実践している企業はほとんどなかったが、今回はネットゼロ目標を掲げていない企業はパネルディスカッションへの参加もままならない状況だった。

 そうした目標を掲げることは自然な流れである。ネットゼロを推進する金融イニシアチブ「グラスゴー・ファイナンシャル・アライアンス・フォー・ネットゼロ(GFANZ)」の発表によると、「今後30年間でネットゼロを達成するためには推定100兆ドルの資金が必要である」が、GFANZに加盟する企業の金融資産は今や130兆ドルに達している。加盟450社は2050年までにネットゼロ目標の達成を求められており、「2020年代に削減目標の50%達成」を目指すほか、5年ごとに目標を見直した上で1年以内に進捗状況を報告することになっている。

 「1年以内にネットゼロに向けた行動を起こすと宣言している企業をみると、我々が目標達成のカギを握るとみるサブセクターを網羅していることがわかる。リスクを負う業種としては保険会社および引受会社、自己勘定取引を行う銀行のほか、多額の受託資産の運用・管理を行うアセットオーナー、これらの資産配分を担うアセットオーナーが挙げられる。そして決定的な役割を担うのは、投資コンサルタントや信用格付機関である」とチャタジー氏は説明する。

 金融機関はコミットメントをさらに具体化する必要があるが、「今回のCOP26を機に全ての金融機関は競合相手を含む他のプレーヤーと意見交換し、解決に向けて踏み出さざるを得なくなった」、「各国のコミットメントは、全世界の金融システムを一夜にして変えるものではない。だが、列車が走り出したことは確かである」と同氏はみている。

 コミットメントを確かなものにするため、国連のアントニオ・グテーレス事務総長はCOP26開催中に「ネットゼロ・コミットメントを測定・分析するための明確な基準を提案する非国家主体のハイレベルな専門家グループ」を来年設置することを発表した。一方で、GFANZのサブ組織の1つである「ネットゼロ・アセットオーナーズ・アライアンス(AoA)」の判断基準を「信頼できるコミットメントと透明性の高い目標の究極の基準」と呼び、GFANZ加盟メンバーにその導入を呼び掛けた。

 英政府も、国内のアセットマネジャー、アセットオーナーおよび上場企業を対象に、英国独自のネットゼロ・コミットメントに即した脱炭素計画を発表するよう求める新たな要件(コンプライ・オア・エクスプレイン)の一環として、COP26開催中にグリーンウォッシング防止のためのタスクフォースを設置した。その目的は信頼できる計画を策定できるよう助言することにあり、現時点でそのメンバーは未定だが、事務局は気候関連シンクタンク「E3G」と英国のグリーンファイナンス・投資センターが共同運営する。

 E3Gで金融に特化した政策アドバイザーを務めるイスカンダー・エルジーニ・ヴェルノワ(Iskander Erzini Vernoit)氏は、「英国が定めた要件は信頼性という点で世界の先駆けとなるもので、有効かつ厳格に運用されることを望んでいる」とした上で、「各国政府は、ファイナンスに携わる民間のアクターに対して準拠基準をより積極的に示していく必要がある」と述べている。

 ヴェルノワ氏は、COP26でインテグリティと並ぶ「主要テーマ」に浮上した課題として、誓約に盛り込まれた全ての資金をいかに適切なグリーンプロジェクトに振り向けるかを挙げた。

 さらに「GFANZの発足は有益な進展といえるが、それを有意義な投資に結び付けるためには政府を動かす必要がある」と述べ、具体的には多国間開発銀行への資金拠出のほか、譲許的融資、助成金、技術的支援およびリスク軽減の仕組みの提供、利益を生み出すグリーンプロジェクトの立ち上げなどに言及している。最後に挙げたプロジェクトを加速させるためには、政府が自らの気候対策へのコミットメントを「財源となる資金の調達戦略と一体化させた投資計画」へと発展させるよう全力で取り組むべきとしている。

 COP26における主要議題の1つは、先進国から発展途上国への資金支援である。先進国は途上国が気候変動の影響に順応するための支援を倍増するよう求められていたが、グラスゴー気候協定では単に支援額を増やすという表現にとどまった。一方、途上国は気候対策の強化を求められている。

 「そのためには、そうしたプロジェクトに充てられるだけの資金調達能力を確保できるようにする必要があり、先進国はその実現に向けてさらに注力すべきだろう」とヴェルノワ氏は述べている。

 先進国から途上国への資金支援を促すためのツールの1つが、COP26開催中に国際財務報告基準(IFRS)財団が設立を発表した国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の策定する情報開示のガイダンスである。新設されるISSBは、既存の気候変動情報開示審議会(CDSB)と価値報告財団(VRF)を合体したものとなる。これら2つの組織はCDP、統合報告フレームワーク、サステナビリティ会計基準審議会(SASB)と連携して統合開示基準の一元化を目指している。

 国際イニシアチブ「Future of Sustainable Data Alliance」(加盟メンバーはFTSEラッセル、リフィニティブ、アラベスク、S&Pグローバル、ムーディーズ、ブルームバーグなどのデータプロバイダー)のシェリー・マデラ(Sherry Madera)議長は「COP26のより幅広い議論で顕在化した事柄の1つは、新興市場と成熟市場との溝であり、資本と金融インフラへのアクセスを考える上でこれは極めて重要である」と指摘し、「新興市場では安定したデータおよび情報開示が確立されていない場合が多く、新基準の導入を通じてそうした問題を解決し、全てのコミットメントの達成につなげる必要がある」と話している。

 パリ協定の第6条では、先進国が気候に関するコミットメントの達成を目指す途上国の排出削減に協力した分だけ排出量を増やせるカーボンクレジット取引の方法が検討されたが、グラスゴー協定ではさらにその期待が高まった。この計画を前に進めるためには、成熟市場を持つ国々が求められる情報開示について「真剣に考える必要がある」とマデラ氏は述べている。

 そして、「新興市場について議論する際、我々はパーム油生産や脱石炭といった全体的なトピックについて考えてしまうため、データの役割を軽視しがちになる。だが、新興国が正確なデータを出せるよう支援しなければ、我々は手探り状態で進んでいるようなものだ。よって、ISSBにそうした考えが取り込まれるよう促したい」とも付け加えた。

 総じて、従来の遡及的な情報開示の枠を超えたデータを重視すべきであるというのがマデラ氏の考えであり、「ネットゼロについて語られることは全て将来の見通しであるため、標準化された検証・監査可能な情報開示は必要だが、投資の意思決定を行うにあたり先見性のあるマクロ経済学的な地理空間データに依存する傾向は強まるだろう。我々は、そうしたデータの利用可能性と安定性を確保する方法を考えなければならない」と指摘する。

 会議の開幕と同時にメタンの排出削減に向けた国際的枠組みが発足し、100を超える参加国がこの枠組みを通じて2030年までにメタン排出量を30%削減することで一致した。これによって温室効果ガスのより詳細なデータが得られることになるほか、各国首脳が2030年までに森林破壊を終わらせると約束したことも自然資本のデータ強化につながる可能性がある。

「2週間にわたるCOP26の熱狂を通じて、気候問題への関心はこれまでこの問題に深く関わってきた人だけでなく、他の多くの人々の間にも広がった。ここでひとまず深呼吸して気を静め、次の段階に向けて何をすべきか考え始めよう」


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【参照】
Responsible Investor, Sophie Robinson-Tillett「‘It feels like everyone's taking a bit of a deep breath’: Sustainable finance reflects on COP26」2021年11月15日(2021年11月25日情報取得)


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