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 金融サービスのデジタル化の進展に伴い、顧客基盤の豊富な地銀に注目が集まっている。地方経済を支える地元企業の資金需要に応える地方金融機関は、法人および個人向けにきめ細かいサービスを提供することで、信頼関係を醸成してきた。しかし、デジタル化の波が金融サービスにも押し寄せてくるに従い、デジタルによる利便性や手数料の低さに、顧客の関心も向きつつあるのではないか。

 十数年前に、リーマンショックによる金融危機を1929年の大恐慌より前の1907年の金融恐慌との類似性が高いと提起した書籍を共訳したことがある(注1)。金融恐慌を引き起こした原因の一つとして、全米に多数存在した地方金融機関は各州の州法に準拠するのみで、現在の中央銀行制度にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が存在していなかったことが挙げられる。

 その後一世紀余りを経て、米国の地方金融機関の数は減少したものの、現在でもその数は数千を数える(注2)。日本の地方金融機関の多さは世界でも有数なのではないかと考えていたが、人口や国土面積を考慮しても、米国の方が日本よりも多くの地方金融機関が存在しているのだ。

 本稿では、日本と他国の地方金融機関をESGの観点から比較してみたい。なお、日本と米国では企業金融において、直接金融と間接金融の比率に違いがあるため、その中間にある欧州の地方金融機関も比較対象に加えることにする。業種はファクトセットの業種分類から「Regional Banks」を選択し、日、米、欧州先進国の地方金融機関の平均スコアを調べた(世界全体には、日、米、欧州先進国の地方金融機関も含まれる)。

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 表1から、日本の地方金融機関の平均ESGスコアは欧米に比べて10ポイント程度低く、世界全体と比べても10ポイント程度低いことがわかる。日本は、平均ESGスコアとサブスコアのいずれも低いが、とくにサブスコアのガバナンス(G)が35.2と低い。日本経済の成長が停滞しているため、地方の経済力は弱く、デフレや低金利状況が続いていることから、事業環境に沿った地方金融機関の自己改革は進まず、ガバナンスの弱体化を招いてしまったと考えられる。

 それぞれのサブスコアの詳細を項目別にみてみよう。Gにおいては、取締役会の体制、透明性、資本構成が低く、とくに取締役会の体制においては日本のスコアは欧米および世界全体のスコアを15ポイント以上下回っており、早期の対応が求められる。

 また、社会(S)のサブスコアでは、報酬とダイバーシティー、プロダクト・アクセスのスコアが低く、報酬は欧米および世界全体のスコアを20ポイント以上も下回り、ダイバーシティーも10ポイント以上下回っている。そして、プロダクト・アクセスも10ポイント以上下回っている。

 GもSについても、日本のスコアが大きく下回っている項目は、以前から指摘されてきている。地方金融機関なので、ESGの国際競争力は関係無いと割り切ることもできるが、フィンテックの台頭やデジタルトランスフォーメーション(DX)を活用した他業種からの参入など、ESG面でも投資家に魅力的な投資対象に進化していくべきだと考えられる。

 しかし、ネガティブな事ばかりではない。日本の地方金融機関の強みはSのサブスコアにみることができる。雇用の質及び製品の質と安全性の項目だ。雇用の質は欧州とほぼ同スコアで、米国および世界全体のスコアを上回る。そして、製品の質と安全性は顧客満足度も含まれる。この項目は欧米および世界全体のスコアを上回っている。従業員の水準は高く、金融商品やサービスのクオリティーは国際的に高いことが示されている。

 このように地方金融機関をESGの観点からみていくと、日本の地方金融機関が取り組むべき事は明確に示されている。日本の地方金融機関は、世界的にみても優れた従業員によって支えられている。そして、金融商品、サービスのクオリティーも高く、顧客満足度も良好だ。しかし、Gが大きな弱点になっている。フィンテックやデジタル化の波に抵抗するのではなく、その波に乗れるような適応力、俊敏性を備えた取締役会の体制が急務であると考える。

(注1)ロバート・F・ブルナー、ショーン・D・カー著、「ザ・パニック:1907年金融恐慌の真相」、東洋経済新報社、2009年9月
(注2)https://www.fdic.gov/news/press-releases/2021/pr21083.html 参照

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)


雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。