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 本稿は、レスポンシブル・インベスター(RI)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 投資家や業界団体は、EUがソーシャルタクソノミー(社会タクソノミー)草案で示した提言を歓迎する一方、そのアプローチ(手法)について様々な懸念を表明している。

 欧州委員会(EC)がEUタクソノミーの進化を主導するために立ち上げた「サステナブルファイナンス・プラットフォーム」(57の市場参加者、サステナビリティの専門家、公共機関から成る)は6日、社会タクソノミー草案に対するヒアリングを終了した。

 社会タクソノミーの目的は(環境タクソノミーと同様に)、社会的に持続可能な事業活動または企業とは何かを定義するための共通の包括的手法を構築することにある。

 投資家は、「社会タクソノミーは社会的に持続可能な事業への投資と公正な移行を後押しし、社会問題を重視する投資家のニーズに応え、社会および人権をめぐる投資のリスクと機会に対処し、社会的投資の定義と評価方法を強化するものである」との見方で一致している。一方で、草案をめぐる懸念を示す声もいくつか挙がっている。

 サステナブル投資を推進する投資家フォーラム「Eurosif」は、社会に害を及ぼす事業活動を特定し、社会に実質的に貢献している事業活動から自動的に除外されるセクターのリストを策定する手法は、「大きな論争を招きかねない」と警告している。Eurosifのコメントは、ノルウェー中央銀行投資管理部門が先週同様の懸念を表明したのに続くものである。

 一方、ドイツの投資信託協会「BVI」は「除外対象となるセクターは、いかなる場合でも消費者およびコミュニティに害を及ぼす事業活動に限定すべきである」と提言している。その例として、たばこの栽培、製造および販売、ギャンブルおよび賭け事、問題兵器の製造および販売などを挙げている。

 また、衣料品やカカオの生産を含むその他の事業活動については、さらに評価基準を差別化することも求めている。BVIは「アジアや中南米ではこれらセクターで過酷な労働環境が蔓延している」現状を問題視しつつも、「社会タクソノミーでこれらのセクターが有害であるとの烙印を押すべきではない」とも指摘している。

 ESG運用を手がけるフランスの投資運用会社ミローバ(Mirova)は、環境タクソノミーと社会タクソノミー草案の関連性を高めるよう提言し、石炭・天然ガスの採掘事業は社会に害をもたらす活動に分類すべきとしている。そして、「環境タクソノミーで『著しい害を及ぼさない(DNSH)』と見なされている全ての事業活動は社会タクソノミーの対象から除外すべきであり、その逆も成り立つ」との見方を示している。

 社会タクソノミー案は2つの次元に重点を置いている。1つは人権デューディリジェンス導入プロセスに関する水平の次元で、もう1つは人のニーズに応じた製品・サービスに関する垂直の次元である。ヒアリング回答者の多くは、これら2つの次元についてはより詳しい分析が必要であると強調している。

 注目すべきは、戦略的投資を手掛ける投資顧問会社プラスバリュー(PlusValue)が2つの次元の区別について、「人為的である上、必要以上に複雑なだけで何のメリットも感じられない」と結論づけたことである。

 タクソノミーの個別の構成項目に焦点を当て、「垂直の次元の、対象セクターの分類基準となっている公共政策目標は、ごく少数の専門分野に特化したセクターのみに当てはまるものであり、作成されたリストは誤解を招く恐れがある。これは企業に、企業の利益の枠を超えた社会的な目的を使命とするより、慈善活動や自らの社会的責任を追及するよう誘導することにつながる」と主張している。

 垂直の次元の構成項目については、ミローバも同様の指摘をしており、「要件が極めて厳しく、(中略)あまりにも限定的と思われる部分もある。対象となる事業活動はこれより多くなる可能性がある」と述べている。

 一方で同社は、水平の次元が対象とするセクターの要件が「かなり低めに設定されているケースがある」とした上で、それらが対象に含まれることで「タクソノミーは単なる事業活動のリストというより、インパクト分析のフレームワークに近くなる」との見方を示している。

 さらに、環境タクソノミーにも水平の次元の要素を組み入れるべきであるとし、「我々は、情報の取り扱いを事業所レベルで行うことには同意するが、その結果、環境面で持続可能な事業活動のタクソノミーとの間で非対称性が生じることになる。2つのタクソノミーの全体構造は一貫性を持たせるべきである。グリーン(環境)タクソノミーでも、プロセス/水平の次元を考慮すべきだろう」と強調している。

 コーポレートガバナンスの向上を目指すオランダの機関投資家団体ユーメディオン(Eumedion)は、サステナブルファイナンス・プラットフォームはまず水平の次元の策定に注力し、そのあとで「企業のどのような事業活動に社会のサステナビリティに弊害をもたらすリスクが付随するのかを社会タクソノミーで明示する」よう提言している。そして、初期段階で「社会のサステナビリティに限定した」統一の定義または指標を策定するのではなく、プラスの影響にも重点を置くのであれば、タクソノミーの策定が遅れかねないとの懸念を示している。

 一方、ミローバ、BVIおよびユーメディオンを含む多くの回答者は、企業独自の目標に準じた環境および社会要因に連動する役員報酬は、社会タクソノミーの基準としてふさわしいとの考えを示している。

 だがミローバは、これは持続可能な事業活動のリストとしてのタクソノミーの定義の範囲を超え、「企業の評価基準の策定に当たる」としている。そして「それがタクソノミーの目的であるならば(その場合に限り)、環境タクソノミーで定められている持続可能な事業活動と一体化した構造にすべきである」とも指摘している。

 他の投資家の間では、社会タクソノミーと環境タクソノミーの関連度をめぐり意見が分かれている。

 BVIと投資顧問会社カルダーノ(Cardano)は、2つのタクソノミーは社会と環境については最小限のセーフガードを満たしていればよく、ガバナンスに関するセーフガードは両方に適用されるべきとの意見で一致している。

 ユーメディオンはこれら2つを別々の選択肢とみるのではなく、「2つのモデルはそれぞれ異なるニーズに対応するものであり、補完的に共存すべき」としている。

 カルダーノは今後さらに取組むべき点として、「場所に根差した」社会問題をより重視することを挙げ、「人権は世界共通ではあるが、経済活動が行われている地域や法域による特異性があるからだ」と述べている。

 ミローバも地域性の問題に触れ、EU加盟国の間で社会問題について何らかのコンセンサスを形成するのは容易ではなく、ましてや先進国間の社会的基準の違いや新興市場に対する欧州各国のアプローチの違いは容易に覆い隠せるものではない」と説明している。

 Eurosifは、EUが進めているその他のイニシアチブ―例えば、コーポレートガバナンス指令やサステナブルファイナンス開示原則で定められている、社会への主要な悪影響に関する指標の見直しなど―との協調が欠かせないと強く主張している。

 プラットフォームは、ステークホルダーからの情報や意見を考慮した上で、2021年秋にはEC向けに最終報告書および意見書を提出する予定である。


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【参照】
Responsible Investor, Gina Gambetta「Investors give verdict on proposed Social Taxonomy」2021年9月6日(2021年9月15日情報取得)
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