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 本稿は、レスポンシブル・インベスター(RI)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 銀行と監督当局は、社会および環境問題が財務実績に及ぼす影響だけでなく、銀行業務がこれらの問題に及ぼす影響についても考慮する必要がある。ブラックロックは、8月27日付で発表した健全性規制に関するEU向け報告書でこのように述べている。この報告書については、同社がいつ発表するのか注目が集まっていた。

 「ダブルマテリアリティ」と呼ばれるこのコンセプトは、従来のマテリアリティの定義から逸脱するものである。これまでは、企業に財務上の機会またはリスクをもたらすサステナビリティ上の課題ばかりに焦点が当てられ、事業活動が環境や社会にもたらすリスクには目が向けられなかった。このコンセプトが特に急速に広まっている欧州では先週、スイスの規制当局が新たな情報開示ルールにダブルマテリアリティを盛り込んだ。一方、米国では現在この問題をめぐり規制当局と市場参加者の意見が割れているものの、国際基準の策定機関はあくまでも企業の利益保護につながるマテリアリティの定義(訳者注:シングルマテリアリティ)を優先したい考えであると思われる。

 今回の報告書はEUの銀行規制にESGを組み入れる方法を模索するもので、ブラックロックはダブルマテリアリティについては監督当局の間でさらなる議論が必要であることを認めている。監督当局の中には、「監督上の義務という理由から、健全性規制による監督対象が財務上のマテリアリティであることに変わりはない」との姿勢を維持しているところもある。一方で報告書は、銀行と監督当局が銀行の業務規制にESGを組み入れる作業に着手し、まずは「ESGリスクについて一貫性のある定義を策定し、ダブルマテリアリティの観点を考慮」すべきであると提言している。

 「定義の策定にあたっては、ESGの中核要素ごとに根本的要因の詳細リストを作成し、それらのリスクを把握するための共通フレームワークを構築する必要がある。同時に、地域またはビジネスモデルの違いによる独自性は認められるべきである」と同社は説明している。

 欧州委員会(EC)は昨年、世界最大の資産運用会社であるブラックロックをサステナビリティに関する銀行業務規定策定に向けたアドバイザーに任命し、議論を呼んだ。今回の報告書の発表により、それにようやく終止符が打たれるかたちとなった。ECの決定が反発を招いた背景には、石油・ガス関連企業の株式を大量に保有する同社が気候対策をめぐってより緩やかな規制措置となるよう誘導するのではないかという懸念があった。最終的には欧州オンブズマンが介入し、ECは最大の資産運用会社である同社の立場で起こり得る利益相反を十分考慮していなかったものの、不適正な決定とまではいえないとの判断を下した。

 ECは今年4月、オンブズマンの決定を受けて利益相反をめぐる規制の強化を検討すると述べている。

 ブラックロックはほかにも、ESG目標の設定とリスク戦略の公表はパリ協定への準拠といった重要課題についての銀行の「説明責任を果たさせる」ことにつながる可能性があると述べている。監督当局は、そうした目標および戦略の策定方法についてガイダンスを示す役割を担えるとしている。

 さらにレポートでは、ESGに関するリスク評価の中核要素としてストレステストやシナリオ分析の利用を後押ししている。特に気候関連リスクについては、ESGデータの質と利用可能性の向上やセクター内のESGリスク情報開示の標準化に向けて、銀行と監督当局が取り組みを強化するよう促している。

 一方でブラックロックは、監督当局が気候リスクによって資産の健全性規制を変えるべきかどうか―例えば、グリーン資産に対する自己資本規制の緩和や環境への負荷が大きい資産に対する規制の強化など―については、欧州銀行監督局(EBA)が2023年に賛否両論あるこの問題について判断を下すとして、自らの見解は示さなかった。


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【参照】
Responsible Investor,  Khalid Azizuddin「Push ‘double materiality’ and help banks with climate targets and strategies, BlackRock tells EU supervisors in long-awaited report」2021年8月27日(2021年9月6日情報取得)


QUICK ESG研究所