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 本稿は、レスポンシブル・インベスター(RI)の掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 企業を対象にビジネスと人権に関する初の調査を日本政府が実施する計画を、投資家や業界団体は高く評価している。

 調査は経済産業省が外務省と協力して行い、東京証券取引所に上場する約2,600社の大企業・中堅企業と他省庁が必要と判断した企業が対象となる。企業が間接的なサプライヤーを含むサプライチェーンに付随する人権リスクに現在どのように対応しているか聞き取りを行う。

 経産省の担当者はRIの取材に対し、当初は8月に調査を行う予定だったが、目下、東京で緊急事態宣言が発令されているため計画が遅れ、現状アンケートの作成段階にあることを明らかにした。また、調査は強制的なものではなく、各企業に参加を呼び掛けるにとどまるとしている。

 既に国内の機関投資家は、この調査を機に人権デューディリジェンス(訳者注:企業がサプライチェーンも含めて事業活動に伴う人権リスクについて特定・評価、軽減・防止策の検討および実施、モニタリング、情報発信を行う一連の取り組み)をめぐる議論が前進すると期待感を示している。

 第一生命保険サステナブルファイナンス部門トップの銭谷美幸氏は「政府がこうした調査を正式に実施すれば、ビジネスと人権について国際的にどのような行動が求められているかについて日本企業全体の認識が高まることになる」と述べ、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」で掲げられている現行のガイドラインに言及した。そして「日本の機関投資家として」、今回の動きが「企業価値の向上」につながることを強く期待していると述べた。

 経産省の担当者は、調査の設問の多くは国連の指導原則に基づくものであると説明している。具体的には、企業が発表している方針、デューディリジェンスの実施状況、自らの事業活動がもたらす影響に関する評価、業務レベルの苦情処理制度などである。

 先に改訂された日本のコーポレートガバナンス・コードは「リスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題」の1つに人権を盛り込んでおり、企業の取締役会は「中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである」としている。

 三井住友トラスト・アセットマネジメントのスチュワードシップ部門ESG スペシャリストの川添誠司氏はRIの取材に答え、「日本政府は企業に対し、自社の事業の中だけでなくサプライチェーンにおける人権についてもより一層注意を払うよう促している。政府には今後も粘り強く(人権問題)に取り組むよう期待している」と述べている。

 野村アセットマネジメントの責任投資部門責任者の今村敏之氏は、「我々は投資家として、今回の動き(政府の調査に人権問題を盛り込んだこと)を前向きな変化と捉えている。今後、人権をめぐる情報が入手しやすくなり、我々の可視性も向上するとみられるからだ」とコメントしている。

 東京を拠点とするNPO「Business for Social Responsibility」の永井朝子マネジング・ディレクターは今回の動きを極めて前向きな兆しであるとした上で、「日本の企業社会においてビジネスと人権への意識を喚起する上で非常に効果的だろう」と指摘する。

 規制当局は、政府が昨年10月に策定した「ビジネスと人権に関する行動計画」の一環として調査を行うよう義務づけられている。経産省の広報担当者は、「国内外で、ビジネスと人権の問題について関心(場合によっては懸念)を持つ人や企業は増えているとみられる。我々が初の包括的調査を行うにあたり、今は良いタイミングと言えるだろう」と述べている。

経産省と外務省は調査結果を分析した上で、企業に人権デューディリジェンスの実施をいかに促していくか議論を始める。

 NGO 「Business & Human Rights Resources Centre」の日本の地域研究者・代表を務める佐藤暁子氏はRIの取材に対し、この調査結果は「人権デューディリジェンスの義務化を含め、必要な政策の基盤になるだろう」と述べている。さらに、「調査では人権侵害への対策がどの程度とられているかを明らかにし、適切な政策を通じてサプライチェーン全体で、人権侵害にさらされている人に対して十分な救済措置が講じられるようにする必要がある」とも話している。

 だが経産省の広報担当者は、次のステップについて異なる見方をしている。

 「明確にしておきたいのは、政府がこの調査を受けて何らかの厳格/強制的な対策を講じる予定はないという点である。むしろ、ビジネスを可能にする環境を整えるために我々が何をすべきか見極めたいと考えている」とRIに話している。

 RIは19日付の記事で、国連の「ビジネスと人権に関する条約」草案で、初めて金融機関と投資ファンドへの言及があったことを取り上げた。またコロナ禍を機に、株主が人権および労働者の権利についてエンゲージメントを行う動きも活発化している。責任投資原則(PRI)は、取り組みが遅れている企業に圧力をかけるための機関投資家ネットワークの構築を検討している。


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【参照】Responsible Investor,  Gina Gambetta「Japanese investors have ‘high expectations’ for government survey on corporate human rights performance」2021年8月20日(2021年9月1日情報取得)


QUICK ESG研究所