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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 投資家は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が8月9日に公表した評価報告書に照らして、アセットマネジャーの経済モデルが目標に沿ったものであるかどうか検証する必要がある―こう指摘したのは、アビバ・インベスターズの気候専門家である。

 IPCCが8年ぶりに公表した報告書は気候変動に関する科学的知見をとりまとめたもので、地球温暖化の原因が人間の活動によることは「明白だ」と断言している。また、過去5年間の気温は1850年以降で最高を記録し、2011~20年の世界の平均気温は1850~1900年に比べて1.09℃上昇したとしている。過去50年間の気温上昇ペースは、過去2000年間のどの時期よりも速くなっている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は同報告書の内容について、「人類に対する厳戒警報だ」と述べている。

 アビバ・インベスターズのグローバル責任投資部門シニアアナリストで気候専門家のリック・スタザーズ(Rick Stathers)氏はRIの取材に対し、金融機関は気候変動がもたらす影響の相関性を織り込む必要があると話している。

 「シリア内戦の根本的な原因の1つは干ばつであるとされており、職を求めて都市部に移住した人々が仕事に就けなかったことで社会不安が生じた。これがシリアから欧州などへの人民移動に発展し、連鎖的な影響を招いた」と同氏は説明する。

 さらに「南北アメリカでも同様のことが起きており、嵐や干ばつといった気象現象が深刻化および常態化するなか、中米から北米へ移住する人の流れが起きている。仕事や食料を求める『人間のキャラバン』である。気候変動に起因する国内および地域間の移動は今後も続くだろう。現行の経済モデルでは、それらが選挙に及ぼす影響、さらには当該国および世界の経済に及ぼす間接的な影響が過小評価されている」とも指摘している。

 スタザーズ氏は、アセットマネジャーの経済モデルが目標に沿ったものであるかどうか検証し、経済成長率の予想には気候変動に伴う修正を織り込む必要があると述べている。また、気候の転換点をめぐるリスクがほとんど考慮されていない点も強調している。

 その上で、「地球の平均気温が1.1℃上昇した時点で、気候システムは既に転換点に近づきつつある。ひとたび転換点を超えてしまえば気候変動に歯止めがかからなくなる、という極めて現実的なリスクがある。金融業界はこうしたリスクを過小評価しているように思われる。金融業界では、気温が3℃上昇することによる経済への影響は直接的なもののみに着目しており、気候システムの複雑な相関性を理解していないことが露呈している」と指摘する。

 投資家に世界的な気候対策の加速化への備えを進めるよう提言するイニシアチブ「Inevitable Policy Response」も、投資家の考え方を変える必要性を訴えている。同イニシアチブの広報責任者のジュリアン・ポルタ―(Julian Poulter)氏は、投資家は移行リスクに加えて気候リスクを考慮することが「不可欠」であるとした上で、物理的な気候変動が投資家のポートフォリオにもたらす最悪のリスクは長期的なものかもしれないが、実際のところそうしたリスクはより大規模でより広範囲に及ぶ可能性がある」と述べている。

 IPCCの報告書に対する反応としてもう1つ重要なテーマは、機関投資家が企業や政府機関の両方に変化を促す役割を担うことの必要性である。HSBCのESGリサーチ部門トップのウェイ・シン・チャン(Wai-Shin Chan)氏は、「科学的根拠は極めて明白だが、対策は必ずしもそうではない。投資家は自らの影響力を駆使し、気候変動がもたらす最も深刻な影響を抑制するため、政策の意思決定者に温室効果ガス排出量の思い切った削減を迫る必要がある」と話している。

 オーストラレイシア企業責任センター(Australasian Centre for Corporate Responsibility)もこれに同調し、投資家は化石燃料の拡大阻止を求め、これを妨害する取締役会には反対票を投じるべきだと主張している。CeresのCEOを務めるミンディー・ラバー(Mindy Lubber)氏は、「投資家にとって(気候変動に対してとるべき有意義な行動)は、自らのカーボンフットプリントの削減に向けた緊急対策を強化しつつ、あらゆるレベルの政府機関に強力な気候対策を働きかけることを意味する」とコメントしている。

 投資家からは、年金基金に行動を起こすよう求める声も上がっている。Nest の責任投資部門シニアマネジャーのカタリーナ・リンドマイア―(Katharina Lindmeier)氏はRIに対し、「気候変動対策を投資テーマにする動きは勢いを増している。熱波や悪天候などの物理的リスクは、投資リターンや年金口座に影響を及ぼす。(中略)いま行動を起こすことは正しいだけでなく、年金加入者が年金提供者に求め、期待していることである。年金加入者の3分の2は、年金基金の運用者は気候変動の影響の抑制につながる投資を行うべきだと考えている」と述べた。

 また、「投資家はみな取り組みを強化すべきだろう。年金基金の間では、運用ポートフォリオでネットゼロ目標を掲げることを最低基準とする動きは瞬く間に広まったが、短期的には(グリーンインフラ事業への投資といった)信頼できる行動をとることも必要だろう」とも指摘する。

 責任投資分野の複数の重要人物は、アセットオーナーやアセットマネジャーが次にとるべき行動として、様々なイニシアチブへの参加を提言している。責任投資原則(PRI)のCEOであるフィオナ・レイノルズ(Fiona Reynolds)氏は、「我々は投資家に対して、気候変動対策へのコミットメントを見直した上で行動を起こすよう促している。具体的には、ネットゼロ目標の策定のほか、『Race to Net Zero』や国連が立ち上げた『Net Zero Asset Owner Alliance』といったイニシアチブの支援などが挙げられる」と話している。

 マーク・カーニー(Mark Carney、前イングランド銀行総裁、前カナダ銀行総裁)氏はツイートで「全ての金融機関」に「Glasgow Financial Alliance for Net Zero」への加盟を呼びかけ、「解決策の一翼を担う意思がないなら、そのこと自体が問題だ」と付け加えた。


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【参照】
Responsible Investor,  Dominic Webb「IPCC report: Investors must consider whether asset managers’ economic models are fit for purpose, warns Aviva climate specialist」2021年8月11日(2021年8月24日情報取得)


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