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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 思慮深いリーダーがもたらした新しいアイデアは、時として注目に値する。「グリーンスワン」の著者であるジョン・エルキントン(John Elkington)氏は、2020年代を指数関数的な10年間と呼び「新型コロナウイルスのパンデミックが及ぼす影響を強調する必要はないが、今が非常時であることも事実だ」と述べた。投資家が100年に1度しか起こらないような事象を「ブラックスワン」と呼ぶようになって久しいが、この言葉は「予想外の」低調なパフォーマンスを説明する場合に使われることが多い。

 だが気候変動とそれに伴う生物多様性の危機により、我々に(ブラックスワンの”気候変動版”である)グリーンスワンの多発する未来が運命づけられているとすればどうだろうか。

 独創的な考えを持つ思想家であるジュディス・ロディン(Judith Rodin)氏とサディア・マスビアウ(Saadia Madsbjerg)氏は、直近の共著書「Making Money Moral」でエルキントン氏の唱えるグリーンスワンに言及し「新型コロナはそうした事象の初の発生ケースとなったが、これが最後ではないだろう」と断言した。両氏は、コロナ禍は我々に予想外の出来事に備えることの重要性を警告していると述べ「より効果的に備え、より迅速に立ち直る」ための能力を構築する必要があると指摘する。またロックフェラー財団を率いる両氏は、ESGにR(レジリエンス)を加えて「ESGR」とすることを提唱し、「レジリエンスの概念は、企業経営や投資の分野にも急速に広がりつつある」と述べた。

 こうした視点は、国際機関や開発金融機関でも確実に取り入れられるようになっている。そして当然のことながら、経済やビジネスの分野で最大の混乱(ディスラプション)が生じているのは開発途上国である。そうした国々の第一線で活躍しているプレイヤーたちは、レジリエンスを高めて再興することの重要性を理解している。

 経済協力開発機構(OECD)は報告書で「危機対応に係るコストは、レジリエンスを獲得するための累計投資額をはるかに上回る可能性がある」と論じ「パンデミックによって我々自身の脆弱さを思い知らされるのは、決して愉快なことではないだろう。だが(中略)、今回の危機で備えやレジリエンスが認識されたのは良い側面だったといえる」としている。

 ビジネスディスラプションの事例については、詳しく検証する価値があるだろう。OECDは報告書で主に物理的インフラの改善について論じているが、バイデン政権の発言を受けて「今回の危機は、社会インフラや『ソフト』インフラに改めて焦点を当てた。コロナ禍は性別、民族性、所得の格差をあぶり出した」とも記している。

 世界経済フォーラムもレジリエンス投資に関する記事の中でこうした見解に賛同しており「現在、機関投資家ESG指標のうち『S(社会)』の拡充をかつてないほど強く追及している。危機の悪循環を招きかねない脆弱な状況を阻止し、持続的な景気回復に向けた下地を作るための投資を行うことで格差を埋められる」と述べた。

 また、パンデミックを機にソーシャル・ボンドの発行額が大幅に増加し、2020年は前年比で350%増に膨らんだことにも言及している。

 OECDの報告書は、投資家が自覚するようになった幅広い影響についても指摘している。例えば、契約の約定に極めて大きな負担がかかることを挙げている。2020年は、不可抗力条項が適用されるケースが異例の数に達した。

 さらに報告書は「コロナ禍は一部の金融インフラの脆弱性を浮き彫りにした。特に、レバレッジの高いプロジェクトはショックに対する弾力性に欠ける」とも指摘する。中でも貸し手が限定されている融資やノンリコースローンなど、特別目的事業体がこれに当たる。OECDは、今後は財務制限条項(借り手に課す制限や財務指標の数値基準などを規定した条項)の重要性が増すと論じている。

 こうした条項に注目する必要があるのは、ディスラプションが繰り返される事態が不可避であるからだ。気候変動と生物多様性危機によって今後多数のグリーンスワンが生まれる状況になれば、企業や投資家にとってこれらを考慮することがより重要になる。マッキンゼーは「The Resilience Imperative - succeeding in uncertain times」と題するレポートで「今後は壊滅的な事象がより頻発するようになり、予想もより難しくなるだろう。それらはより速く、より多様なプロセスで進行するはずだ」と警告している。このレポートに掲載されているグラフは非常に憂慮すべきであり、必見だろう。そのうち最も恐ろしいのは自然災害の発生頻度が劇的に増していること示すグラフで、過去40年間で5倍に増えていることがわかる。昨今は米国、カナダで熱波、西欧諸国では洪水が頻発しているほか、世界各地で異常気象が観測されているだけに、この数字には納得がいく。

 上記レポートでは「気候変動は企業のリスク・リターン特性に構造的な変化をもたらしており、その流れは非線形的に加速するとみられる」と指摘した上で「企業は予測不可能な脅威や変化に耐えられるようにするだけでなく、さらに強い企業へと成長しなければならない。すなわち、レジリエントになる必要がある」と述べている。

 このことは、投資家に重大な影響を及ぼす。前述の理由から、開発金融機関はこうした新しい考えを受け入れつつある。英国の公的海外投資機関であるCDC Groupで気候変動および価値創出戦略部門のディレクターを務めるアマル・リー・アミン(Amal-Lee Amin)氏は「気候変動はますます高い確率でリスクをもたらし、投資家の懸念を増大させている。我々は、物理的な気候リスクの評価と効果的なレジリエンス計画をESG投資ツールの柱として位置づけ、それを実現するための機能を早急に構築する必要がある」と語った。

 マッキンゼーは、コンサルタントが通常取り上げることの多い動的管理システムなどについて論じるだけでなく、新たな見解も強く訴えている。具体的には「企業は、目先の重要事項に関する懸念を払しょくする必要がある」と述べ「アドオン」対策(消耗品の備蓄、非常用発電機、バックアップサーバなど)と「トレードオフ」アプローチ(「資本バッファー」、製品在庫、人員過剰のコールセンターなどはいずれもこれに該当)をとることで解決できるとしている。これらは、レジリエンスとその他の要素(リターンや生産性など)との明確なトレードオフと考えられる。

 ここで立ち止まって考えてみよう。コンサルタントは、ここ20年余り続いてきた効率性に対する強迫観念が終わりを迎えたと唱えている。新たな合言葉は「レジリエンス」である。

 こうした新しい考えは、プライベートエクイティファンドの間では受け入れられつつある。Bain & Companyがアジア太平洋地域のジェネラルパートナーを対象に行った最近の調査では「投資先企業の短期利益のうち少なくとも5%を長期的なレジリエンス獲得に向けた投資に振り向けたい」とした回答者は全体の60%に上った。

 最大規模を擁する公的年金基金のいくつかも、こうしたトレードオフの考え方を十分に理解している。カナダで最大級の年金投資管理企業であるPublic Sector Pension Investment Boardは気候変動について「様々なセクター、地域、資産クラスの投資リスクおよびリターンに重大な影響をもたらす可能性の高い長期の構造的トレンドの1つ」と捉えている。そして「これに伴い、ポートフォリオ構築プロセスで気候変動に対するレジリエンスを積極的に考慮し、気候リスクを投資判断に組み入れる必要がある」とも述べている。

 言うまでもなく、多くの責任ある投資家は常に「レジリエンス」を考慮してきたはずである。River and Mercantile GroupのESG部門責任者のロジャー・ルイス(Roger Lewis)氏は「気候に関して、レジリエンスはESGに組み入れられ、ESGに不可欠な要素となっている。(中略)投資プロセスにESGを確実に組み入れることで、既に『レジリエンス』は達成可能になっている」と述べた。フランスの資産運用会社La Financière de l'Echiquier が行った最新のSRI & Performance調査によると、ESGスコアが高い会社はパンデミックに対するレジリエンスも高いことが明らかになった。最高レベルのESGスコアを持つポートフォリオの2020年の投資リターンは15%となり、ESGスコアが最低レベルのポートフォリオの68倍も高い。

 Majedie Asset ManagementのResponsible Capitalism部門責任者のシンディ・ローズ(Cindy Rose)氏は「気候および地球システムの不確実性が高まる時代を支配するのはレジリエンスだろう」と語ったが、もはやこれに同意せざるを得ないだろう。

 まさに「1度の失敗ならだれでもあるが、2度目の失敗は言い訳にならない(Fool me once, shame on you; fool me twice, shame on me)」という諺どおりである。いまや時代はESGRである。


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【参照】
Responsible Investor, Christopher Walker「Preparing for Green Swans: Why 'ESG' must become 'ESGR'」2021年7月22日(2021年8月11日情報取得)


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