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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 米国では「ダブル・マテリアリティ」をめぐる綱引きが続いている。証券取引委員会(SEC)のエラド・ロイスマン(Elad Roisman)委員は、金融当局がESG関連情報の開示要件を定めるにあたっては「投資判断を下す上で重要な」情報のみを対象にすべきであると述べた。

 2021年6月22日に全米IR協会が主催したイベントで講演したロイスマン委員は、SECは現行のアプローチを維持すべきであり、「一見するとマテリアリティを限定していないように見えても、SECが策定した開示要件はマテリアリティを指針としている。SECが新たに開示要件についての検討を続ける上で、引き続きマテリアリティを目安とすべきだろう」と主張している。

 同委員の発言は、SECの5人の委員の間に意見の分裂があることをうかがわせる。ロイスマン委員は共和党委員2名のうちの一人で、マテリアリティをめぐる見解は民主党のアリソン・へレン・リー(Allison Herren Lee)委員と真っ向から対立する。リー氏は先に、SECが企業向けルールを策定する際にはマテリアリティに縛られることはないと述べた。

 「SECが自らのルールで開示を義務づけている個別の情報ごとにマテリアリティを設定しなければならないという考えは法律上誤りであるほか、歴史的にみて根拠がなく、現代の投資家のニーズとの整合性もない。特に、気候やESGに関してはそうである」とリー氏は説明した。

 委員同志の対立は、10月の暫定的な公表に向けたESG関連情報の新たな開示ルールの草案作りを進めるSECにおける課題の大きさを示している。草案に対する公開ヒアリングは既に終了し、250を超える回答が寄せられた。

 市場における主な意見の相違点の1つは、金融当局がESG関連情報の開示を義務づけるにあたり「ダブル・マテリアリティ」の考えを採用すべきか否かという点だろう。ダブル・マテリアリティは、社会および環境問題が企業の財務業績に及ぼす可能性のある影響についての情報と、企業が社会や環境に及ぼす影響に関する情報の両方を考慮する概念を示す。欧州はこのアプローチを導入しているが、それが企業や投資家に過度の負担をかけ、受託者責任の解釈が曖昧になりかねないという懸念の声も一部では聞かれる。

 サンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー(Mary Daly)総裁は、気候変動は米連邦準備理事会(FRB)の「デュアル・マンデート」である雇用の最大化と物価の安定という2つの主な政策目標に影響を及ぼす可能性があるため、この問題はFRBの管轄下にあるとの見解を示した。さらに、気候変動は貯蓄行動、労働生産性、設備投資にも影響を及ぼす可能性があり、将来の景気後退に対応する上で有効となり得るFRBの政策余地をさらに狭めかねないとも述べた。

 デイリー総裁の発言は、米国のシンクタンクであるピーターソン国際経済研究所が主催したウェビナーでのものだが、その直前にはFRBのジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長が「気候変動は金融政策決定の際に直接考慮するものではない」と語っていた。

 その他、60を超す中央銀行および金融当局が加盟する国際決済銀行(BIS)は、テクノロジーを活用してESG情報開示およびデータ利用の質の向上を目指す4つのプロジェクトを発表した。BISは、金融機関によるESGデータの収集および開示の支援、サステナビリティ情報開示の質と比較可能性の向上、インパクトに関する情報開示の改善、温室効果ガス排出量やその他のESG関連指標の測定を可能にするテクノロジーの開拓を目指している。

 これらプロジェクトの取りまとめ役をBISイノベーション・ハブが担うことを責任者であるブノワ・クーレ(Benoît Cœuré)氏が明かした。ハブは、国際共同研究やデジタルイノベーションの発展を目的に2019年に設立された。


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【参照】
Responsible Investor, Khalid Azizuddin「SEC fault lines widen over ESG ‘materiality’」2021年6月23日(2021年7月6日情報取得)

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