US_SEC
RI_logo

 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 ドイツの保険最大手アリアンツ傘下の資産運用会社が米国証券取引委員会(SEC)に対し、マテリアリティの範囲を限定するアプローチは、「ダブル・マテリアリティ」の考えに基づきサステナビリティ情報の開示を推進するEUなど他の地域との「違い」を助長させると警告した

 アリアンツは、SECが実施した気候リスクに関する企業の情報開示についてのヒアリングに「ダブル・マテリアリティがESG目標とサステナブルファイナンスの達成のカギを握ると確信している。また、EUのサステナブルファイナンスの枠組みは事実上ダブル・マテリアリティのアプローチをとっていることから、世界の他の主要地域がシングル・マテリアリティ・アプローチを採用すれば、地域ごとに異なるESGの野心的目標やアプローチの違いを埋めるどころか、さらに拡大させることになりかねない」と回答した。

 ダブル・マテリアリティとは、サステナビリティ要因が企業または資産の財務実績に及ぼす影響だけでなく、企業や投資活動が環境や社会に及ぼす影響を考慮する考え方を示す。

 5,000億ユーロを超える運用資産を擁するアリアンツ・グローバル・インベスターズ(アリアンツGI)は回答書の中で、自らを「ダブル・マテリアリティ原則」の「強力な支持者」であるとした上で、「シングル・マテリアリティ」は「マテリアリティを単純化しすぎているだけでなく、投資プロセスにおけるESG要因の重要性を事実上否定することにつながる」との考えを示している。

 SECのコミッショナー(委員)であるアリソン・ヘレン・リー氏は2021年5月の講演で、SECがESGや気候変動に関するものを含めて企業の情報開示ルールを策定する際、マテリアリティの狭い概念に縛られることはないと述べた。

 「SECが自らのルールで開示を義務づけている個別の情報ごとにマテリアリティを設定しなければならないという考えは法律上誤りであるほか、歴史的にみて根拠がなく、現代の投資家のニーズとの整合性もない。特に、気候やESGに関してはそうである」と同委員は主張した。

 3月に、米国企業に気候変動に係るリスクの開示を義務づけるSECルールの草案作成にあたって公開ヒアリングの実施を発表したのも、当時、委員長代行を務めていたヘレン・リー氏だった。

 英資産運用会社Baillie GiffordもSECへの回答書で、マテリアリティに関してはEUに追随し、開示情報に「悪影響に関する指標」を盛り込むことを検討するよう促した。EUのサステナブルファイナンス開示規則(SFDR)は投資プロセスでサステナビリティをいかに考慮しているかについて透明性を高めることを目的に制定され、「悪影響(Adverse Impacts)」についての情報開示を義務づける条項が盛り込まれている。

 「我々は、SECが上場企業に年次報告書(フォーム10-K)への記載を義務づけている指標の一つに気候関連ではない悪影響に関する指標も加えるよう促すつもりである。また、①温室効果ガスのスコープ1、2および3の排出量②排出量の相対的および絶対的な削減目標③削減貢献量についても開示を求める」と同社は回答書で述べている。

 ヒアリングでは学術団体、企業、アセットオーナー、アセットマネジャー、NGO、コンサルタント会社、業界団体、さらにはフィンランド銀行(中央銀行)などから250を超える回答書が提出された。

 予想にたがわず、石油パイプラインのエンブリッジや石油メジャーのシェブロンといった企業は、マテリアリティを狭義で捉えることを求める回答を提出した。ちなみにエンブリッジは、SECが上場企業に課す報告書類の作成目的を「投資家が企業の事業内容、重大なリスクおよび機会、財務業績を把握するために必要な情報の提供」に引き続き限定するよう促した

 アリアンツGIはヒアリングに対する回答書の中で、EUが進めている企業情報を閲覧するためのデータプラットフォーム設立プロジェクト「European Single Access Point」のような「サステナビリティに関するあらゆるデータのセントラル・レポジトリ」の創設を「支持する」とも述べている。

 金融当局が監督するそのようなリソースが設けられれば、「ESGデータ市場の民主化」につながる可能性があるほか、「発行体が多数のESGデータプロバイダーへのデータ提供を求められ、ESGデータプロバイダーが投資家にその情報を高い値段で販売するという現状を終わらせこともできる」と アリアンツGIは指摘する。

 レスポンシブル・インベスターは以前、アリアンツとS&P Globalが共同開発した「OS-Climate」と呼ばれる「非競争的」なプラットフォームについて紹介した。同プラットフォームに気候関連データや分析を保管し、幅広い市場関係者が追加コストなしで利用できるようにしている。

 米NPO「Ceres」も、全米で最大手の公的年金の1つであるニューヨーク州退職年金基金やCalSTRSを含む大規模な投資家グループの一員としてヒアリングに回答し、新たに気候関連情報の開示ルールを定める際には、最低でも以下の要件を満たす必要があるとの見解を示した


RI_logo

【参照】
Responsible Investor, Paul Verney「European investors push US regulator to use ‘double materiality’ in climate disclosure rules」2021年6月15日(2021年6月28日情報取得)

【関連記事】
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】ESG情報開示のゆくえ - IFRS財団の提言が意味すること」2020年11月2日
https://www.esg.quick.co.jp/research/1152
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】IFRSのサステナビリティプロジェクトはダブル・マテリアリティを中心に据えない「後ろ向きの一歩」 サステナビリティ基準審議会の具体化を前に投資家間で重要課題の見解に相違」2021年1月12日 
https://www.esg.quick.co.jp/research/1190
QUICK ESG研究所「【QUICK ESG研究所】SFDRの概要と金融機関の対応状況」2021年6月7日 
https://www.esg.quick.co.jp/research/1247


QUICK ESG研究所