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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 2021年5月、石油メジャーであるエクソンモービルの株主総会で起きた歴史的反乱は、会社側が提示した取締役候補の代わりに株主が推薦した「気候課題に対する専門知識のある」取締役候補の3人が選任されるというもので、世界中の企業の取締役会に向けて「低炭素社会への移行に備えなければ命取りになる」との明確なメッセージを発信する結果となった。

 一方、フェイスブック、ツイッター、アルファベットの株主総会で提出された株主議案に対する支持率をみる限り、ESGのうち「S(社会)」課題に対する取締役会の適応力について、株主は投資家ほど重要視していないように思われる。

 カリフォルニアに本拠を置くこれら巨大IT企業は、米国のアクティビスト投資家であるArjuna Capitalが提出した株主提案で、人権専門家を取締役候補とするよう求められた。しかし、この提案に対する株主の支持率はフェイスブックが4%、アルファベットが10%、ツイッターは14%にとどまった。

 株主提案には、投票妨害、虚偽情報、ヘイトスピーチといった問題について、これらの企業が果たすべき具体的な役割も盛り込まれていた。

 Arjunaのエクイティ・リサーチ&シェアホルダー・エンゲージメント部門のディレクターを務めるナターシャ・ラム(Natasha Lamb)氏は、レスポンシブル・インベスターの取材に対し「ソーシャルメディア企業における人権・公民権の侵害は、石油メジャーが気候変動問題で直面しているのと同じ種類の存亡の危機を意味している。彼らが事業を行うための『ソーシャル・ライセンス』は脅かされており、これら企業に対する独占禁止法違反訴訟の多くは、そのリスクが現実のものとなりつつあることを示している」と述べ、「事態を収拾できない場合は規制当局が介入することになるだろう。重要なのは、投資家が懸念を表明することだ」と指摘する。

 フェイスブックの総会では、児童労働搾取リスクに関する情報開示を求める別の株主議案の採決も行われ、17%の株主の支持を得た(昨年は13%)。

 だが、IT企業の多くはデュアル・クラス・ストラクチャー(DCS)という形(種類株式で1株当たりの議決権が経営側により多く付与される仕組み)で株式を発行しており、投票結果が歪められやすくなっていることから、こうした支持率の低さは必ずしも投資家の考えを反映しているとはいえない。

 例えば、フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグMark Zuckerberg)氏は同社の発行済み株式の13%未満を保有しているにすぎないが、付与されている議決権の割合は50%を超えている。米国NPO「Open Mic」の推計によると、児童労働搾取に関する株主提案への賛成票は経営陣以外の株主の56%を占めていたことになる。

 ソーシャルメディアの巨人である同社に異議の多いDCSを廃止するよう求めた株主提案は、今年の総会で独立系株主の90%超から支持された。だがOpen Micによると、賛成票は議決権全体の27%を占めるにすぎない。また、アルファベットの今年の総会で同様の株主提案に対する賛成率は、株主全体3分の1をわずかに下回る31%であった。

ネットフリックスの投資家はガバナンスを問題視して取締役を否決

 ネットフリックスの年次株主総会では、投資家による経営への介入を阻止するため企業が用いるもう1つの戦術である「スーパーマジョリティ条項」(株主総会における決議要件をあらかじめ厳しく設定する方法)をめぐって株主の抵抗がみられた。

 ここ数年、同社は過半数の株主が賛成票を投じた20件を超える議案を無視したとして非難されてきた。このうち4つの議案は、決議要件を50%超の得票を満たしていればよいとする「単純多数決」の導入を求める内容だった。

 これを受け、今年の総会では改選対象の4名の取締役全員について反対票が賛成票を大きく上回る結果となった。反対票の割合はリチャード・バートン氏(米オンライン不動産仲買業者Zillow GroupのCEO)が65%、ブラッド・スミス氏(Microsoft社長)は53%であった。

 議決権行使助言会社であるISSは、ネットフリックスが株主の懸念に一向に対応しようとしていない状況を踏まえ、既存の取締役候補全員に反対票を投じるよう助言したとされる。

 皮肉にも、同社が定めた「スーパーマジョリティ条項」(取締役の選出を阻止するためには議決権の3分の2超の反対が必要)によって、取締役は解任を免れることになるだろう。なお、「単純多数決」ルールに対する投資家の投票も行われ、81%が支持を表明した。

トムソン・ロイターに対する人権関連株主議案の支持率は倍増

 大手情報企業トムソン・ロイターの年次株主総会では、独立した投資家の70%超が人権をめぐる株主議案に賛成したと報じられている。だが、トムソン家が議決権の66%を保有しているため、賛成票の割合は議決権全体では19%にとどまる。

 ブリティッシュコロンビア州政府およびサービス従業員組合 (​BCGEU)が提出したこの議案は、カナダに本拠を置く同社に対して、移民の処遇が懸念事項となっている移民関税執行局などの米国の法執行機関との契約によって生じる人権リスクを評価するよう求める内容で、昨年に続く2度目の提出となった。

 今年は昨年の2倍を超える70%の賛成票を得たが、その一因は議決権行使助言の大手2社であるISSとGlass Lewisがともに賛成を支持したことにある。

セクシャルハラスメント

 米TVネットワークNBCを傘下に置くケーブルテレビ最大手コムキャストの株主総会では、同社が職場のセクシャルハラスメント防止策を講じていないとの訴えに付随するリスクについて情報開示を求める株主議案に5分の1を超える投資家(全体の22%)が賛成票を投じた。昨年は、Arjuna Capitalが提出した同様の議案の支持率が13%にとどまっていた。

労働者の権利

 カリフォルニアを拠点に太陽光発電システムを手掛けるサンランに対しては、雇用契約に強制的仲裁条項を採用していることによる影響について情報開示を求める株主議案が提出され、過半数(59%)の株主がこれを支持した。強制的仲裁条項は、従業員による申し立てを裁判ではなく社内の仲介人を通じて行うよう強制するもので、米国では連邦政府と州の両方でこれを法的強制力のないものにするための法案が提出されている。この議案はアクティビスト投資家であるNia Capitalが提出した。

 昨年は、ニューヨーク市のスコット・ストリンガー(Scott Stringer)会計監査官が同様の議案をファストフォード・チェーン大手のチポトレに対して提出し、過半数(51%)の賛成票を得た。

気候変動

 デルタ航空の株主総会では、ロビー活動がパリ協定にどの程度整合しているか明らかにするよう求める株主提案の議決が行われた。昨年BNPパリバが提出した同様の議案は、株主の46%という高い支持を得た。米最大の公的年金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)は、自らの立場を利用してこの議案への支持を表明し、他の株主にも同様の行動をするよう働きかけた。BNPパリバは「Climate Action 100+ (CA100+)」の活動の一環として同社へのエンゲージメントを主導しており、ロビー活動がパリ協定の目標にどの程度整合しているかについて情報開示するよう求めている。

 また、CA100+のエンゲージメント対象である大手機械メーカーであるキャタピラーに出された株主議案が、47%の株主から支持を得た。議案は米NPOであるAs You Sowが提出したもので、資産運用総額54兆ドルを擁するCA100+が昨年公表した低炭素化の進捗状況を評価するためのモニタリングツール「CA100+ Net-Zero Company Benchmark」で取り上げられている指標に同社の経営方針と業績内容がどの程度整合しているか明らかにするよう求めている。

 「測定可能かつ包括的な排出目標および計画を設定しなければ、低炭素社会における同社の企業としての競争力はさらに低下すると株主は想定せざるを得ない」とAs You Sowのダニエル・フジェール(Danielle Fugere)代表は述べている。


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【参照】
Responsible Investor, Paul Verney 「‘Civil rights abuses at social media companies represent the same kind of existential crisis the big oil companies face on climate’: investors shy away from board shake up proposals at tech giants」2021年6月11日(2021年6月25日情報取得)


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