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 欧州連合(EU)でサステナブルファイナンス開示規制(SFDR)の適用が3月10日からスタートした。EU域内の金融機関や運用会社、そして投資家に金融商品を販売するEU以外の外国の金融機関や運用会社が対象となる。ESG(環境・社会・企業統治)の観点から金融商品・運用商品の評価、開示が義務付けられる。今後、様々な形で金融商品や運用商品のESG評価が広がると思われるが、今回は、日本の投資家にも良く知られている米国の著名投資家であるウォーレン・バフェット氏が経営するバークシャー・ハザウェイ社(BH社)の株式ポートフォリオ(=バフェット・ポートフォリオ)をESG評価してみたい。

 ■バフェット・ポートフォリオ、8割以上のESGスコアが50上回る

  BH社の2020年度のアニュアルレポートの7ページに、20201231日時点の上場株式の保有銘柄が掲載されている。下記16社が保有銘柄となっている。この16社中1社(オキシデンタル・ペトロリウム)を除き、普通株式である。BH社はオキシデンタル・ペトロリウムの優先株とワラント債を保有している。

  まず、保有銘柄それぞれのESGスコアを確認してみたい。

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 保有銘柄のスコアを見る限り、国連グローバル・コンパクトの原則から企業行動を評価するGCスコアでは、16社中14社のスコアは50を上回っており、企業行動から生じるレピュテーション・リスクは抑えられていると考えられる。

 一方、企業の属するセクターで将来の財務パフォーマンスに影響を与える可能性のあるESG要因の重要性(マテリアリティ)を考慮したESGスコアでも16社中13社のスコアは50を超えているので、同業の中でも優位なポジションを築いているといえる。GCスコア、ESGスコアともに50を下回ったのは米ケーブルTV会社のチャーター・コミュニケーションズである。同社のサブスコアをみると環境のスコアが低いことがわかる。

■バフェット・ポートフォリオ、ESG観点では予想以上に優秀

 それでは、上記の銘柄群を一つのポートフォリオと考え、アラベスクS―Rayでスコア対象となっている企業をユニバース(バフェット・ポートフォリオ)と想定し、アラベスクS―Rayユニバースとの比較を行ってみた。

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 上のグラフでは、ESGスコアをX軸、GCスコアをY軸にとり、アラベスクS―Rayユニバースに含まれる企業のスコアを点で表示したグラフである。この中で、バフェット・ポートフォリオに含まれる企業を紫色の点で表している。バフェット・ポートフォリオに含まれる企業の点は座標の真ん中から右上に位置しているので、アラベスクS―Rayユニバースの中でもスコア的に優れた企業と言える。

 次に、アラベスクS―Rayユニバースとバフェット・ポートフォリオの平均スコアを比べてみた。

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 バフェット・ポートフォリオの平均スコアはGCスコア(総合)、ESGスコア(総合)ともにアラベスクS―Rayユニバースを上回っている。バフェット・ポートフォリオのGCスコアの人権、労働、環境のサブスコアはそれぞれ10ポイントほどアラベスクS―Rayユニバースの平均を上回っている。しかし、腐敗防止のサブスコアやESGスコアのガバナンスのサブスコアは、アラベスクS―Rayユニバースの平均スコアを下回っている。

 BH社は自社ポートフォリオに含まれる企業の中で腐敗防止やガバナンスの取り組みの向上や改善を促す必要があるであろう。アラベスクS―Rayユニバースは世界の上場企業約8000社で構成されているため、その平均スコア等は個々のポートフォリオのESGの状況を確認する際の良い比較対象といえる。

 筆者は、バフェット氏が米国経済の成長に期待している一方、情報技術(IT)企業への投資には慎重姿勢を保ち、投資先は米国企業とIT関連以外の企業に偏っていると今回の分析前は考えていた。

 予想通り、実際に昨年12月末の保有銘柄を見る限り、BYD(中国)と伊藤忠商事を除く全ての銘柄が米国企業で、さらに、アップル、ベライゾン、チャーター・コミュニケーションズを除くと全て銀行、石油、自動車、飲料といったいわゆるオールド・エコノミーの企業であった。しかしながら、このようなバフェット・ポートフォリオは結果的に、ESGの観点では予想していた以上に優秀であるといえる。

■バークシャー・ハザウェイ社自体のESG評価は?

 それでは、最後に、BH社自体を一企業としてみた場合のESGをみてみたい。

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 同社のGCスコア(総合)、ESGスコア(総合)はいずれも50を下回っており、優れているとはいえない。むしろ、前述のBHポートフォリオの方がESGの状況は優れているようにみえる。BH社のサブスコアは50を大きく下回っている項目が多いが、腐敗防止とガバナンスのサブスコアは50を上回っており、これらの二つのサブスコアが低かったバフェット・ポートフォリオの弱点を補っているようだ。

 BH社が環境、社会、人権、労働のサブスコアが低い理由として考えてみたところ、同社は保険事業を中心に複数の異なる業種の事業を経営する非上場企業を複数抱えていることが関係していると思われた。

 前述の同社のアニュアルレポートによると、サステナビリティ関連を意識した記載があったのは傘下企業のバークシャー・ハザウェイ・エナジー(エネルギー)、バーリントン・ノーザン・サンタフェ(鉄道)、そしてルーブリゾール(化学)の三社程度であった。つまり、これら傘下の非上場企業のESGに対する意識や関心は上場企業に比べて低いのであろう。

 今後、BH社としてESGの評価を上げていくためには、同社が経営する非上場の子会社に対するESGの情報開示を強く促す必要があるであろう。

(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)


雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。