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 企業の社会的責任およびESG課題の一つとして、税に対する責任と透明性のある開示を求める機運が高まっている。多国籍企業等による過度な節税策(税源浸食と利益移転:BEPS)は、社会の不平等を助長させ、持続可能な開発目標(SDGs)の実現をも阻害し、ひいては企業自身の持続可能性にも影響を与える可能性がある。これらに対し機関投資家は企業に対するエンゲージメントを強化しており、ESG情報開示基準やESG評価にも変化が起きている。

サステナビリティとの関係

 英国タックス・ジャスティス・ネットワークの報告によると、世界の国々は、税金を回避する富裕層や企業によって、年間4270億ドルの税収を失っているという。この損失のうち約2450億ドルは、法人税が存在しないか、非常に低い「タックス・ヘイブン(租税回避地)」に企業が利益を移したことによるものである。税は、社会保障・福祉や、水道、道路などの社会資本整備、公的サービス、海外援助や地方自治体への交付金など、社会活動を支える重要なメカニズムだ。国連も、税金(の支払を免れるため)の資金流出があれば、持続可能な開発目標(SDGs)の実現にも大きな影響を及ぼすとしている。企業にとっても、税の透明性を確保することは、ESGへの幅広い取組みの基本的な部分といえよう。

国際的な枠組みの推移

 1990年代、グローバル化の進展に伴い税制上の優遇措置を提供する国や地域が出現し、多国籍企業による意図的な二重非課税課題が顕在化し始める。欧州を中心に取り組みが推進される中、OECDは租税回避や租税競争に対抗するため1998年に「有害な租税競争」と題する報告書を公表した。そして2001年、米ブッシュ政権下のオニール米財務長官が「低税率は問題ではなく情報交換に限りOECD のイニシアティブを支持する」と発表したことを機に、焦点は租税競争の防止から「税の透明性」にシフトする*。

 2008年の金融危機により各国の財政状況・国民負担が悪化した影響もあり、多国籍企業の課税逃れ(BEPS)に対する批判は更に高まる。そして2009年、G20は課税の透明性をサミットの主要議題とし、2012年にはG20の要請に基づきOECD租税委員会がBEPSプロジェクトを開始した。2015年には15項目からなる「BEPS行動計画に関する最終報告書」を公表し、2021年1月には、93の国と地域が、行動計画のうち租税条約に関する措置を実施するための多数国間条約に署名するに至っている

 機関投資家の認識と行動

 長期投資家が税の透明性の課題を重視する理由は、法人税額は会社の収益性に関する重要事項であるだけでなく、各国および投資先企業の持続可能性を可能にする基盤であると認識しているからだ。2015年以降、責任投資原則(PRI)は世界中の機関投資家と共同で税の透明性をテーマに取り組んでいる。2017年には投資家が企業と対話をするためのガイダンスを公表し、投資家からみた企業開示の問題点を整理し、企業が情報開示すべき要素を提言した(図1)。2017年から2019年には36の機関投資家(運用資産額合計約2.9兆米ドル)と協働エンゲージメントを実施し、41の企業に国別報告など税務慣行に関する改善を求めた。ノルウェーやオランダといった欧州のアセットオーナーも税の透明性に関する方針を掲げ、企業への期待を示している

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(図1)PRI「EVALUATING AND ENGAGING ON CORPORATE TAX TRANSPARENCY: AN INVESTOR GUIDE」Investors' recommendations を基にQUICK ESG研究所が作成

ESG情報開示基準、ESG評価

 2019年12月にはGRIが税の透明性に関するスタンダード「GRI207:TAX2019」を公開した。世界経済フォーラム(WEF)が2020年9月に提示した開示指標においても、納税に関連する指標が含まれている。また、FTSEやMSCI、S&P CSA、Vigeo Eiris等の代表的なESG評価機関も、責任ある税務慣行へのコミットメントや、取締役会による監督、税務データの開示に関する評価指標を整備している。

 企業による過度な節税や不透明な税務慣行は、マクロ経済と社会の歪みを引き起こし、評判やブランド価値の低下やマネジメント問題、長期的な投資収益の損失に繋がりかねない。投資家を含むあらゆるステークホルダーからの要請事項として、企業は対応が求められている。

 * 陣田直也、「租税競争への対抗と第2の柱」、財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」令和2年第2号(通巻第 143 号)2020 年6月、p.82
https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r143/r143_05.pdf

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QUICK ESG研究所 アナリスト 平井采花