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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 新型コロナウイルスのパンデミックを機に、多くの投資家が企業に労働者の権利を保護するよう声を上げている。労働者は投資家からの支援を背景に企業への説明責任を求めているだけに、こうした支持が公に示されるのは歓迎すべき流れである。

 労働者のための人権擁護団体「Venceremos」のエグゼクティブ・ディレクターであるマガリ・リコリ(Magaly Licolli)氏は、2021年2月に開催された米食肉加工大手タイソン・フーズ社の年次株主総会で「タイソン・フーズ社の従業員は賃金、有給休暇、安全な労働環境の大幅な改善を求めている。彼らは国内最大手の食肉加工会社に勤めているにもかかわらず、公的補助なしでは生活が成り立たない状況に置かれている」と訴え、株主に人権デューディリジェンスを求める株主議案に賛成票を投じるよう促した。

 投資家は対話に加え、株主提案や議決権の行使を通じて企業にESG関連の行動を促す。特に、ほぼ全ての上場企業の株主であり、大きな影響力を持つグローバルな大手アセットマネジャーの議決権行使に係る意思決定の透明性は重要である。国内最大の公的年金であるカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)は、議決権行使方針を公表し、「これに倣って投票するよう株主に促す」としており、自社の情報公開が市場へのシグナル発信につながることを認めている。

 2020年7月、120を超える労働者の権利擁護団体がタイソン・フーズ社の株主トップ10に名を連ねる投資家に対し、労働者の安全および健康確保を会社側に促すレターを送付した。その後「ビジネスと人権リソースセンター」に、これらの投資家に接触し人権デューディリジェンスを求める株主議案に対してどのような投票行動をとるか明らかにするよう求めた。「Investor Advocates for Social Justice」のジーナ・ファラダ(Gina Falada)氏は、同議案は「有給休暇、ソーシャルディスタンス、接触者追跡、ラインスピード、公正な報酬など、タイソン・フーズ社の労働者が指摘した主な懸念事項を取り上げた」ものであると述べる。

 これら10の投資家はいずれも米国を本拠とするアセットマネジャーで、責任投資原則(PRI)署名機関でもあり、株主としてESG課題に配慮した行動をとっているはずである。このうち5社は求めに応じて回答を示したものの、いずれも事前に投票行動を公表することには後ろ向きだった。また、Aristotle Capital、Geode Capital、インベスコ・リミテッドおよびエルエスブイ・アセット・マネジメンは投票記録を一切明らかにしていない。

 タイソン・フーズ社の最大の株主であるVanguardは、2020年の議決権行使方針で、「投資先企業の情報開示内容が(中略)主要な競合他社の慣行―(そしてそれが)業界固有のマテリアリティに基づくアプローチに準じている場合―に比べて不十分な点を正すような(社会問題に関する)株主議案であれば、支持する可能性が高い」としている。だが、同社はタイソン・フーズ社の2020年株主総会で、 人権に関する株主議案に反対票を投じただけでなく、株式を400万株近く買い増しており、株式保有比率は一気に10.7%まで上昇している。

 タイソン社は、新型コロナに感染した従業員の死亡率が同業者の中で最も高く、感染者数も3~4倍多いとの訴えを受けており、これについても対応を迫られている。こうしたガバナンスとリスク管理の欠如は企業に財務リスクをもたらし、それに伴い投資家も規制上のリスク(開示情報が誤解を招きかねないとして調査対象となるリスク)や法的リスク(同社に対して複数の訴訟が起こされるリスク)、人材管理リスク(生産性の低下と従業員離職率が上昇するリスク)、営業停止リスク(工場の閉鎖、輸出の停止)、風評リスクに直面する恐れがある。

 その他の投資家の間でも、議決権行使に係る方針とその実践状況には差がみられる。インベスコの方針には、「ガバナンスまたはリスク管理において重大な不履行(中略)―健康および安全に係る重大なインシデントや人権保護の不履行などを含む―が認められる場合、取締役に反対票を投じる可能性がある」と記されている。また同社は、投資先企業に労働者の安全確保を求める、新型コロナに関する投資家声明にも署名しているが、自らの投票記録は一切公表していない。ティー・ロウ・プライスとステートストリートなども、2019年に提出された人権保護に関する株主議案に反対票を投じたことを明らかにし、その後は投票記録を公表していない。

 このような透明性の欠如が見過ごされてはいけない。EUの金融機関を対象としたサステナビリティ関連の情報開示規制(EU Sustainable Finance Disclosure Regulation: SFDR)は、2021年3月から投資家により透明な情報開示を求める。OECDのガイドライン機関投資家によるデューディリジェンスを期待することを明記した上で、投票記録の公表はESG方針が実践されていることを明示する手段であるとしている。人権分野の投資家イニシアチブ「The Investor Alliance for Human Rights」はアセットオーナーに対し、アセットマネジャーに議決権行使方針と投票記録の公表を求めるよう呼びかけている。また、責任投資原則(PRI)は 3,000を超える署名機関を代表して人権に関する投資家の要望を取りまとめている。民間団体の間でも、社会・環境問題に関する株主議案への投票行動について投資家に説明責任を課す動きが広がっている。

 英国の機関投資家3社による調査では、複数のESG関連ファンドの社会問題への関心(投票行動も含む)が欠如していることが明らかになった一方で、望ましい行動の事例も示された。

 コロンビア・スレッドニードル・インベストメンツは、2020年のタイソン社の株主総会で人権保護に関する株主議案を支持したことを明らかにし、「2020年半ばにタイソン社の経営幹部に2度にわたりエンゲージメントを行い、パンデミック対策や従業員の処遇について協議し、その内容をもとに今回(2021年)の投票を行った」としている。

 ブラックロックは2020年のタイソン社の総会で人権保護を求める株主議案を支持し、「持続可能な労働環境に関する会社側の情報開示と業務慣行に納得できなかった」とコメントしている。

 特に、労働者の権利や人権の深刻な侵害が疑われる場合には、投資家は投資先企業に自らの投票をめぐる意思決定を伝えるだけでなく、そうした情報が企業から権利者に伝わるようにすることも重要である。ファラダ氏は、「投資家がタイソン社の従業員と新型コロナウイルスが健康と経済状況に及ぼす深刻な影響について協議したところ、会社側のパンデミック対策は効果がなく、労働者が最も必要としている事柄に対応できていないことがわかった」と指摘している。

 議決権行使結果に加え、投票記録のタイムリーな公開はさらに大きな効果を生むとみられる。ブラックロックは、今回のタイソン社の株主総会が終了した数時間後に投票速報を発表し、同社へのエンゲージメントの詳細と人権デューディリジェンスを求める株主議案に賛成した理由を説明した。さらに、米国の大手公的年金基金であるカリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)と世界最大のソブリンウェルスファンドのNorges Bank Investment Managementは、いずれも株主総会の開催前に株主議案に賛成票を投じる意向を明らかにし、労働者の権利を支持するという強いメッセージを市場に発信した。


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【参照】
Responsible Investor, Felicitas Weber「The Tyson Foods AGM: an example of how shareholder transparency on voting on social issues matters」2021年2月12日(2021年2月25日情報取得)


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