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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 機関投資家は、気候変動対策を世界的な流れに発展させる上で重要な役割を果たしてきた。今度は栄養危機問題の解決に向けても、同じように強力な役割を担うことが求められている。

 不健康な食事は人々に深刻な影響を及ぼす。栄養不良の状態にある人は、世界で8億2,000万人を超えると言われていたが、国連世界食糧計画(WFP)はCOVID-19 のパンデミックの影響により、今後さらに数百万人が深刻な食料危機と飢餓に直面しかねないとの厳しい警告を発している。

 世界全体では、健康維持に不可欠なビタミン・ミネラルなどの微量栄養素が不足している人が多くいる一方、肥満状態にある人も20億人以上いる。先進国では、生鮮食品より脂質、塩分および糖分がより多く含まれる加工食品から栄養を摂取する人の方が多い。新興国では都市化が進むにつれ、加工食品の需要が拡大し、それに伴い肥満率や罹患率が上昇している。中南米諸国では、2000年から2013年までの間に加工食品の売上高が倍増し、肥満問題が深刻化している。

経済に及ぼす長期的な影響

 食料不足が経済全体に及ぼす主な影響として、①当該国の長期的な経済成長の足かせになる②保健・衛生分野への政府支出の増加が挙げられる。

 英国のシンクタンクである王立国際問題研究所(Chatham House)の試算によると、低・中所得国では、栄養不良による生産性の低下を原因とする企業の損失額が年間8,500億ドルに上る。世界銀行は、アフリカおよびアジア諸国における低栄養がもたらす国全体の経済的コストは、年間GDPの最大11%に相当すると分析している。OECDは、肥満に起因する雇用者数の減少や生産性の低下により、加盟国における2020~2050年のGDPは平均3.3%低下すると予測している。

 さらに、食生活に起因する病気(13種類のガン、循環器疾患、高血圧、2型糖尿病など)の罹患者が増えれば、国の医療体制に多大な財政負担がかかる。OECD加盟各国の試算によると、2020~2050年の医療予算のうち、平均8.4%を肥満症に起因する疾病の治療に充てている。

健康的な食品に対する消費者ニーズの高まりと規制の強化

 多くの食品製造企業は、健康的な食品に対する消費者ニーズの高まりをビジネス機会として捉えた投資を実施している。この分野は、2020~2024年に年平均6%の成長が見込まれている。具体的には、より健康的な商品の製造を目指し、塩、砂糖および脂質の削減をしつつ、食感や味わいを損なうことなく果物と野菜をより多く使うことに取組んでいる。

 また各国政府も、より健康的な食生活への移行を加速させるべく規制を強化している。食事の内容を決定づける主な要因は食品環境であって、個人の選択や意志の力の不足によるものではない。そのため、システミックな問題として、食品の加工、表示、マーケティング、価格設定および販売の方法を変える対策が求められる。

 世界各国の政府は砂糖税の導入を進めており、現時点で砂糖税の導入事例は44件と炭素税の31件を上回っている。市場では、今後もより多くの国々が砂糖税を導入し、その適用対象範囲をビスケット、ケーキ、朝食用シリアルなどにも広げるとみている。メキシコでは2014年に甘味飲料への10%の課税が導入されると、2年以内にそれらの消費量は7.6%減少した。また、カロリー密度の高い食品(100グラム当たり275カロリー超)に8%の売上税を課したことで、それら食品の購入は8%減少した。

 不健康な食品の販売を制限する動きも広まりつつある。たばこと同様に、不健康な食品や飲料にも健康被害警告が記載されるようになっている。チリでは、2016年に食品パッケージへの漫画の使用制限、学校での不健康な食品の販売禁止、TVコマーシャルの制限、販促用食玩の禁止、不健康な食品のラベルには大きな文字で警告を記載することを義務化した。英国政府は2020年末、イングランドにおける不健康な食品の販売促進を制限する意向を明らかにした。ロンドン交通局は2019年、所管する交通システム全てで不健康な食品の広告を制限した。また、英国内では夜9時以前のファストフードのTVコマーシャルとオンライン広告を禁止している。オーストラリアのクィーンズランド州政府は、2,000を超える屋外広告スペースへの塩分、糖分および脂質を含む食品・飲料の広告掲載を制限している。

 今後も規制の導入が進む可能性は高い。2019年には公衆衛生の専門家グループが、たばこや気候変動に関する国連枠組条約に倣い、食品システムの枠組条約を提案した。規制の対象は不健康な食品で、赤肉とトウモロコシを補助金の対象から外し、税金を引き上げることで消費者に健康的で持続可能な食生活へのシフトを促す。また、政策策定のプロセスから食品業界を除外するとしている。

投資家による栄養への関心の高まり

 乏しい食生活は重大な社会問題であり、注目すべきであるとの認識が投資家間で広がっている。投資家は、企業に栄養をめぐるガバナンスと戦略、また自社の製品とポートフォリオの「健全さ」に関する情報開示を求めている。

 オランダに拠点を置く非営利組織「Access to Nutrition Initiative (ATNI) 」は2013年の発足以降、こうした情報を投資家に提供する指数を発表している。ATNIは世界の大手食品・飲料企業の栄養関連の取組みと実績について、企業の製品ポートフォリオの健全性を分析した製品プロファイルと、食品の含有成分からどの程度健康的かを表示するシステム(Health Star Rating)を用いて企業をランク付けしている。

 ATNIは2020年7月、投資家による調査とエンゲージメントを支援する目的で、「栄養、食と健康に対する投資家の期待(Investor Expectations on Nutrition, Diets and Health)」というイニシアチブを立ち上げた。現在、加盟投資家の運用資産総額は12兆ドル超に上るが、2021年は栄養問題が国際的なテーマとして議論されるとみられ、さらなる加盟機関の増加が期待される。ATNIは、SDGsで掲げる17の目標の全てで成果を上げるためには、より健康的で持続可能、かつ公正な食料システムの実現が重要であり、重要な会議の場に投資家の声を反映させたいと考えている。そのため、9月に開催される国連食料システムサミットでは、新たな行動を起こすことを目指している。さらに12月に開催予定の「Nutrition4Growthサミット」では、世界的な栄養改善に向けて産業界を含むステークホルダーのコミットメントを得ることを目指している。


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【参照】
Responsible Investor, Rachel Crossley and Katie Gordon「You are what you eat … you are what you invest in」2021年1月29日(2021年2月16日情報取得)


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