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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、10月29日に2020年版ステータス・レポートを発表し、TCFD提言に基づく開示が「必要以上に遅れており、劇的な加速が必要だ」と述べた。

 TCFD提言は気候関連財務情報の自主的な開示項目で、2017年に金融安定理事会(当時の会長はイングランド銀行のマーク・カーニー総裁)の下で公表された。多くの企業や政府が賛同を表明している。

 TCFD提言に基づく開示を企業に求める動きは世界各国で起きている。例えば、ニュージーランド政府は2020年9月、金融セクターを含む全ての企業に対し、TCFD提言に基づく情報開示を義務化する法案を国会に提出した。実現すれば、TCFD提言に基づく開示を法的義務とする世界初めての国となる。また今年初めには、ブラックロックのラリー・フィンクCEOが投資先企業にTCFD提言に沿った情報開示を求め、そうしない企業の経営陣に株主総会で反対票を投じる意向を示した。Climate Action 100+もTCFD提言に基づく開示を企業に求めている。

 だがTCFDの2020年版ステータス・レポートの発表記者会見において、米証券取引委員会(SEC)の前委員長で現在はTCFDのマイケル・ブルームバーグ議長の特別アドバイザーを務めるメアリー・シャピロ氏は、「取り組みをより強化しなければ気候危機の進行スピードや緊急性に対応できない」と述べた。

 TCFD賛同組織は1,500社に上り、賛同企業の時価総額は計12兆6,000億ドルに達するほか、賛同金融機関の預かり資産総額は150兆ドルに上る。

 本レポートでは下記の内容が報告された。

 ・大企業のほうが、TCFD提言に沿った開示が進んでいる。時価総額100億ドル以上の企業の42%はTCFD提言に基づき情報開示を行っている一方、時価総額28億ドル未満の上場企業では、15%だった。

 ・世界の時価総額上位上場企業100社のうち、約60%の企業がTCFDに賛同、もしくはTCFD提言に沿った情報開示を行っている。

 ・TCFD提言に基づく情報開示が最も進んでいるのは「戦略」の「リスクと機会」の項目で、調査対象企業の41%が実践している。これに対し、「戦略」の「戦略のレジリエンス」の項目で情報開示を行っている企業は7%と最も少なかった。

 ・TCFD提言に基づく情報開示は主にサステナビリティレポートで開示されている。

 ・2020年から責任投資原則(PRI)の署名機関にTCFD関連設問への回答が義務づけられたこともあり、2019年から20年にかけてTCFD提言に沿った情報開示を行うアセットマネジャー/オーナーが大幅に増加している。一方、アセットマネジャーやアセットオーナーは、彼らのクライアントおよび受益者に対しての報告を十分に行っておらず、そのようなステークホルダーが投資判断を行うために必要な情報を確保できるように取り組むべき、と指摘している。

 ・アセットマネジャーとアセットオーナーは、TCFD提言の「指標と目標」の推奨開示項目(b)に該当する、加重平均炭素原単位の開示が遅れている。ポートフォリオのカーボンフットプリントの測定方法は複数種類あるが、TCFDは加重平均炭素原単位の使用を投資家に推奨している。

 シャピロ氏は、金融セクターにおける将来予測の財務情報開示におけるもっとも重要な指標についてのコンサルテーションについても言及した。

 この件に関してブルームバーグLPグローバル・パブリック・ポリシー部門のマーラ・チルドレス(Mara Childress)ディレクターはさらに、TCFDが発足した2017年当時は「状況もフレームワークも異なっていた」と指摘し、その後、加重平均炭素原単位は「あまり使われなかった」と説明した。

 これらのコメントは、欧州委員会が発表した画期的なサステナブルファイナンス・アクションプランが、TCFD推奨の、より簡潔な収益ベースの炭素原単位ではなく、株式と債券の時価総額に基づく別の指標を選好したことを受けて出されたものである。一方、欧州委員会が推奨する指標は株価変動に影響されるため、市場のボラティリティが高まった局面で企業の二酸化炭素排出量を正しく把握できない恐れがある、という指摘もある。

 チルドレス氏は、TCFDは「Climate Value at Risk(気候による価値リスク)」や「Implied Temperature Rise(予想される気温上昇)」といった指標にも目を向けるべきだとする「不満の声」も耳に入っていると述べた。

 金融安定理事会(FSB)の議長のランダル・クォールズ(Randal K. Quarles)氏は、本レポートの公表を歓迎し、「TCFD提言は、世界中の企業による気候関連リスク情報の開示内容の整合性を高める上で有効であり、市場の断片化を阻む役割も果たすだろう」とコメントしている。


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【参照】
Responsible Investor, Vibeka Mair「TCFD warns on slow uptake as it releases 2020 status report」2020年10月29日(2020年11月16日情報取得)


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