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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 ブラジル政府は今月9日、機関投資家グループの要請を受け、アマゾンの森林における焼畑を120日間禁止することを表明した。20日の週に政令を発表するという。

 ノルウェーの投資・年金大手のストアブランドが主導する機関投資家グループは、各国のブラジル大使館に宛てて、森林破壊の拡大がブラジルの投資環境の不確実性を増大させていると警告する書簡を6月23日に送付した。ブラジル政府は森林開発を促す改正法案の可決を目指しているだけに、これはタイムリーな動きだった。また、熱帯雨林の破壊につながる事業活動への投資(年間数千億ドルに上る)に付随する金融リスクの高まりを反映している。投資家だけでなく、英小売大手のテスコ等の企業約40社も、ブラジル政府が行動を取らない場合はブラジル製品をボイコットすると書簡を提出していた

 投資家グループは9日、ブラジル政府およびブラジル中央銀行(Banco Central do Brasil)とのテレビ会議に参加した。ブラジル中央銀行はNGFS(気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク)に参加しており、NGFSは先月、同行のフェルナンダ・ネチョ(Fernanda Nechio)副総裁へサステナビリティに関するインタビューを行ったばかりである。

 今回のブラジル政府の動きは、国債の発行体としての政府に対する投資家エンゲージメントの成功例であり、環境基準を満たさない政府とのエンゲージメントの青写真を示した。通常、エンゲージメントというと、投資家と企業間で行われる場合が多い。 

 「株式や債券を保有している投資先企業とサステナビリティに関する対話を行うことは慣れている」と独SEBインベストメント・マネジメントでSustainability & Governanceのヘッドを務めるエリザベト・ジャマル・ベリストローム(Elisabet Jamal Bergström )は述べる。また、「我々の顧客とその他のステークホルダーにとって非常に重要なアマゾン森林火災の課題について、ブラジル政府および中央銀行と協議できたことを大変光栄に思う」と話す。

 世界各国で在ブラジル大使館との政策交渉を先導し調整してきた、ノルウェーのストアブランドは、これまでに、合計運用資産が4兆6000億ドルに上る投資家が今回のイニシアチブに賛同したという(2020年7月10日時点)。

 ストアブランド・アセットマネジメントのヤン・エイリーク・ソージェスタッド(Jan Erik Saugestad)CEOは、「政府、企業、投資家間の協働を通じてはじめて、必要な変革を起こすことができる。まず第一歩を踏み出したと言える」と発表した

 ブラジル政府および中央銀行とのミーティングでは、下記5つのテーマについて議論したとストアブランドは話す。

1.森林破壊発生率の著しい低下。すなわち、ブラジル気候法19条が定める表明に遵守した、一定の進捗が確認できる。 
2.ブラジル森林法(Forest Code)の執行 
3.環境・人権に関する法律の執行を担う当局にその権限を効果的に発揮できる能力があるか、森林保護に影響を及ぼし得る法制度の策定状況について
4.2019年に連続発生した森林火災を回避するため、森林地域内外の火災を防止すること
5.  森林破壊、森林被覆、森林保有、コモディティのサプライチェーンのトレーサビリティ(追跡可能性)についてのデータの公開

 ソージェスタッドCEOは「長期志向で一貫性のある、森林保護の法的な枠組みを実現することは、企業と投資家の双方にとって最善の利益をもたらす」と補足した。

 ブラジル政府および中央銀行とのミーティングに出席した投資家は以下の通り。日本からは三井住友トラスト・アセットマネジメトが参加した。

Storebrand Asset Management
BlueBay Asset Management
NN Investment Partners
Robeco
KLP
SEB Investment Management
AP2 Second Swedish National Pension Fund
Legal & General Investment Management
Nordea Asset Management
Sumitomo Mitsui Trust Asset Management

企業、投資家が直面するリスク

 金融機関は自らが直面するリスクを最小化するために何をすべきだろうか。政府が必要な対策を講じないなか、自らは森林破壊の拡大につながる投資や融資を行っていないと確信できるだろうか。 

 森林破壊が進む地域で畜産や大豆栽培に関与している企業への投資は、投資家に財務リスクをもたらす可能性があり、特に違法行為が行われている場合はそのリスクが高まる。最近の分析によると、ブラジルにおける森林破壊の95%は違法行為によるものと考えられる。

 こうした事業に関与している企業は、法規制を強化する可能性のある消費国への市場進出が難しくなる。例えば、一部の国は海外での森林破壊に関わるフットプリントをいかに抑制するかに取り組んでおり、EUは企業に自社のサプライチェーンにおける森林破壊を防止する措置をとるよう求める法律を検討している。

 小売・製造業セクターのサプライチェーンの下流企業では、調達における森林破壊リスクを評価するデュー・デリジェンスの仕組みを既に導入している。こうした買い手側の変化は、市場参入するサプライヤーの絞り込みにつながる可能性がある。

 金融機関は評判リスクにも直面している。機関投資家か個人投資家かにかかわらず、持続可能でない事業をおこなう企業への投資を避ける傾向が強まっており、とりわけ投資ポートフォリオのカーボンフットプリント削減を目指す動きが広がっている。

投資家の行動

 金融機関はこうしたリスクを踏まえ、森林破壊リスクにつながる事業活動に関与する企業への投資を抑制するための強固な方針を策定すべきだろう。例えばストアブランドは、森林破壊ゼロを明確に表明している

 このようにストアブランドは主導的な役割を果たしているが、同社は例外である。英シンクタンクのGlobal Canopy (GCP)が、企業や金融機関、政府、開発銀行などの組織の森林破壊への対応を評価・ランキングしたForest 500の最新結果によると、サプライチェーンに森林破壊リスクを抱える企業に投資する機関投資家のうち、最も影響力の大きな投資家の3分の2(150社のうち102社)は森林破壊に関する方針を整備していないという。

 企業の複雑な資本構成に内在する直接的な森林破壊リスクに加え、地方銀行が融資および投資によって間接的に直面するリスクを把握できるTrase Financeなどが開発されており、金融機関は自らがリスクにさらされているかどうか徐々に判断できるようになる。

 方針が森林破壊の防止に効果をもたらしているか確認するために、投資家は企業へのエンゲージメントを通じて投資家の期待を明確に伝える必要がある。持続可能なパーム油の調達に関するPRIのワーキンググループSustainable Forest Initiative(大豆、牛なども対象)といった複数の投資家イニシアチブは、集団的エンゲージメントを支援するだけでなく、企業への期待を明確に示したガイダンスも提示している。

変革の時

 気候変動や生物多様性の喪失がもたらす危機はあらゆる業界に変革を迫っている。中でも森林破壊の撲滅は極めて重大な問題である。したがって、今回の金融機関による政府へのアクションは、大いに歓迎すべきである。 

 金融業界は気候変動問題に対処するにあたり、長年スコープ1、2のGHG排出量ばかりを問題視し、サプライチェーンでの森林破壊に起因する間接的な排出量には注目してこなかった。ここにきて、状況はようやく変わり始めたのかもしれない。

 今後、ブラジル政府に働きかけた投資家以外にもこうした機運が高まり、森林破壊リスクから投資ポートフォリオを守るための行動がとられることを期待したい。


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【参照】
Responsible Investor,    Daniel Brooksbank「"This marks a start": Investors hail engagement with Brazil over Amazon fires Engagement with sovereign entity is a significant development」2020年7月10日(2020年7月20日情報取得) 
Responsible Investor,   Helen Burley「Investors take a stand against Amazon deforestation」2020年6月26日(2020年7月20日情報取得)

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QUICK ESG研究所「【RI特約記事】ノルウェーKLP、ブラジル産大豆を扱う企業とその投資家へ質問を送付 アマゾン森林破壊・火災を受けブラックロックへのエンゲージメントを開始」(2019年9月12日)https://www.esg.quick.co.jp/research/1061
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