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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 世界最大の機関投資家ブラックロック*は、米石油メジャー大手エクソンモービルの株主総会において、気候変動リスク対応が不十分であることから取締役2名の再選に反対し、独立取締役会議長と最高経営責任者(CEO)の分離を求める株主提案に賛同した。こうした対応の理由についてブラックロックは、「気候変動リスク管理において、同社の開示情報と行動の一部にかい離がみられるため」と説明している。

 ブラックロックの賛同もむなしく、独立取締役会議長を求める株主提案の賛成率は昨年の40%から32%に低下した。これは議決権行使助言会社のISSが、エクソンが今年3月にリード・ディレクターのポジションを新設したことでガバナンスをめぐる懸念が十分に払しょくされたとし、反対意見を示したことが影響したと考えられる。

 また、ブラックロックは、米医療保険会社WellPont(現在はAnthem)のCEOであったアンジェラ・ブラリー(Angela Braly)氏の選任についても反対票を投じた。「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)およびSASB(サステナビリティ会計基準審議会)の提言と、過去数年間にわたるブラックロック・インベストメント・スチュワードシップ(BIS)からのフィードバックに準じて、気候関連リスクへの取り組みを推進していない」ことの責任を負うべきだと考えたからだ。

 ブラックロックはエクソンの競合であるシェブロンの株主総会でも、株主の過半数(全体の53%)に同調して気候変動関連株主提案に賛成票を投じたパリ協定の目標に整合したロビー活動をおこなっているか情報開示を求める株主提案で、BNPパリバアセットマネジメントが主導した。

 ブラックロックはこれまで気候変動関連の株主提案を積極的に支持しなかったことで多くの批判を受けてきたが、今年1月のCEOレターで気候変動問題に取り組むことを表明した。今回の投票行動は、その遂行に向けて踏み出したことを示すサインとして、控えめながらも歓迎されている。

 一方、米国の株主アドボカシー団体Majority Actionのエグゼクティブ・ディレクターを務めるエリ・カーサルゴード-ストウブ(Eli Kasargod-Staub)氏は、ブラックロックの行動に喜んではいけないと警告する。

 「ブラックロックの投票行動はCEOレターでの表明を遂行する上で大きな前進と言える。しかし、その並外れた資産規模を考慮すると、同社は全ての保有銘柄について気候変動リスクを体系的に管理すべきであり、今の対応では全く不十分だ」と述べる。

 ちなみにブラックロックは、豪エネルギー大手SantosおよびWoodsideの株主総会では、気候関連株主提案を支持せず、バークレイズの総会でも、投資家グループShareActionによる株主提案に反対票を投じた。バークレイズ側が提出した議案については賛成票を投じた。

 ブラックロックは、エクソンのような「注目度の高い企業の株主総会での投票」に関しては透明性をもって自社の議決権行使結果を開示している。一方、JPモルガン・チェースなど一部の企業に対する議決権行使結果については公表していない。JPモルガン・チェースの総会では、パリ協定に沿った融資活動の計画策定を求める株主提案が49.6%の賛成票を集めた。また、ニューヨーク市会計監査局は、エクソンの元CEO兼会長リー・レイモンド氏の同行の取締役への再任を反対するよう、The Form PX14A6G (Notice of Exempt Solicitation)を米証券取引委員会(SEC)に付して株主に呼びかけていた。レイモンド氏の存在がJPモルガン・チェースの気候変動対策を縮小させていると問題視した動きだったが、レイモンド氏を含む各取締役の再任が可決された。

 Climate Action 100+参加機関のニューヨーク州退職年金基金と英国国教会コミッショナーは、エクソンの気候変動対応が不十分であるとして、全取締役へ反対票を投じるよう株主へ要請するThe Form PX14A6G (Notice of Exempt Solicitation)をSECに提出し、カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)も賛同した。英国地方年金基金フォーラム(LAPFF)も、加盟する公的年金基金(資産総額は数十億ポンド)に対し、この動きに追随するよう助言していた。にも関わらず、平均賛同率93.6%で各取締役の再任が可決され、昨年の93%からさらに上昇した。

 興味深いのは、上述の通り、エクソン前CEO兼会長のJPモルガン・チェース取締役への選任阻止を呼びかけたニューヨーク市会計監査局が、エクソンの取締役全員の再任を支持しつつ、独立取締役会議長の設置やロビー活動の情報開示に関する株主提案にも賛成したことだ

 エクソンにロビー活動の情報開示を求める株主提案に関しては、ブラックロックは支持しなかったが、賛成得票率は37.5%と昨年とほぼ同水準を維持した。

その他の米石油・ガス大手企業

 シェブロンの株主総会では、気候変動に起因する暴風雨、洪水、海面上昇などが頻繁に発生している地域での事業拡大がもたらす公衆衛生リスクについて情報開示を求める株主提案も提出され、株主の46%がこれを支持した。同様の提案はエクソンの総会でも提出され、25%の支持を得た。

舞台は欧州へ

 仏石油最大手トタルの株主総会では、パリ協定の目標に準拠した、中長期的なスコープ1、2および3のGHG排出量削減目標の策定を求める株主提案の支持率は、全体のわずか17%にとどまった。この議案は、Actiam、CandriamやSycomoreを含む11の欧州投資家グループによって提出された

 オランダの気候変動NGOのFollow Thisも、エクイノールとシェルに対し同様の株主提案を行い、いずれも昨年の2倍の賛成率(前者は政府を除く株主の27%、後者は株主全体の14%に相当)を確保した。

 これら欧州の石油メジャー3社は今年、いずれも気候変動をめぐる新たな目標を設定した。シェルとトタルは、ここ1ヵ月以内に相次いで2050年までにCO2ネット排出量をゼロにする「2050年ネットゼロ」という野心的な目標を発表した。

 Follow This の創設者マーク・ヴァン・バール(Mark van Baal)氏は、「責任ある投資家は今月、石油メジャー3社に対し、明確なシグナルを送った。投資家は、空虚な言葉で飾られた2050年へのコミットメントではなく、経営陣による具体的なアクションを求めている」と述べた。

 5月初め、ロンドンに拠点を置く運用会社Sarasin & Partnersはシェルとトタルに対する株主提案を支持する意向を明らかにした際、これら企業のネットゼロ宣言は設備投資計画を伴わない「空虚な約束」にすぎないとしている。

ビジネス・ラウンドテーブルでのコミットメント遂行を求める提案は先送り

 5月21日に開催されたブラックロック自身の株主総会では、ラリー・フィンクCEO兼会長が2019年のビジネス・ラウンドテーブルで署名した「企業の目的に関する声明」の内容をいかに遂行するのか具体的な計画を求める株主提案を投資家イニシアチブAs You Sowが提出した。賛成率は全体の4%にも満たなかったものの、来年の再提出が可能となる最低得票率の3%は上回った。だが投資家にとって残念なことに、SECは最低得票率の引き上げを検討している。 

 同様の株主提案は、米金融大手のシティグループ、ゴールドマンサックス、バンク・オブ・アメリカの総会でもそれぞれ6.9%、6%、9%の得票率を確保しており、来年の再提出が可能となっている。

労働者の権利

 米大手ファストフードチェーンChipotleの株主総会では、従業員に対し雇用仲裁(employment arbitration、使用者と個別労働者間でおこなわれる裁判外紛争処理=ADRの一種)を強制する雇用契約について、その利用状況の報告を求める株主提案が提出された。雇用仲裁は、当事者が合意した場合に成立するが、使用者と労働者の不均等な権力関係により、個々の労働者が裁判所に提訴できないという問題点が指摘されている。結果、株主の過半数(51%)が賛成票を投じた。

 この提案を提出したニューヨーク市会計監査局のスコット・ストリンガー会計監査官は、「強制的な雇用仲裁は事実上、企業による情報隠蔽を可能にし、従業員が権利を訴えにくくなるほか、劣悪な労働文化を助長しかねない。報告ルールを設けることで透明性と情報開示が強化され、投資家は真の説明責任を問うことができる」と指摘する。

 同社は今年4月、2015年と2018年に複数回集団食中毒を発生させ計1100人以上の被害者を出したことから、米司法省から史上最高額となる2500万ドルの罰金を課せられた

米民間更生施設管理会社のロビー活動

 5月19日の米民間更生施設管理会社Geo Groupの株主総会で、ロビー活動に関する情報開示を求めた株主提案が40%の賛成票を獲得したことも注目を集めた。フロリダ州に拠点を置く同社は、先ごろ米国移民・関税執行局と5年契約を結んだことを発表していた。米国では、移民収容施設の73%以上を同社のような民間更生施設管理会社が運営している。同社は以前から被収容者に対する人権侵害が指摘されており、共和党に対し、自社に有利なロビー活動を積極的に行っていることも株主提案の背景としてある。同社は「自社に批判的な集団が仕掛けた一連のキャンペーン活動の一環」であるとして、SECにノーアクションレターを求め議案からの除外を試みたが、承認されなかった。

南アフリカ:銀行による前向きな動き

 南アフリカの銀行グループNedbankは、5月22日に開催した株主総会で自らが提出した2つの議案が圧倒的多数の賛成票を得た。気候変動リスクの管理について株主に報告する義務を負う同国で初めての企業となる。同行の取締役会は国内の株主アドボカシー団体Just Shareによるエンゲージメントをうけて、この議案を「積極的に」提案した。具体的には、持続可能なエネルギー方針の策定と公表、そして気候関連リスクがもたらす影響の測定・開示・評価の報告が求められる。

*世界最大の公的年金はGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)だが、運用会社を含めた機関投資家全体でみると、世界最大の機関投資家はブラックロックである。


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【参照】
Responsible Investor,   Paul Verney「AGM Season: The latest on ESG-related resolutions」2020年5月29日(2020年6月30日情報取得) 

【関連記事】
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】SECのノーアクションレター制度:企業の気候変動対策を求める投資家行動を阻止する不透明なメカニズム エクソンに対する英国国教会年金理事会とニューヨーク州退職年金基金の株主提案で注目集める」(2019年6月17日)https://www.esg.quick.co.jp/index.php/research/1036

QUICK ESG研究所「【RI特約記事】ShareAction調査でCA100+署名投資家の矛盾する行動が露呈 ESGへの表明、必ずしも議決権行使に反映せず」(2019年11月25日)https://www.esg.quick.co.jp/research/1084 


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