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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 ノルウェー政府年金基金(GPFG)を運営するNBIM(Norges Bank Investment Management) はノルウェー財務省の倫理委員会(The Council on Ethics)の提言を受け、ブラジルの資源開発大手ヴァーレを投資先から除外した

 投資家として大きな影響力を持つNBIMは、ヴァーレの他に、Sasol、RWE、Glencore、AGL Energy、Anglo Americanなど資源大手5社からの投資撤退も表明した。昨年発表した新しい一般炭・石炭火力関連企業の除外基準を初めて適用した事例となる。除外適用の基準として、一般炭から得る収入が全売上高の30%以上という相対基準に加えて、石炭採掘量2,000万トン、石炭火力発電容量10GWという絶対基準で補完している。また、タンザニアで水力発電事業に従事するElSewedy ElectricもValeと同様、深刻な環境破壊を引き起こしているとの理由で除外された。

 NBIMはまた、石炭関連事業への関与を理由にBHP Vistra Energy、EnelおよびUniperの3社を監視対象にすることも決めた。

 ブラジルのEletrobrasについては、ベロ・モンテ水力発電所をめぐり「深刻または組織的な人権侵害を助長する」という「容認しがたいリスク」を抱えているとして投資先から除外した。

 環境・人権活動家たちは化石燃料からの投資撤退を歓迎しているが、ヴァーレの投資除外にも注目すべきだ。同社のブルマジーニョ尾鉱ダムでは昨年1月に約300人の死者を出す決壊事故が発生した。

 この大惨事を受けて、投資家の間では前例のない動きが広がった。スウェーデンの公的年金基金(AP1、AP2、AP3、AP4)の代表者からなる倫理委員会(Council on Ethics)と英国国教会年金理事会は「尾鉱ダム安全確保イニシアチブ」(The Investor Mining & Tailings Safety Initiative)を発足し、APG、Robeco、New Zealand Super、LGPS Central、BMO Global Asset Managementをはじめとする他の投資家の支持を集めた。

 これを契機に、尾鉱ダムのデータベースが構築され、この問題をテーマとする投資家サミットが2019年10月と2020年1月に開催されるに至った。

 上記イニシアチブの共同議長を務める英国国教会年金理事会の倫理委員長アダム・マシューズ(Adam Matthews)氏から、今回のNBIMの投資撤退に関してコメントを得ることはできなかった。英国国教会年金理事会によると、NBIMはイニシアチブの署名機関ではないが、尾鉱ダムに関する投資家のメールリストには掲載されている。

 国際金属・鉱業評議会(ICMM: International Council on Mining and Metals)、責任投資原則(PRI)および国連環境計画(UNEP)も共同で尾鉱ダムに関する国際基準の策定作業を開始している。

 Responsible Investorは今年1月の記事で、実際にこの事故に巻き込まれた人々の様子を紹介した。

 NBIMが運用を務めるGPFGは、ヴァーレの発行済み株式の1.1%(時価総額は66億ノルウェークローネ=約6億ユーロ)を保有していた。

 ノルウェー財務省の倫理委員会が昨年6月に取りまとめ、先ごろ発表した12ページから成る提言書は、ヴァーレが企業として問題のある行動を繰り返したことで、NBIMは同社への投資をもはや容認できなくなったとしている。

 ヴァーレからの投資撤退を促すこの提言書は、ブルマジーニョの大惨事と2015年にマリアナで発生した同社子会社のサマルコ社のダム決壊事故がもたらした環境への悪影響にもっぱら焦点を当てており、ヴァーレの事業全体を対象に評価した訳ではない。

 また、提言書はヴァーレを人権の観点から評価したものではないが、「決壊事故が人々の命と健康に重大な負の影響を及ぼすことから、生命、安全、住居および清潔な飲み水への権利を含む人権の侵害に当たる可能性がある」と明記している。

 倫理委員会は同社が所有するブラジル国内の鉱山の状況を自らが調査した訳ではなく、「ダムの安全性全般、とりわけ2つの事故に関して公表されている膨大な量の文書」を根拠にしたを明らかにした。

 その中にはサマルコの決壊事故を調査した「モーゲンスターンレポート」(Morgenstern Report)やヴァーレの従業員が自ら作成した調査文書のほか、検察当局からの情報や同社のダムの安全性を審査している認証機関が発行した文書も含まれる。

 倫理委員会はブルマジーニョの事故直後の2019年2月25日に同社へ接触したところ、翌月に会社側から回答があり、同社がブラジル国内に148の鉱山ダムを所有していて、そのうち45は尾鉱ダムであることがわかったとしている。

 さらに同委員会は、会社側は2019年4月に委員会が示した提言案について見解を示すと話していたにもかかわらず、いまだ実行されていないことも明らかにした。

 World Mine Tailings Failuresのエグゼクティブディレクターを務めるリンゼー・ニューランド・ バウカー(Lindasy Newland Bowker)氏はRIの取材に対し、「ヴァーレ社は自社が所有する尾鉱ダムの修繕を行っている唯一の会社」であり、「責任ある鉱業インデックス」のランキングでは「中位」に位置していると述べている。

 「尾鉱ダム関連企業の中には、投資家が全く関心を寄せていない、ヴァーレよりも取り組みの遅い企業も多く、ひどい状態で放置されている尾鉱ダムは数多く存在する」とも指摘する。


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【参照】
Responsible Investor,  Daniel Brooksbank「Analysis: Norwegian ethics committee spells out reasons for divesting Vale after tailings disaster」2020年5月13日(2020年6月11日情報取得) 
Government Pension Fund Global: Exclusion and observation decisions (13 May 2020) https://www.norges-bank.no/en/news-events/news-publications/News-items/2020/2020-05-13-spu/

【関連記事】
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】相次ぐ「尾鉱ダム」決壊 鉱業界全体の構造的な問題が浮き彫りに」(2019年4月25日)https://www.esg.quick.co.jp/research/1023
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】投資家イニシアチブが尾鉱ダムの情報開示を渋る資源採掘企業453社に対する「集中的なエンゲージメント」を言明 ヴァーレ社事故をうけた投資家の要請を対象企業の69%が無視」(2019年6月28日)https://www.esg.quick.co.jp/research/1039


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