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 2020年3月9日、EUタクソノミーに関する最終報告書が公表された。前年6月の報告書からページ数はさらに増えた。当然、その中身に関心が集まるだろう。だが実はより重要なのはその外側、つまりタクソノミーを機能させるための制度の枠組みなのではないか。タクソノミー最終報告書の公表に先立って、2019年11月には金融機関によるサステナビリティ情報の開示に関するEU規則が成立し、12月にはタクソノミーの根拠となるEU規則が政治合意に至った。そこで本稿では、タクソノミー最終報告書とともに、それらのタクソノミーの「外側」の動向にも注目してみたい。

1.タクソノミー規則の政治合意

 EUタクソノミーの議論の出発点となったのは、「サステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ(High-Level Expert Group on Sustainable Finance:HLEG)」が2018年1月に公表した最終報告書であり、それを受けて欧州委員会が同年3月に発表した「アクションプラン:持続可能な成長に向けた金融」である。

 アクションプランを実行するために、欧州委員会(European Commission)は大きく分けて2つのことをしている。1つは技術的専門家グループ(Technical Expert Group on Sustainable Finance: TEG)の設置で、欧州グリーンボンド基準やEUタクソノミーの原案など、具体的な内容の検討を依頼している。もう1つはEU規則の策定で、サステナブル金融を推進するための法的根拠や枠組みを与える。

 後者の1つが、2018年5月に提案された「サステナブル投資の推進のためのフレームワークの設定に関する規則(以下、「タクソノミー枠組み規則」と略す)」である。その内容について、法案を審議する欧州議会(European Parliament)と欧州連合理事会(Council of the European Union)の間でいくつか修正がなされ、2019年12月に政治合意(political agreement)に至った[1]。

 この規則は一言で言えば、欧州委員会にタクソノミーを策定する権限を与える規則である。第1条には規則の目的が次のように示されている。「この規則は、投資の環境的なサステナビリティの程度を規定する目的で、ある経済活動が環境的にサステナブルかどうかを判断するための規準(criteria)を定める」。

 以前のコラムでも紹介したように、第5条で対象とする環境目的として以下の6つをあげている。

(1)気候変動の緩和

(2)気候変動の適応

(3)水及び海洋資源の持続可能な利用と保護

(4)サーキュラーエコノミーへの転換

(5)汚染の防止と管理

(6)生物多様性及び生態系の保護と回復

 また第3条では、ある経済活動が環境的にサステナブルであるとみなされるための条件として、要約すると以下の4つをあげている。

(a) 第5条で定めた1つまたはそれ以上の環境目的に大きく貢献すること

(b) 他の環境目的に重大な害を与えないこと

(c) 最低限のセーフガードに準拠した上で行われること

(d) 欧州委員会が定める技術的スクリーニング規準(technical screening criteria)に準拠していること

 このうち(c)のセーフガードについては、第13条でOECD多国籍企業行動指針、ビジネスと人権に関する指導原則、労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言、国際人権章典などに沿ったものであることを求めている。

 重要なのは、(d)の技術的スクリーニング規準である。これが実質的な判断の指針であり、タクソノミーの本体と言ってよいだろう。その内容は、欧州委員会が委任法(delegated act)として策定するものとされている。6つの環境目的のうち、気候変動の緩和と適応に関しては2020年12月31日までに採択し、2021年12月31日から適用、その他の環境目的は1年遅れて2021年12月31日までに採択し、2022年12月31日から適用すると定められている(第6条-第11条)。

 この規則によって欧州委員会はタクソノミーを定める権限を手にしたことになる。ではTEGが公表した最終報告書とは何かと言えば、欧州委員会が定める委任法のいわば「たたき台」ということになるだろう。

2.TEGのタクソノミー最終報告

 冒頭に記した通り、2020年3月9日にEUタクソノミーに関するTEGの最終報告書が公表された。TEGの任務は欧州委員会に対する提言を行うことであり、この報告書は、気候変動の緩和と適応に関して、タクソノミーの技術的スクリーニング規準がどのようなものであるべきかについての最終的な提言である。

 報告書は本体付属書の2分冊になっている。本体は謝辞等も含めて66ページであり、以下のような内容となっている。

1.最近の展開 p.7-12
2.提言:タクソノミーの設計 p.13-25
3.実務におけるタクソノミー p.26-50
4.今後の展望 p.51-55
5.タクソノミー要約表 p.56-63

 この中の第2章では、タクソノミー策定にあたっての基本的な考え方がまとめられている。たとえば「気候変動の緩和」とは何を意味するのか、ということについて「EUグリーンディールにおけるコミットメントと整合性をもち、2030年までに(温室効果ガスを)50-55%削減し、2050年までに排出のネットゼロを達成すること」と記している(報告書本体の2.2.1)。また低炭素の解決策がまだない大量排出セクターについては、「目的と整合しない資産のロックイン(固定化)が生じないこと」「環境パフォーマンスが当該セクターの平均を十分に上回ること」という2つの原則を適用するとしている(同上)。

 一方、付属書の方は全591ページあり、より詳細な策定の方法論と、具体的な経済活動別の技術的スクリーニング規準の原案が示されている。対象となる経済活動は以下のように分類されている。

   気候変動の緩和    気候変動の適応
森林 森林
農業 農業
製造 製造
電気、ガス、蒸気、空調 電気、ガス、蒸気、空調
水、下水、廃棄物、修復 水、下水、廃棄物、修復
輸送、倉庫 輸送、倉庫
情報、コミュニケーション 建物
建設、不動産 金融、保険
  専門的、科学的、技術的活動

 このうち、気候変動の緩和における「製造」には低炭素技術のほか、セメント、アルミニウム、鉄、水素などが含まれている。日本ではどうしても石炭火力発電や自動車の扱いに注目が集まりがちだが、対象となる経済活動はずっと広範で、森林や農業が最初に取り上げられているという点には注目しておいてよいだろう。

3.石炭火力発電への厳しい姿勢

 石炭火力発電に関しては、タクソノミー枠組み規則の第14条2aで、「固形化石燃料を使う発電事業は環境的にサステナブルな経済活動とは考えられない」と明記している。また、TEGの最終報告書本体の2.2.2では、タクソノミー枠組み規則第14条2aの規定に言及した上で、ガスと石油による発電に関しても、1キロワット時あたりCO2換算で100g以下、かつ2050年の0gに向けて5年ごとに削減していくという規準を示し、これに合致する場合にのみ気候変動の緩和に大きく貢献すると考えられるとしている。化石燃料への視線は相変わらず厳しい。

4.意見が分かれる原子力発電

 原子力発電の扱いについては、加盟国間で議論が分かれたようである。タクソノミー枠組み規則の政治合意の文書に付属書(Annex)として各国からの意見書が付されている。

 オーストリアは、「たとえそれがトランジションとしてであろうと、原子力を許容するいかなるタクソノミーも本質的に問題があり、厳しい批判を引き起こすことになる。なぜならそれは金融市場参加者と投資家に対して誤ったシグナルを送り、動機づけることになるからだ」との意見を表明した。そして「交渉の結果は我々の懸念を取り除くことができていない」と述べている。

 一方チェコ、ハンガリー、スロバキア、スロベニアは連名で、「原子力は長期的に安全でサステナブルなエネルギー源であり、世界の専門家の間でも気候変動に取り組む上で必要だと認識されている」との意見を表明した。そして「欧州委員会による委任法の制定に当たっては十分に透明性のあるプロセス、すなわち専門性と科学的知見に支えられた証拠に基づくプロセスと、あらゆる利用可能なエネルギー技術の無差別な客観的評価を行うための加盟国の適切な関与が確保されるものと信頼している」と、強い調子で主張している。

 この対立からは、欧州が決して一枚岩ではないことがわかる。現状、TEGの最終報告書では気候変動の緩和の中に原子力発電は含まれていないが、今後の動向には注意が必要だろう。

5.ブラウンタクソノミーの提案

 タクソノミー枠組み規則は、第17条で見直し規定を設けている。欧州委員会に対して、技術的スクリーニング規準の開発に関する進捗状況や、その改定および補完の必要性などについて評価した報告書を、規則発効後2年後と、その後は3年ごとに発行するよう義務付けているのである。さらに同条は、規則の対象範囲の拡張についても欧州委員会が2021年12月末までに報告書を出すことを義務付けている。

 拡張の方向性は2つある。1つは、環境目的だけでなく社会目的への拡張、もう1つは、環境的にサステナブルな活動だけでなく、環境的なサステナビリティに重要な影響のない活動、および環境的なサステナビリティを大きく害する活動への拡張である。後者が意味するのは、環境面でよくない活動のリスト、いわゆるブラウンタクソノミーを開発するということである。

 これを受けてTEGの最終報告書も第4章の「将来展望」の中で、社会目的への拡張とブラウンタクソノミーの開発が必要と述べている。特にブラウンタクソノミーについては、企業やその他の債券発行者が改善的な活動の説明をしやすくなり、市場からポジティブな認知を得られるとしている。同報告書によれば、ブラウンタクソノミーができれば、経済活動は3つに分かれることになる。「グリーン」、「ブラウン」、「その中間」である。こうすることで、現行のタクソノミー上グリーンとは言えない活動であっても、ブラウンから中間に移行する改善的な活動を識別することができるというのである。

 このことは、トランジションという概念にも関係する。トランジション活動とは何を意味するのかについて、まだ必ずしも統一的な解釈があるわけではないが、ブラウンタクソノミーの提案は、そのトランジションを巡る議論に一石を投じることになるのではないだろうか。

6.サステナブル金融の義務化の流れ

 「金融市場参加者は、サステナビリティリスクを投資意思決定に組み込む方針についての情報を公表しなければならない」

欧州の機関投資家らには、新たにこのような義務が課されることになった。タクソノミー枠組み規則の政治合意に先立ち、2019年11月に「金融サービスセクターにおけるサステナビリティ関連情報開示に関する規則」が成立したからである[2]。これもアクションプランを受けて2018年に提案されたEU規則の1つである。

 同規則の第3条が、金融市場参加者(financial market participants)に対して、投資意思決定にサステナビリティリスクを組み込む方針を開示すべきことを義務付けた。また、ファイナンシャルアドバイザーには投資アドバイスや保険アドバイスにサステナビリティリスクを組み込む方針の開示を義務付けている。

 第2条の定義によれば、金融市場参加者には職域年金や運用機関、保険会社、オルタナティブ投資ファンドマネージャーなどが幅広く含まれる。ベンチャーキャピタルの運用者や社会的企業ファンドのマネージャーなども対象である。一方、ファイナンシャルアドバイザーとは、投資アドバイスの提供や保険商品の仲介をする事業者を言う。

 第4条では、金融市場参加者に対して、投資意思決定がもつサステナビリティ要素への主要な負の影響を考慮しているときは、そのデューデリジェンスの方針を、考慮していない場合には、それをしないことの「明確な」理由を開示せよとしている。従業員数500人以上の場合には、2021年6月30日以降は「考慮しない」ということは許されないようで、必ず方針を開示するよう義務付けている。ファイナンシャルアドバイザーに対しては、投資アドバイスや保険アドバイスにおいてサステナビリティ要素への主要な負の影響を考慮しているかどうかや、考慮していない場合の理由の開示を求めている。

 驚くではないか。これからは、サステナビリティリスクの考慮は義務である。いや、サステナビリティリスクは、「投資価値に現実的または潜在的に重要な負の影響をもたらし得る環境、社会、ガバナンスに関わる事象や状況」、つまり投資価値に対するリスクと定義されているので、受託者責任上も本来、考慮するのは当然のことかもしれない。だがサステナビリティ要素の定義は、「環境、社会、従業員の問題、人権の尊重、腐敗及び汚職の防止」である。それに対する負の影響を考慮するということは、明らかに、投資判断にリスクとリターン以外の要素が加わるということだ。

 これは、リスクとリターンにインパクトを加えた投資判断の3次元化という考え方に、制度面から一歩踏み込んだとも言える。日本ではタクソノミーばかりに焦点が当たりがちだが、欧州ではそれだけでなく、市場のルールそのものを変えていこうという試みが進んでいるのである。

7.日本企業への影響

 それで、結局、どうなるのか。これらの欧州の動きはわが社にとって、あるいは日本企業にとってどんな影響があるのか。おそらく多くの人の関心は、そういうことだろう。たとえばタクソノミーは貿易障壁になるのではないか、これがグローバルスタンダードになって資金調達がしにくくなることはないのか。そういう心配の声がありそうだ。それは、タクソノミーの直接的な影響に対する懸念である。だからタクソノミーがどんな内容になるかに注目が集まる。

 だがより重要なのは、アクションプランがもたらす欧州企業の戦略や行動の変化の方ではないだろうか。欧州企業にはアクションプランの強い圧力がかかる。否応なく対応せざるを得ない。その結果がもたらす日本企業への影響とは、欧州企業との差が開くということではないか。変化を加速する企業と、それに乗り遅れる企業の差である。

 欧州委員会が推進しているのは、サステナビリティ戦略であると同時に、産業政策でもあるのだろう。気候変動を克服し、環境や社会と調和した経済のシステムを実現しよう。同時に、そのような社会において想定される産業構造の変化にいち早く適応することで、欧州産業の成長も維持したい。これは何も「隠された意図」のようなものではなく、欧州グリーンディールにも「新たな成長戦略」だとはっきり書かれている。

 欧州グリーンディールとは、2019年12月に欧州委員会が公表した今後のEUの成長戦略である。その冒頭に、「2050年に温室効果ガスの排出をネットゼロとし、経済成長を資源利用から切り離した、現代的で、資源効率的で、競争力のある経済を伴う、公正で豊かな社会へとEUを転換することを目的にしている」と明記している。日本企業に問われているのは、その同じ土俵に乗るか、乗らないかということではないだろうか。

 

付記:本稿執筆時点(2020年4月11日)で、イタリア、スペインをはじめ、フランス、ドイツ、オランダなどのEUの主要国は、新型コロナウィルスによる深刻な被害を受けている。そのため欧州グリーンディールやサステナブル金融への動きは一時的に停滞するかもしれない。しかし長い目で見ればこの方向は変わらないと思われる。

<注>
[1]Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on the establishment of a framework to facilitate sustainable investment - Political agreement
[2]Regulation (EU) 2019/2088 of the European Parliament and of the Council of 27 November 2019 on sustainability‐related disclosures in the financial services sector

【関連コラム】
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】EUタクソノミーを考える」2019年9月11日
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】サステナブル金融とは何か - 欧州委員会アクションプランの意味すること」2018年4月27日
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】サステナブル金融への挑戦 - EUハイレベル専門家グループの提言」2018年2月28日

 


QUICK ESG研究所 特別研究員 水口 剛