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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 2020年は、海洋の持続可能な発展に向けた節目の年になるだろう。今年は「オーシャン・スーパー・イヤー」と呼ばれるほど海洋に関するイベントが目白押しで、ワールド・オーシャン・サミット2020(東京・3月、中止)、2020 UN Ocean Conference(6月・ポルトガル、延期)、Our Ocean 2020(パラオ共和国・8月)、生物多様性条約締結国会議(COP15)(中国・10月、延期)、第26回気候変動枠組条約締約国会議(COP26)(英国・11月、延期)などが開催される予定だ。

 プラスチックごみ汚染、サンゴ礁の破壊、気候変動による異常気象を筆頭に、海洋をめぐるリスクに注目が集まっている。昨年12月のCOP25でこうした機運は最高潮に達し、海洋に関する問題への取り組みが、世界的な気候変動対策に統合された(ただし、各国が炭素排出量の野心的な削減目標を提示しなかったという点で、会議全体としては失敗だったといえよう)。具体的には、COP25は、海洋を地球の気候システムにおいて重要な部分と初めて認識し、海洋と沿岸系の健全な状態を保つ必要性を強調した。そして、2020年6月開催予定の科学上及び技術上の助言に関する補助機関(SBSTA、10月に延期)及び実施に関する補助機関(SBI)会合において、気候変動と海洋に関する協議の場が設けられることになった。

チャンスにあふれる海洋

 一般にあまり認識されていないのは、海洋産業は炭素排出量の削減に大きく貢献できる分野であるということだ。持続可能な「ブルーエコノミー」は地域社会が気候変動による影響に適応できるよう促し、雇用を生む。

 「持続可能な海洋経済の構築に向けたハイレベル・パネル」は、海洋での再生可能エネルギー、海運の低・脱炭素化、海藻など海洋の生態系保護と復元、漁業・養殖における排出量の低減、海底での炭素貯蔵といった対策を通じて、2050年までに118億トン近くの炭素排出を削減可能であると分析結果を発表した。これは世界中の石炭火力発電所の総排出量に相当し、世界の平均気温上昇を1.5℃に抑えるために必要なGHG削減量の21%にも相当する。

 こうした状況のなか、RIによる持続可能なブルーエコノミーに関する投資家調査は極めてタイムリーだといえる。健全な海洋を保ち、海洋に関する問題解決策の実現に向けて巨額の資金を導入する上で、機関投資家は重大な役割を担っている。 

 上記調査の結果を重大な警鐘と捉えるべき理由はそこにある。同調査では、自身の投資ポートフォリオが海洋の持続可能性に及ぼす影響を評価していないと回答した機関投資家は全体の4分の3に上ったほか、投資ポートフォリオが抱える海洋関連リスク自体を全く認識していないという回答は5分の1を占めた。

バリュー・アット・リスク

 海洋の持続可能性に関する問題は、投資家に多大な金融リスクおよびレピュテーショナル・リスクをもたらしかねない。例えば、乱獲やその他の環境上の影響は養殖漁業を営む企業の株主価値を脅かす要因となっている。世界中のほぼ全ての魚類資源が最大限に捕獲され、場合によっては乱獲されている現状では、競争の激化と気候変動が漁獲量の激減を招き、減収やオペレーションコストの増加につながっている。アジアにおけるエビ養殖はマングローブ林破壊の要因となっているため、規制やサプライチェーン管理が強化されている。ノルウェーや英国のサーモン養殖場は病気や寄生虫による生産量の低減に悩まされている。

 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)や、ポートフォリオの脱炭素化を推進する「Portfolio Decarbonisation Coalition」などのイニシアチブの提言を受け、機関投資家の間では運用ポートフォリオが抱える気候関連リスクを評価・低減するための取り組みが進みつつある。投資家はこうした分析の対象を海洋関連リスクにも広げ、海洋環境に悪影響を及ぼす事業活動へのファイナンス停止を明確に表明すべきである。

 良いニュースがある。機関投資家の90%が、持続可能なブルーエコノミーへの投資に関心を示している。ただ、今のところブルーファイナンスはインパクト投資のニッチ分野にとどまっている。上記調査では、海洋清掃技術の開発を手掛けるスタートアップ企業を支援するベンチャーキャピタリストの活動も明らかになった。

障壁の排除

 調査結果をみる限り、ブルーファイナンスが主流になるためにはいくつか乗り越えるべき障壁がある。その一つは、どのような事業活動が真に持続可能なブルーエコノミーに分類されるのかが不明確であることだ。大部分の投資家は養殖、再生可能エネルギー、漁業、廃棄物管理、バイオテクノロジー、観光業などがブルーエコノミーに含まれるとしていたが、深海での鉱物、海洋での石油、ガスの採掘を含むことには懐疑的だった。

 実際、海洋関連セクターのほとんどは、ブルーエコノミーの一部とみなされるには、サステナビリティ上の課題を克服する必要がある。深海採掘は、低炭素経済が必要とする金属を、陸上採掘より大幅に低いコストで提供できる可能性がある。石油・ガスセクターは、炭素貯蔵の分野で重要な役割を担えるため、これまで気候に与えてきた負の影響をある程度和らげることができる。真に持続可能なブルーエコノミー事業の基準やガイドライン、タクソノミーの策定は、投資家の理解と信頼を高めることにつながるだろう。

 海運の低炭素化への投資は明確な投資機会となっている。国際輸送ニーズの拡大に伴い、海運セクターの炭素排出量は増加傾向にあるが、同セクターは2050年までに排出量を少なくとも半減させる目標を掲げている。世界の海運業者向け融資額の20%を占める銀行(シティグループ、ソシエテ・ゼネラル、DNBなど)は、ポセイドン原則(The Poseidon Principles)を採択し、海運セクターの脱炭素化の加速に向けて動き出した。

イノベーションの必要性

 一方、生態系の復元に向けた資金調達はより難しい課題を抱えている。マングローブ林、サンゴ礁、海草藻場の保護がもたらす経済、環境および社会的メリットは大きい。具体的には、炭素隔離、洪水・暴風雨からの地域コミュニティの保護、持続可能な漁業を通じた地域住民への生計手段の提供などである。現行の会計システムでは、こうしたメリットの真の価値を把握することはできない。生態系復元プロジェクトは規模が小さいものが多く、従来型投資と同種のリターンを創出するものではない。

 ブレンド・ファイナンス(公的および民間パートナーの資金をプールして投資リスクの分散化を図る)をはじめとする革新的な金融商品は、こうした資金不足を解消する手段となり得る。またセーシェル共和国によるソブリン・ブルー・ボンド発行のように、デットファイナンスも投資機会を提供する。生態系に関するサービスの価値を評価するために、自然資本評価手法を活用すれば、より有効な投資機会の創出につながる可能性がある。こうした手法を使って海洋保護区に資金を投入することで、地域の漁業の活性化と観光業の拡大という形でリターンが得られるだろう。

 こうしたイノベーションは良い兆しではあるが、これだけで持続可能なブルーエコノミーへの移行に必要な資金をまかなえる訳ではない。オーシャン・スーパー・イヤーとなる2020年は、ブルーファイナンスの必要性が間違いなく喚起されるはずであり、展望は明るい。2020年3月に東京で開催されるワールド・オーシャン・サミット2020は、港湾、観光、海運、沿岸域のインフラといったブルーエコノミーの主要産業への持続可能な投資機会について論じる絶好の機会となろう(新型コロナウィルスの影響で開催中止)。


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ESG国際会議>RI Tokyo 2020  9月15日(火)16日(水)に開催が決定。参加登録受け付け中
RIASIA

【参照】
Responsible Investor,   James Richens「Comment: Will 2020 be the year of blue finance?」2020年2月4日(2020年4月21日情報取得) 
Responsible Investor,「ブルー(海洋)エコノミーの恵みと闇との付き合い方」2020年2月7日

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QUICK ESG研究所、「【RI特約記事】FAIRRが養殖漁業をめぐるリスク管理の徹底を投資家に注意喚起 市場規模2,300億ドルの成長産業が直面する温暖化と抗生物質耐性リスクの脅威」(2019年6月28日)https://www.esg.quick.co.jp/research/1038
QUICK ESG研究所、「【RI特約記事】投資家や銀行が「ブルーファイナンス原則」を支持」(2018年4月12日)https://www.esg.quick.co.jp/research/868


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