2020
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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 Responsible Resolutions: 本稿は、サステナブル金融の実務家が示す2020年への期待を紹介するシリーズの最新記事である。
 本稿は、PRI CEO フィオナ・レイノルズ(Fiona Reynolds)による寄稿である。

 2019年は責任投資をめぐる様々な動きがあり、2020年代に注目されるとみられるテーマのいくつかが浮き彫りとなった。気候変動は身近な問題となり、いまだ断固とした対策が講じられないことに業を煮やした若者世代のいら立ちを反映する形で、グレタ・トゥーンベリさんの発言に耳目が集まっている。 

 従来の株主優先主義にも疑問が投げかけられ、企業のビジネスモデルに、より広範な社会的責任を織り込むことが期待されている。環境や社会に負の影響をもたらさないことは、単なる社会貢献と捉えられていたが、今や企業活動に浸透しつつあり、いずれは経営理念に組み込まれる可能性もある。

 また、企業による不作為や、気候変動への影響に疑念をはさむことを容認しない機運が高まっている。企業による気候変動対策への期待が高まり、監視の目も厳しくなっており、企業が説明責任を果たすことは避けられない。責任投資家と世界の金融セクター全体として、企業に気候変動対策と説明責任の強化を促すことは、共通の責任である。 

 責任投資原則(PRI)は、2020年代に企業の取組みと説明責任が求められるテーマのうち、特に重要な「気候変動」と「人権」について、引き続き主導的な立場で取り組む。

 オーストラリアの森林火災は、気候変動の影響を受けた将来図を示す直近の事例(これだけに限らない)といえよう。筆者は1月22日現在、同国のニューサウス・ウェールズ州で休暇を過ごしているが、煙が漂うなか、毎晩、惨状をありのままに伝える地元テレビのニュースを見ている。

 現時点で火災による死者は28名、焼失した家屋は2,000件近くに上るほか、10億以上の動物が焼死し、焼失面積は1,500万エイカー(約6万平方キロメートル)に及ぶ(2020年1月22日時点)。一方、インドネシアでは記録的豪雨によって、人々は大規模な避難と家屋の破壊に苦しめられており、死者数はオーストラリアの2倍に達している。相次ぐ異常気候は、気候変動によるあらゆる影響が顕著化したほんの序章にすぎない。2020年代の国家の気候変動対策も、気候変動の緩和、適応およびレジリエンスに対する投資規模で評価されるだろう。

 ボリス・ジョンソン英首相の言葉を借りれば、「ためらいや先延ばしはもう終わりにすべきだ」。PRIは引き続き気候変動への取組みに注力していく。具体的には、Inevitable Policy Response (IPR)プログラムを通じた政策介入や、Investor AgendaおよびClimate Action 100+といったイニシアチブを通じた投資家行動を促進し、企業の透明性や情報開示の分野で気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言を世界的に根付かせていく。また、水、森林破壊、プラスチック、公正な移行(Just Transition)など、気候変動がもたらす幅広い影響にも焦点を当てていく。

 今後10年間に進めるイニシアチブのうち最も注目すべきは、国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEPFI)とPRIが共同で発足させた UN-convened Net-Zero Asset Owner Allianceだろう。加盟したアセットオーナーは企業に対してパリ目標達成に向けた表明を求めるだけでなく、自らが2050年までに排出量ネットゼロを達成できるポートフォリオを目指すことを表明する。取り組みに対し説明責任を負うべく、指標や目標を設定し、定期的な情報開示を行い、それによって真のリーダーシップを示す。また、自社の受益者、ステークホルダー、業界他社だけではなく金融セクター全体に対して、更には市民社会全体に対しても説明責任を果たしていく。

 市民社会においても、気候変動を否定し、気候変動対応を妨げる企業や、資金提供先の業界団体によるロビー活動について説明責任を求める動きが広がる。機関投資家は、ロビー活動を行う企業との経済的関係について行動を起こす責任を直接担う。

 今年は英国(グラスゴー)で国連の気候変動枠組条約締結国会議(COP)が開催される。各国政府は新たにより野心的なNDC(自国が決定する貢献)を提出する必要があり、会議でしかるべき成果が出るよう、投資家は各国政府に強いメッセージを送る必要がある。次回のCOPが失敗に終わるようなら、我々は投資業界として行使すべき潜在的な影響力を十分発揮できなかったことになる。昨年スペインのマドリッドで開かれたCOPが期待外れな結果となっただけに、2020年こそは各国政府が気候変動対策に二の足を踏むような事態を避けなければならない。

人権問題に対する行動を起こす時代へ

 2020年代は、人権問題をめぐる説明責任が不可避となるだろう。現在現代奴隷状態にある人は全世界で4,000万人を超える。*1

 これは185人に1人の割合であり、奴隷状態にある人の数が人類史上最も多いという受け入れがたい悲劇的状況にある。持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット8.7が掲げる「現代の奴隷制および人身売買の根絶」を実現するためには、1日当たり1万人を現代奴隷の状態から解放する必要がある。その点からみると、ブラジルは過去20年間に5万人を現代奴隷状態から解放しており、現代奴隷の解決で最大の成果を上げている。 *2

 企業と投資家に対するチェックも厳しさを増している。サプライチェーンとそれを支える投資にまで範囲を広げた場合、「環境や社会に対し負の影響を及ぼさない」という原則を守るハードルは一気に高くなる。投資業界は、人的資本の問題に関して言えば、サプライチェーンのチェック機能やより積極的な行動を促すための影響力を発揮できる。 

 PRIは、英国最大の慈善ファンドマネジャーCCLA Investment Managementと共に、現代奴隷制の根絶に取り組む投資家イニシアチブ「Find It, Fix It, Prevent it」を設立した。「奴隷制と人身売買に対抗する金融(Finance Against Slavery and Trafficking:FAST)」の原則を推進するほか、新たな人権関連プログラムを立ち上げる。また、投資手法にSDGsを組み込むよう促し、更には成果に繋げるために投資家を支援する新たなプログラムも発足させる予定だ。

 大規模な奴隷制と人身売買は、一度は克服されたものである。今後は政府、企業および投資家がこの問題への対応に向けて取り組む説明責任がより一層求められるだろう。

 2020年代、PRIスチュワードシップ2.0プログラムを実施していく。チェックリストを埋めるだけの活動とコンプライアンス遵守から、実際の成果へと移行させることを目指す。すなわち、我々が直面する重要な体系的課題に焦点を当てた協調的なスチュワードシップである。責任投資を次のレベルに押し上げるためには、パーポスを持ち、優れたガバナンスに裏打ちされた企業に投資することが唯一の方法だ。優れたスチュワードシップとは、投資家が関与して自らが課題解決の一端を担うことでもある。その一例として、鉱業セクターでは尾鉱ダムに関する新たな基準策定が進行しており、2020年中に公表される予定である。*3

  2020年にはPRIの署名機関数が3,000に達し、そのうちアセットオーナーは500になる見通しである。これは重要な節目と言える。アセットオーナーは金融のバリューチェーンの頂点に位置することから、自らの運用資産と投資運用マネジャーから受けるアドバイスのサステナビリティにコミットすることはその責務といえよう。

  署名機関の増加は望ましい成果ではあるものの、過去には、十分な信念を持たないままPRIに署名する投資家がいたことも確かである。この点については、最近Carbone4のパートナーを務めるジャン-マルク・ジャンコビチ(Jean-Marc Jancovici)からも指摘を受けた

  PRIは、今年の年次報告が終了したところで、最低履行要件を満たしていない署名機関に対し、初めて除名を通告する。これによって、PRIに署名することは、チェックリストを埋めるだけの活動ではなく、6つの原則への真摯な表明が求められることが認知されるだろう。

  本稿ならびに他のESG投資関連の刊行物の読者にとっては既知の事実だが、PRI2018年に署名機関によるESGインテグレーションの履行状況を調査した。そして過去2年間は、少数の署名機関から成るグループと協力して彼らの取り組みの強化を支援してきた。2020年は、履行状況に改善が見られない署名機関をためらいなく除名する方針である。更に説明責任を強化するべく、最低履行要件が現在および将来にわたって目的に適う内容であることを確信できるよう、これらを定期的に見直していく。

  2019年には、説明責任に関するもう1つの施策として、レポーティング・フレームワークの意見募集を開始した。その背景には、報告内容の改善につながるとの考えに加え、フレームワークが常に進化する責任投資の投資慣行に整合しており、署名機関や責任投資を手掛ける業界全体にとって有益であってほしいとの意図がある。

  将来的には、ESGのベストプラクティスを実践していると判断した機関にのみ最高評価を付与する。評価基準を厳格化することで、署名機関によるESGインテグレーションの取り組みが予想をはるかに超えるレベルに向上することを期待する。PRIESGインテグレーションに関するツールやガイダンスを提供し続け、今年はパッシブ運用に関する新しいツールやガイダンスを提供する予定だ。

  説明責任が脅かされている分野でも行動を起こしていく必要がある。世界最大の金融市場を監督する米国の証券取引委員会(SEC)は、自らが掲げる投資家保護の目的と真っ向から対立する規則を提案している。それは最終的に、企業の経営幹部や取締役会に権限を集中させる一方、特に小口投資家を対象に株主保護の規定を緩め、必要最低限の透明性、厳格な審査および企業の説明責任をないがしろにするものである。 

  SECの提案は事実上、議決権制限の一種と考えられ、ESG要因、気候変動リスク、サステナビリティ、長期的な価値創出といった問題について企業への積極的なエンゲージメントを試みる投資家を排除するものである。

  PRI抗議書簡をSECに送付したが、1月22日時点で100を超えるPRI署名機関が賛同している。今こそ、投資家が行動を起こすべき時だ。
世界中のPRI署名機関は、2020年を責任投資の重要な分岐点であり、行動と説明責任が求められる10年間の始まりと認識して、より一層サステナブルな投資行動を取ってほしい。
PRIはたびたび議論や論争の対象となるが、それはあるべき姿といえる。今後は行動と説明責任が責任投資の評価基準になるだろう。 
2020年代は、金融セクター全体と責任投資の支持者に対する監視の目が厳しさを増し、期待も高まるとみられる。
PRIはそうした動きの主導者にも追随者にもなり得る。

*1 International Labour Organization and Walk Free Foundation, Global Estimates of Modern Slavery: FORCED LABOUR AND FORCED MARRIAGE (2017) p.5 https://www.ilo.org/global/publications/books/WCMS_575479/lang--en/index.htm

*2 Cindy Berman, Head of Knowledge and Learning, The Ethical Trading Initiative (ETI), "G20: Do leaders mean what they say on modern slavery?" https://www.business-humanrights.org/en/g20-do-leaders-mean-what-they-say-on-modern-slavery

*3 2019年4月、スウェーデンの公的年金基金(AP1、AP2、AP3、AP4)の代表者からなる倫理委員会(Council on Ethics)と英国国教会年金理事会は、「尾鉱ダム安全確保イニシアチブ」(The Investor Mining & Tailings Safety Initiative)を発足させた。 https://www.esg.quick.co.jp/research/1039


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【参照】
Responsible Investor,   Fiona Reynolds「The PRI and the responsible investment community has much to achieve this year」2020年1月22日(2020年3月3日情報取得) 

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QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】PRI in Person 2019 参加報告」2019年10月24日  https://www.esg.quick.co.jp/research/1075


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