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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 保険監督者国際機構(IAIS)は2019年12月19日、持続可能な保険フォーラム(SIF)と共同で、「Issues Paper on the Implementation of the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」を発表した。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に沿った情報開示が任意であることに触れ、「開示内容の質と範囲が必要なレベルに達しない可能性」から、その有効性に疑問を示した。しかし、TCFDの重要部分であるシナリオ分析の根拠となるパラメータに保険監督当局が「一致した見解」を持つことは意義があると捉えている。

 IAISの論点書 (Issues Paper)は、「保険監督者に共通する問題点や懸念される事項等について、その背景や論点等を説明」し、「会員間の議論を促進する」目的で作成されている。*1

 論点書の発行は、2018年にSIFとIAISが共同発表した「保険セクターに対する気候変動リスクに関する論点書 (Issues Paper on Climate Change Risks to the Insurance Sector)」*2に続く発表である。保険業界と監督当局の意識を高めることを目的に、気候変動が保険業界にもたらす影響を検証し、現状の影響やSIF加盟国の保険監督当局の動向を整理したレポートだった。

 今回の論点書は、保険業界の気候変動リスク開示にどのようにTCFD提言の重要性を認識し、各国の保険監督当局による気候変動リスク情報開示の取り組みを共有することを目的としている。

 論点書では、「気候関連財務情報の開示内容は保険会社によって大きく異なる」と指摘している。さらに、「こうした違いの大きさを踏まえると、TCFD提言に沿った情報開示が全くの任意では、(情報利用者としての)保険会社の意思決定を伝える上での開示情報の質と範囲が確保できないおそれがある。また(情報提供者としての)保険会社の気候変動リスクと機会への対応に関する情報が、市場参加者をはじめ情報利用者の意思決定に必要な質を確保できないおそれがある」としている。

 論点書では、2019年中に英国やフランスを含む複数の監督当局や政府機関が、金融システムに気候関連リスクを効果的に反映させるには、気候関連財務情報の開示を義務づけることが必要になろう、との見方を示したことも取り上げている。

 SIFによる調査では、大多数の保険会社が、気候変動は自社の事業に影響を及ぼすと予想しているものの、TCFD提言への認識と理解度は比較的低く、調査対象のうちごく一部の保険会社だけが、TCFD提言を実行に移し、開示の準備を進めていることが分かった。

 さらに、一部のSIF加盟国が保険会社に対し気候関連財務情報の開示を義務づける規定を設けていることにも言及している。

 例えば、カリフォルニア州とワシントン州の保険監督局は、他の州レベルの規制当局と連携して、全米保険監督官協会(NAIC)の気候変動リスク開示調査にTCFD提言を反映させるよう働きかけている。なお、同調査への回答が義務化されているのは数州にとどまる。

 TCFD発足の立役者で、近くイングランド銀行総裁を退任するマーク・カーニー (Mark Carney)総裁は2019年6月、「カーボンニュートラルな社会を実現するためには、情報開示の義務化は避けられない」と述べている。

 TCFD提言の重要な要素の1つは気候変動シナリオ分析であるが、今回の論点書は、その「確固たるアプローチの構築を促す」ために保険監督当局が保険業界にどのように働きかけるのが最善か「見解の相違」があると指摘している。

 「保険業界を取り巻くステークホルダーの中には、TCFD提言への対応(例えば、共通シナリオの策定など)を標準化すれば、保険会社が一部のプロセスを独自に行うことで得られている便益が減少しかねない、と指摘する者もいる。」

 「だが、シナリオ分析の様々な段階で根拠となる主要パラメータについて規制当局が一致した見解を持つことは、分析結果の比較可能性を向上させる上で有効だろう。例えば、気候変動リスクが様々な金融資産(株式、債券、不動産など)に及ぼす影響を捉えるための明確な予測およびガイダンスなどである。」

 「さらに、ある一定の温室効果ガス排出量における気候感度や、一定の気温上昇が及ぼす影響について見解をすり合わせる方法を見つけることで、不確実性の一部を軽減できる可能性がある。シナリオ分析の結果が商品の価格設定や利用可能性に影響を及ぼす場合もあることから、シナリオの信憑性とそれがもたらす影響を考慮することが必要になるだろう。」

 論点書に対する意見公募の締め切りは2020年2月5日まで。

 IAISは1994年に設立された、200を越える国・地域の保険監督当局から構成される任意団体である。現行メンバーの保険料収入は世界全体の97%を占める。

 SIFは2016年12月に補足した、サステナビリティに関する保険監督局および規制当局によるグローバルなプラットフォームで、国連環境計画(UNEP)により招集されている。

 IAISは2017年にSIFと戦略的パートナーシップを結び、気候変動リスクとサステナビリティを戦略の焦点として認識している。2019年6月には気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)にオブザーバーとして加盟した。*3


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【参照】
Responsible Investor,   Daniel Brooksbank「Global insurance supervisors cast doubt on “purely voluntary” TCFD but see benefits of “shared view” on climate scenarios」2019年12月20日(2020年2月26日情報取得)
*1 公益財団法人損害保険事業総合研究所 主席研究員 金田幸二「IAISの保険規制・監督基準の動向について -保険グループ規制・監督を中心にして-」(損保総研レポート 第98号 2012.1)http://www.sonposoken.or.jp/media/reports/sonposokenreport098_1.pdf
*2 日本語版は一般社団法人生命保険協会ウェブサイトに掲載ありhttps://www.seiho.or.jp/activity/global/#title4
*3 IAIS「Issues Paper on the Implementation of the Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures」p.7、11

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