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 2016年4月7日に年金積立金管理運用独立行政法人(以下、「GPIF」という。)は、「機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表した。

 GPIFは、日本版スチュワードシップ・コードの受入れ表明をして以来、さまざまなスチュワードシップ活動に取り組んできた。その状況を振り返るとともに、今回のアンケート集計結果の概要を確認したい。

1.GPIFのこれまでのスチュワードシップ活動状況

(1)2014年5月30日に日本版スチュワードシップ・コードの受入れを行い、基本的な考え方および各原則への対応について公表。

(2)同時に「スチュワードシップ責任を果たすための方針」を制定。

「資産保有者としての機関投資家」として、運用受託機関を通じた行動に関する方針を定め、ヒアリングを実施し、各年度の実施状況の概要を公表することとし、運用受託機関の評価においても、スチュワードシップ責任をより果たしていると考えられる運用受託機関を高く評価することとした。

(3)2014年10月~2015年3月において、「年金積立金管理運用独立行政法人におけるスチュワードシップ責任及びESG投資のあり方についての調査研究業務」を、株式会社QUICKをはじめ3社に委託。

(4)2015年3月26日には、GPIF運用委員会において「年金積立金管理運用独立行政法人の投資原則」を策定し、「株式投資においては、スチュワードシップ責任を果たすような様々な活動を通じて被保険者のために中長期的な投資収益の拡大を図る。」とした。

 これについては、「年金積立金管理運用独立行政法人の投資原則についてのご説明」内で、

 「平成26年2月に金融庁の検討会から日本版スチュワードシップ・コードが示されました。スチュワードシップ責任とは、「機関投資家が、投資先の日本企業やその事業環境等に関する深い理解に基づく建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)などを通じて、当該企業の企業価値の向上や持続的成長を促すことにより、顧客・受益者の中長期的な投資リターンの拡大を図る責任」を意味するとされています。」

 「企業価値の向上や持続的成長を促すことで被保険者のために中長期的な投資リターンの拡大を図ることは、年金積立金の性格からも適切であり、特に国内株式を長期的に多く保有しているGPIFとして重要です。そうした観点から、スチュワードシップ責任を果たしてまいります。」

 「また、株主議決権の行使については、株式運用は運用受託機関で行っていることなどから運用受託機関の判断に委ねますが、その委託に際し、コーポレートガバナンスの重要性を認識し、議決権行使の目的が長期的な株主利益の最大化を目指すものであることを示すとともに、運用受託機関における議決権行使の方針や行使状況等について報告を求めます。」

 と記述されている。

(5)2015年7月10日公表の「平成26年度業務概況書」において、株式運用のスチュワードシップ責任・株主議決権行使に関する開示が行われている。

 「2014年4月から6月の運用受託機関におけるスチュワードシップ活動を把握するため、平成26年10月、全ての運用受託機関に対して、ヒアリングを実施し、総合評価の一項目として評価を実施しました。(以下、略)」

(6)2015年9月16日に国連責任投資原則(PRI)に署名。

(7)2016年1月28日に「平成27年 日本版スチュワードシップ・コードへの対応状況について」を公表。

 「2015年9月にGPIFの国内株式の全ての運用受託機関(20社)に対して、スチュワードシップ活動の対応状況についてヒアリングを実施し、運用受託機関のスチュワードシップ活動における課題を把握した。」

 「当法人運用受託機関にエンゲージメント活動のヒアリングを行うだけでは一方的な情報収集になり客観性に欠ける懸念があること、またエンゲージメント活動がどのように事業会社側に受け止められているかを把握することにより全体のレベルアップを図ることを目的として、事業会社に対して運用受託機関のスチュワードシップ活動についてのアンケートを実施している。」

(8)2016年3月22日に「スチュワードシップ推進グループ」を設置。

 2015年12月にスチュワードシップ専任者を採用するとともに、スチュワードシップ推進グループを設置し、受託者責任の観点から年金積立金の運用にふさわしいスチュワードシップ活動の取組みを推進する。

2.アンケートの実施目的

(1)GPIFが運用を委託している運用会社のスチュワードシップ活動に関する評価と「目的を持った対話」(エンゲージメント)の実態把握を目的とする。

(2)運用会社に対するヒアリングを行うだけでは、一方的な情報収集に留まり、客観性に欠ける恐れがあること、またエンゲージメント活動がどのように事業会社側に受け止められているのかを把握し、全体のレベルアップを図るためにアンケートを実施。

3.アンケートの実施概要

(1)対象先企業:JPX日経インデックス400採用企業

(2)回答社数:260社(回答率:65%)

(3)回答期間:2016年1月6日から1月22日まで

4.アンケート結果の概要

(1)機関投資家のスチュワードシップ活動に対する意見および要望

①回答企業の約6割が日本版スチュワードシップ・コード導入後の機関投資家の変化を認め、経営戦略およびESGに関する質問が増えたことを肯定的に捉えている。

②好ましくない変化として、実績作りのための形式的・画一的な質問が増えたこと、経営者との面談を強要するケースが増えたことが挙げられた。

③企業を取り巻く環境などを無視した一方的な提案もある。

④資本政策・資本効率に関する質問が増えたことを挙げた企業が多かったが、評価は分かれた。

⑤資本政策・資本効率に関して、投資家ならではの示唆を期待している。

⑥投資家のショートターミズムに対する懸念から中長期的な視点に立った対話・投資を求める声が目立った。

(2)GPIFが運用を委託している運用会社のスチュワードシップ活動等への評価

①アクティブ運用の委託先を挙げる回答が目立った。

(3)アセットオーナーへの意見・要望

①人材の確保・育成に向けた体制整備

②アセットオーナーとの直接対話

(4)GPIFの考え方

①パッシブ運用におけるエンゲージメントについて、運用会社がスチュワードシップ責任をしっかり果たすことが重要である。

②ショートターミズムについて、運用会社の評価などにおいて、中長期的な視野に立ったエンゲージメントが行われているかを重視。

③企業との対話については、GPIFと直接的対話を希望する企業に対しては要望に応えたい。

 今回の事業会社向けのアンケートは、初めて実施したものであり、対象はJPX日経インデックス400採用企業。回答率は65%であるものの、企業側は機関投資家の変化を認識し、資本政策および資本効率に関する助言などを評価するなど、機関投資家のスチュワードシップ活動およびエンゲージメント活動を肯定的に捉えていることが窺える。

 反面、中長期的な視点に立った対話や投資を期待する声が目立ったようだ。

 今回のアンケート結果を踏まえ、機関投資家および企業は、中長期的な企業価値向上および持続的成長に向けて建設的な対話を行う上で、お互いにコーポレートガバナンスの重要性を意識しつつ、人材の確保・育成および組織体制の整備を進めていくことが、インベストメントチェーン全体のレベルの向上に資するのではないだろうか。

【参考資料】

機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果(2016年4月7日) http://www.gpif.go.jp/operation/pdf/summary_report_of_stewardship_activities.pdf

日本版スチュワードシップ・コードの受入れについて(2014年5月30日) http://www.gpif.go.jp/public/policy/pdf/ukeirehyoumei.pdf

スチュワードシップ責任を果たすための方針(2014年5月30日制定、2015年9月10日一部改定) http://www.gpif.go.jp/public/policy/pdf/houshin.pdf

年金積立金管理運用独立行政法人の投資原則(2015年3月26日) http://www.gpif.go.jp/about/pdf/philosophy_03.pdf

年金積立金管理運用独立行政法人の投資原則についてのご説明(2015年3月26日) http://www.gpif.go.jp/about/pdf/philosophy_04.pdf

平成26年度 業務概況書(2015年7月10日) http://www.gpif.go.jp/operation/state/pdf/h26_q4.pdf

国連責任投資原則への署名について(2015年9月28日) http://www.gpif.go.jp/topics/2015/pdf/0928_signatory_UN_PRI.pdf

「スチュワードシップ推進グループ」 の設置について(2016年3月22日) http://www.gpif.go.jp/operation/pdf/establishment_of_stewardship_enhancement_group.pdf

平成28年度計画(2016年3月31日) http://www.gpif.go.jp/public/activity/pdf/plan_h28.pdf

スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議(第6回)議事録(2016年2月18日) http://www.fsa.go.jp/singi/follow-up/gijiroku/20160218.html

 

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