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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 欧州委員会は2019年12月11日、気候と環境関連課題への取り組みを加速するための新たな戦略として、「欧州グリーンディール」(European Green Deal)を発表した。平等で豊かな社会の実現、自然資本の保護・保全・増加、そして環境リスクから人々の健康とウェルビーイング(幸福)を守るために必要な、2050年のGHG排出量ネット達成と、化石燃料への依存から脱却しつつ産業競争力を強化を目指す、EUの環境・金融・経済政策を示したロードマップである。また、欧州グリーンディールはSDGs達成戦略に不可欠な要素であり、誰一人取り残さず、ジャスト・トランジション(公正な移行)を実現すると表明している。

 24ページにわたる指針は、第2章 (Transforming the EU’s economy for a sustainable future) において、欧州グリーンディールの8つの環境政策骨子とそれを支えるサステナブルファイナンス政策を説明している。

1.2030年&2050年GHG排出削減目標に向けて(Increasing the EU’s climate ambition for 2030 and 2050)

 2050年ネットゼロという野心的なGHG排出削減目標を実現するために、2020年3月までに「気候法」(Climate Law)案を提出し、法制化を目指す。また、2014年に定めた、2030年の排出量を1990年水準に比べ40%削減を改め、少なくとも50%減、努力目標として55%減を目指すべく、2020年夏までにインパクト・アセスメントの計画を発表する。他には、排出量取引制度(EU-ETS)の適用対象セクターの拡充、「カーボン・リーケージのリスク(産業が排出規制の緩いEU圏外の第三国に移転するリスク)を防ぐため、一部の産業に対し、国境炭素税メカニズム(排出量の多い輸入製品に適切な炭素価格で課税)を導入することも検討している。

2.クリーン、入手可能かつ十分なエネルギーの供給 (Supplying clean, affordable and secure energy)

 2030年および2050年目標達成のためには供給エネルギーの脱炭素化および再生可能エネルギーへの大幅なシフトが必要であると前提を置いた。2019年末に提出された各加盟国のエネルギー計画を精査し、必要に応じて2021年6月までに新しいEUエネルギー法案を提示する。同時に、消費者、企業に対し安価で安定したエネルギー供給を確保するため、2019年末までに各国が計画を策定、2021年6月までの法制化を目指す。

3.産業界全体を気候中立かつ循環型経済へ移行(Mobilizing industry for a clean and circular economy)

 エネルギー集約型から気候中立な産業へ移行し、持続可能で雇用を多く生む経済活動を拡大するため、2020年3月にEUの新たな産業戦略と、循環型経済アクションプランを打ち出す。特に鉄鋼や化学、セメントといったエネルギー集約型の業種については技術の現代化と脱炭素化を促進させる。新プランでは、特に繊維、建設、電機、プラスチックといった資源集約型の業種に注力して、移行へのガイダンスを設けるという。また、AIや5G、クラウド、エッジコンピューティングといったデジタル技術も、グリーンディールが導く環境政策のインパクトを最大化するために不可欠の要素だという。

4.建設における省エネ・省資源化 (Building and renovating in an energy and resource efficient way)

 建物の建設、利用、リノベーションには多くのエネルギーと鉱物資源が必要になる。EU圏内の総エネルギー消費量の40%は建築物に起因するものであり、昨今のリノベーション率の度合い、十分に暖かい住宅に住めない5千万人の消費者の存在を考慮すると、安価にエネルギー効率性を高めることができるかが、気候課題に対処する上で2つの大きな課題といえる。そのため、EUと加盟国は官民双方の建物を対象に”リノベーション・ウェイブ”に取り組む必要がある。欧州委員会は2020年に、リノベーションに関わるすべての利害関係者と協働するためのイニシアチブを立ち上げる。

5.持続可能でスマートな交通手段への移行促進 (Accelerating the shift to sustainable and smart mobility)

 EU圏内のGHG排出の25%は交通・輸送に起因し、2050年までに交通を原因とする排出を90%削減する必要があることから、2020年に持続可能でスマートな交通手段の戦略を採択するとしている。複合運送 (multimodal transport) の促進や、EUエネルギー税制指令の改正、持続可能な代替燃料の生産と使用の促進、自動車に対する排ガス規制の強化を盛り込んだ。

6.公正で健康的かつ環境に配慮した食のシステムの設計(From Farm to Fork)

 2020年春に’Farm to Fork’戦略を打ち出し、食料サプライチェーン上のステークホルダーと協力して持続可能な食の在り方を追求していくという。農業および漁業における気候変動取組みの支援、化学農薬や肥料、抗生物質の過剰投与の削減、食料の輸送・保管・パッケージング・廃棄といった全過程における環境負荷の低減といった課題を挙げている。

7.生態系と生物多様性の保全と回復 (Preserving and restoring ecosystems and biodiversity)

 2020年3月までに生物多様性戦略を策定し、2021年に具体的なアクションを示すとした。2020年10月に中国・昆明で開催される生物多様性条約(CBD)の第15回締約国会議(COP15)は、「ポスト2020生物多様性世界枠組」の指針採択を目指す重要な場となる。EUはそこで生物多様性戦略を発表し、グローバルな交渉における優位性を獲得するだろう。生物多様性については投資家の関心も高まっている。新たなフレームワークが構築されればエンゲージメントが加速する可能性がある。例えば、オランダ銀行のサステナブルファイナンス部門には生物多様性に特化したワーキンググループが設置されている。さらに、英シンクタンクの「カーボン・トラッカー」は姉妹組織の「プラネット・トラッカー」を立ち上げ、金融市場に「生態系」を組み入れようとしている。指針案は 「ブルーエコノミー」についても言及しており、持続可能な海洋は気候変動の緩和と適応に貢献すると強調している。

8.汚染ゼロ目標 (A zero pollution ambition for a toxic-free environment)

 欧州の市民と生態系を守るためには、大気、水、土壌そして消費者製品からのあらゆる汚染の監視、報告、防止そして救済措置を取ることが必要である。汚染ゼロ環境を実現するために、クリーン化と救済策を取ると同時に、汚染が生み出されること自体を防止することが求められる。汚染ゼロのためのより体系立ったアプローチを実現するために、クリーンな空気・水・土を確保するためのゼロ汚染アクションプラン(zero pollution action plan)を2021年に採択するとともに、有害物質から市民を守る持続可能な環境を実現するための化学物質戦略も打ち出す。

 そして欧州委員会は上記8つの環境骨子を支える、サステナブル金融の在り方を示した。EUの2030年目標達成のためには、追加で年間約2,600億ユーロ(約31兆円)の投資が必要であるとし、公的資金調達の導入や民間投資の創出に特化した「持続可能な欧州投資計画」(SEIP: Sustainable Europe Investment Plan)を策定する。詳細はなお不明だが、2030年までに総額1兆ユーロ規模のサステナブル投資を実現する予定だ。

 また計画の一部として、公正な移行(Just Transition)のための枠組み「Just Transition Mechanism」と、それに特化したファンド「Just Transition Fund」を設立し、脱炭素社会への移行において誰一人取り残さないよう、社会面を考慮する。特に、化石燃料への依存度が高い、あるいは排出量が多く、移行の影響を最も受ける地域や業種、そこで働く労働者を支援する。公正な移行は、石炭への依存度が高い東欧圏のEU加盟国や、気候変動に関し公正な移行を支持する投資家ステートメント(Statement of Investor Commitment to Support a Just Transition on Climate Change)に署名した158の機関投資家(運用総額10.1兆ドル相当)にとっては特に重要な課題である。

 事前にリークされた欧州グリーンディールの当初案では、サステナブルファイナンスに関するEUアクションプランの第10項目「サステナブルなコーポレートガバナンスの促進と資本市場の短期主義の抑制」の推進を約束する文言が盛り込まれていた。そして「サステナブルなコーポレートガバナンスに関する法案策定」(a legislative proposal on sustainable corporate governance)の必要性について2021年6月までに判断すると記載されていた。だが最終案では法制化に言及した文言は削除され、単に「企業の多くがいまだ自社の長期的な成長やサステナビリティの側面より、目先の業績ばかりを重視する傾向にあるため、コーポレートガバナンスの枠組みにサステナビリティをより深く組み入れるべきである」と記すに留まった。

 EUアクションプランの第10項目に関連して、EUが継続的に取り組んでいるのは企業の取締役会のサステナビリティ戦略で、具体的にはサプライチェーン全体のデューディリジェンス、企業の長期的な利益確保のために取締役が果たすべき職責の明示などが挙げられる。これらの取り組みは司法・消費者総局(DG JUST)の主導の下で進められているが、アクションプランの他の項目に比べて進捗度合いはなお初期段階にある。2019年初めに開かれたDG JUSTの会合では「サステナブルなコーポレートガバナンス」のコンセプトについて審議が行われ、株主優先主義とステークホルダー資本主義の対立をめぐって議論が交わされた。指針案から「サステナブルなコーポレートガバナンスの法制化」に関する文言が削除された背景には、オスロ大学のベアテ・ショーフィエル(Beate Sjåfjell)教授らが主導したリサーチプロジェクト「Sustainable Market Actors for Responsible Trade (SMART)」の提言が関係している可能性がある。同プロジェクトでは、2017年に制定された現在のEU会社法指令を改正し、持続可能な価値創造の保証を取締役の責務と明確にする必要があると提言している。

 欧州投信・投資顧問協会(EFAMA)は欧州グリーンディールへの「全面的な支持」を表明し、業界として「その成功に欠かせない事業に必要な資金を振り向ける」ことを約束した。一方で、企業が比較可能で信頼性のあるESG情報を広範に開示しない限り、投資運用業界として取り組みを大きく推進することはできないと改めて主張した。

 欧州委員会はこうした指摘に対し、2020年にEU非財務情報開示指令(NFRD)を見直す意向を明らかにした。Accountancy Europeのアドボカシー(政策提言)部門責任者を務めるエレーニ・カネッリ(Eleni Kanelli)氏は、こうした展開は「不可避」であるとし、NFRDの導入以降、サステナビリティをめぐる「市場の動きが大きく進展したのに対し、NFRDは表面的な議論に終始している」と指摘した。2014年にNFRDが成立したことを受け(2016年12月までに国内法で当該指令に対応するよう義務づけた)、サステナブル金融ブームの火付け役とも言える。NFRDは、大手上場企業にいわゆる非財務情報(多様性、人権、収賄・汚職、環境パフォーマンスなど)の開示を義務づけている。 

 だが責任投資家が求めるのは、より広範なESG関連情報だけでなく、それらの情報が統合された財務諸表である。情報開示に関する新法やグリーンタクソノミーなど、EUアクションプランに盛り込まれた全ての政策はこうした非財務情報への依存度が極めて高いことから、欧州グリーンディールで指示的なタイムテーブルが設定されたことは「大きな意味がある」とカネッリ氏は述べ、これが「様々な仕組みの基盤になる」とみている。 

 RIの取材によると、欧州委員会はベルギー・ブリュッセルに拠点を置くシンクタンクCentre for European Policy Studies(CEPS)にNFRDの適用範囲の査定を委託し、適用対象に含むべき企業を増やすべきか調査している。CEPSは2020年6月までに調査結果を発表する可能性がある。

 NFRDの見直し対象には、その適用範囲のほか、情報開示の方法(財務諸表に組み入れるか、別の文書で公表するか)や標準化のレベルおよび比較可能性といった分野も含まれる可能性がある。カネッリ氏は、欧州委員会は「NFRDの実践を整合性のあるものにするため、レベル2の措置」を検討している可能性があると述べ、EUの立法手続き(ラムファルジー方式)に言及した。


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【参照】
Responsible Investor,    RI Journalists「The European Commission has spoken: All EU policies must now fall in line with green ambitions」2019年12月12日(2020年2月10日情報取得)
COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE EUROPEAN COUNCIL, THE COUNCIL, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS The European Green Deal 
https://ec.europa.eu/info/sites/info/files/european-green-deal-communication_en.pdf


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