benchmark

 2019年11月15日、ビジネスと人権に関する国際的なイニシアチブであるCHRB(Corporate Human Rights Benchmark)が2019年版ベンチマークを発表した。このベンチマークは、日本企業18社を含む200社の人権課題への取り組みを6つの分野(A.ガバナンスと方針、B.尊重の組み入れと人権デューデリジェンス、C.救済措置と苦情処理メカニズム、D.実践:企業の人権活動、E.実践:深刻な申し立てへの対応、F.透明性)に渡り評価し、取り組みをスコア化したもので、2017年のパイロット版を皮切りに今回が3度目の公表となる。
 2019年版の評価対象企業は世界の時価総額上位企業から業種、地域バランスを加味し選定している。昨年までの農作物、アパレル、資源採取100社に、ICTセクターを加え、企業数も倍増した。

 2019年版ベンチマークでは、Key Findingsとして以下8点を挙げている。

1.大多数の企業におけるUNGPs(国連ビジネスと人権に関する指導原則)実践レベルの低さ

 2019年の平均スコアは24%。評価対象200社のうち過半数の企業のスコアが20%に満たない。この極端に低いスコアは、UNGPsの実践レベルが非常に低いことの裏付けと言える。

2.人権デューデリジェンスが重要な課題

 人権リスクを管理するためには、リスクを特定、評価し、対応するプロセスである人権デューデリジェンスが欠かせない。この分野での平均スコアは21%であり、49%の企業がゼロスコアの状況であり、開示が進んでいない。

3.過去にも評価対象となっている企業の改善

 2017年のパイロット版ベンチマーク以降、評価対象となっている企業のスコアには改善がみられる。具体的には2017年の平均スコアは18%だったが、当該企業に絞ると2019年の平均スコアは31%に上昇した。当該企業の75%のスコアが上昇しており、Danoneなどいくつかの企業は2017年と比較し、30ポイント程度スコアを改善した。Adidas、Unilever、Marks & Spencer のようなリーダー企業は70%以上のスコアを維持している。

4.改善が見られない企業の存在

 複数回の評価を経てもなお、最低限の要素を満たせず、改善が見られない企業も存在する。たとえばMonster Beverages、Starbucks、Costco(3社とも米国企業)は依然として低スコアのままである。2017年から評価されている企業のうち5社中1社は5%以内のスコア上昇にとどまり、変化を促すインセンティブが不十分であることが見てとれる。

5.新規評価対象企業のスコアの低さ

 2019年に初めて評価対象になった企業の平均スコアは17%に留まり、まるで2017年のパイロット版ベンチマークに逆戻りしてしまったかのような低水準。このことから、評価が対象企業に改善を促す一方、対象外の企業にとっては開示への関心が高まりにくいといえる。新規評価対象企業100社のうち、50%を超えるスコアを取得した企業はNewmont Goldcorp Corporation、Barrick Gold Corporationの2社のみであり、ゼロスコアを取得した企業も2社存在する。(Youngor、Zhejian Semir、いずれも中国企業)

6.人権侵害の被害者の救済と補償の開示不足

 2019年の評価では、約150件の深刻な訴訟が報告された。そのうち被害者が満足いく形での救済措置を提供したケースは3%に留まる。CHRBでは規模、範囲、救済余地の観点でもっとも深刻な訴訟のみを取り上げ、企業の対応を評価している。そのため、評価対象になっている訴訟は限られる。

7.透明性の必要性―特に顕在化したインパクトと企業行動について

開示全般が弱く、特に重要なリスク(強制労働など)の管理や対応策(サプライチェーンのマッピング)について開示が進んでいない。たとえば今年初めて評価対象になった企業で見ると、サプライチェーンのマッピングを開示しているのは10-15%に留まる。

8.ICTセクターの取り組みの遅れ

2019年ベンチマークで初めて評価対象になったが、セクター平均スコアは18%と低く取り組みの遅れが目立つ。このスコアは、他の3セクターの最低スコア(農作物24%、アパレル25%、資源採取29%)を下回る。ICTセクターで50%のスコアを取得した企業は存在せず、3分の2の企業が20%以下のスコアに留まる。業界全体の傾向として、特定の課題の開示は詳細に及ぶが、人権尊重の体系立った取り組みは進んでいない状況が見られた


日本企業は18社のスコアは以下の通り。

企業名

セクター

2019年スコア

カッコ内は2018年スコア

ファーストリテイリング

アパレル

47.1(28)

イオン

農作物、アパレル

28.7(16.7)

キリンホールディングス

農作物

23

アサヒグループホールディングス

農作物

22.1

東京エレクトロン

ICT

19.7

キヤノン

ICT

17.5

JXTGホールディングス

資源採取

16.2

村田製作所

ICT

14.9

INPEX

資源採取

14.1

日立製作所

ICT

13.3

任天堂

ICT

12.7

日本製鉄

資源採取

11.8

セブン&アイホールディングス

農作物

10.3

サントリー食品

農作物

9.8

京セラ

ICT

7.7

HOYA

ICT

7.2

ファミリーマート

農作物

4.9

キーエンス

ICT

0.9

※リストはスコア順


QUICK ESG研究所 後藤弘子