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 アマゾンが燃えている。畜産や大豆のための農地転換が疑われている。PRIは投資家ステートメントを公表し、投資先企業のサプライチェーンが森林破壊に関わることへの懸念を表明した。実際、すでに投資家からの圧力は強まっている。アマゾンを守りたいと多くの投資家や関係者が声をあげていることには勇気づけられる。日本の投資家の行動にも期待したい。

 だが、そのことを踏まえた上であえて言えば、これら緊急事態への反応は、問題を本質的に解決するだろうか。いったんはおさまっても、やがて同じことの繰り返しになるのではないか。そもそもなぜアマゾンは燃えるのか。「ブラジルのトランプ」とも称されるジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領の登場に遡って、考えてみたい。

1.燃えるアマゾン

 アマゾンの状況は刻々と変化している。ここでは、議論の出発点として2019年8月23日付ガーディアン紙の「アマゾンの火災:何が起きているのか、そして私たちにできることはあるのか」(注1)と題した解説記事を引用しておこう。

 この記事によれば、ブラジルでの火災は毎年のことだが、2019年は特に多く、記事の執筆時点ですでに7万2000件以上の火災があった。これは、前年の同じ時期に比べて84%の増加だという。そして概略、次のように述べている。

 たしかに、森林のすべてが燃えているというイメージは誇張である。ソーシャルメディアが過去の印象的なイメージを含む間違った情報を拡散している。しかし、だからといって、心配しなくてよいということではない。ほとんどの火災の原因は農業であり、小規模農家が収穫後の刈り株を燃やしていることもあるが、耕作地の拡大のために森林を焼き払っていたり、違法な土地の横領者が木々を破壊していたりすることもある。シベリアやアラスカの最近の火災とは、そこが違う。ブラジルの火災のほとんどは、稲妻などに起因する自然現象ではなく、人間による意図的なものなのである。さらに記事は次のように続ける。

 「この火災は、地上最大の炭素吸収源かつ最も重要な生物多様性の宝庫を破壊している。炭素の吸収と気候の安定のために世界が何十億もの木々を必要としているその時に、地球は最大の熱帯雨林を失っているのだ」

 「7月には、森林破壊は過去10年以上見られないレベルに急上昇した。ブラジル宇宙局(Brazil’s space agency)の予備的な衛星のデータによると、木々は毎分、サッカーコート5面分の割合で焼失している。1か月では2254平方キロメートルが失われた。これは、前年同月比278%の増加である。科学者によれば、今年は1万平方キロメートルのアマゾンが失われる、この10年で最初の年になるだろうという」

 そして、アマゾンが「ティッピングポイント(転換点)」に近づいているとの科学者の声を紹介している。ティッピングポイントとは何だろうか。

2.迫るティッピングポイント

 2018年9月のコラム「【水口教授のESG通信】PRI in Person 2018 参加報告」でも紹介したが、アマゾンの木々は地面に深く根を張ることで地中深くから水を吸い上げている。その水分が葉から蒸発することで雲ができ、再び雨が降るという循環が成り立っている。つまりアマゾンに降る雨はアマゾンがもたらしているのである。したがってある限界を超えて森林を失えば、降る雨も失われ、再び森林が回復することも難しくなる。この限界点がアマゾンのティッピングポイントである。

 ナショナルジオグラフィック誌も同様の指摘をしているので、引用しておこう(注2)。

 「アマゾンに降る雨の多くは、熱帯雨林自体から生じているため、森が消えれば降水量も減る。乾燥が進むと、やがて回復不能点に達し、熱帯雨林と言うよりはサバンナと言うべき状況になりかねないと、専門家は懸念している。『アマゾンには、この限界点が存在します。降水量の半分を自己生産しているからです。』」

 一方、PRIは2018年10月2日から、The Nation誌およびPBSニュースアワーと共同で、ウェブ上に「アマゾンのカーボンティッピングポイント」と題した4回シリーズの連続レポートを掲載しており、その第1回目で科学者たちによる興味深い調査を紹介している(注3)。それは次のようなものである。

 従来、CO2の増加は温暖化をもたらす一方で、植物の成長を加速してきた。アマゾンやその他の森林はCO2を吸収して葉や枝や幹に蓄積する。つい最近までアマゾンは貪欲にCO2を吸収してきた。しかし、アマゾンのような巨大な森林でもCO2の吸収には限界があるという。人間が大気を変え、大気の変化が気候システムを変え、気候システムの変化とCO2濃度の上昇が森林の振る舞いを変える。実際にアマゾンの森林に分け入って木々の葉にセンサーをつけてCO2を測定している科学者たちの研究では、数年前からCO2の吸収より放出の方が多くなっているというのである。

 「OK、もう満腹だ、やめてくれ」アマゾンがそう言っているようだと、科学者の一人は言う。彼らはアマゾンの森林の一部を大きなプラスチックの壁で囲み、高濃度のCO2を送り込むことで、今よりもCO2濃度が上がったときの森林の反応を調べようと試みている。

 仮に森林によるCO2の吸収が止まれば、その分は大気に蓄積し、温暖化がさらに加速する。そこに伐採や耕作地の開拓が加わる。すでに脆弱なシステムに畜産や違法伐採が森林火災をもたらし、より乾燥し、より高温の気候になれば、ティッピングポイントに至るのではないか。それはアマゾンの炭素吸収能力のティッピングポイントであると同時に、アマゾン自身のティッピングポイントでもある。

 ティッピングポイントを超えてしまうリスクを避けるためには、森林破壊の割合を25%未満に抑える必要があると科学者の一人は述べている。だがこのレポートが掲載された後、事態はむしろ悪化している。一体なぜ、そんなことになるのだろうか。

3.ポピュリズムは環境を破壊する

 先に引用したガーディアン紙が指摘する通り、アマゾンの火災の直接の原因は農業である。ナショナルジオグラフィック誌の記事はこう伝えている。「アマゾンでは、木材用に加えて、大豆畑や牛の放牧地を作るために、大量の木が伐採されている。手っ取り早く開拓するために、森を焼き払うことも少なくない。アマゾンの森林火災は、大半がこのように人間が火をつけ、その後制御不能に陥ったものなのだ」(注4)

 当然、WWFやグリーンピースをはじめとする環境NGOは、続々と懸念を表明したり、国際署名運動を始めたりしている。投資家も動き始めた。たとえばノルウェーの生命保険等大手のストアブランドとKLPは、農産物関連企業がサプライチェーンを通じてアマゾンの森林破壊に加担しないようエンゲージメントを強化していると報じられた(注5)。

 2019年8月30日付のガーディアン紙も、プレッシャーが高まっていることを伝えている(注6)。たとえばアメリカの大手アパレル企業であるVFコーポレーションはブラジルからの革製品の購入を停止した。また、北欧の大手運用機関であるノルデアアセットマネジメント(Nordea Asset Management)はブラジル国債の購入を停止したという。

 PRIは、2019年9月18日、総額16.2兆ドルの資産を有する230の投資家の署名を得て、投資家ステートメントを公表した。その内容は、表1に示すとおり、投資家として、企業に対してサプライチェーンを通じた森林破壊のリスクを管理し、森林破壊ゼロにコミットすることを求めるものである。9月12日までパリで開催されたPRI in Person 2019でも何度も話題に上り、参加者に盛んに賛同を求めていた。

 火災の根本にあるのは、森林を農地に変えることが儲かるという構造である。開拓地からの農畜産物を購入する企業が問題だ、というのはその通りだろう。それゆえ、サプライチェーンを通じた森林破壊に荷担するなという投資家から企業へのプレッシャーは重要だ。PRIをはじめとする投資家グループの行動に敬意を表したい。だが、そのことを踏まえた上で、PRIの連続レポートに掲載された下のグラフを見てほしい。

ブラジルにおける森林減少面積の推移
ブラジルにおける森林減少面積の推移グラフ

出所:PRI連続レポート 「The Amazon‘s Carbon Tipping Point. Day 1: The Amazon used to be a hedge against climate change. Those days may be over. 」より抜粋。
 

 利益を求める気持ちは人間の本性かもしれないが、破壊される森林の面積は2012年まで減っていたのである。ところがその流れは2013年以降足踏みし、2015年を境に再び増加に転じている。2018年のPRI連続レポートの第2回は、その事情を次のように伝えている(注7)。

 ボルソナロ大統領の前任で、農業ビジネスからの強力な支援を受けたミシェル・テメル(Michel Temer)大統領の下、環境省の予算は43%もカットされ、現場で森林の保護とパトロールを担当するある州の現地事務所のスタッフは4人から1人に減らされた。土地横領者に対しては恩赦が行われ、20億ドルを超える罰金が免除されたという。これらが違法伐採や先住民の土地の収奪を促すシグナルとなり、森林破壊が急増し始めたというのである。そこへ右派ポピュリストで、「ブラジルのトランプ」とも呼ばれるボルソナロ氏が、やはり農業ビジネスの強力な支援を得て、現れたというわけである。

 この点については、8月23日付ガーディアン紙の解説記事も再び引用しておこう(注8)。

 「1990年代と2000年代前半には、状況はもっと悪かった。しかしブラジルは、国際社会の称賛を勝ち取った。2005年から2014年の間に森林破壊を80%もスローダウンさせたからだ。それは、厳格なモニタリング、より良い取り締まり、厳しいペナルティによって成し遂げられた。だが、ここ数年、このシステムは浸食されており、多くの人が、20年前に起きた森林破壊の水準に戻ってしまうことを恐れている」

 「ボルソナロ氏が物事をひどく悪化させたことは事実だ。彼は、環境省の力を弱め、環境NGOを攻撃し、鉱山業、農業、林業がアマゾンを開発することを促した。この極右のリーダーは、衛星のデータを棄却し、宇宙局のトップを解雇した。しかしこれは、単に彼だけの責任ではない。ブラジルでは農業ビジネス団体の力が強く、2005年から2014年までとてもうまくいっていた保護システムを常に弱めようとしてきた。前の2人の大統領が在任中の過去5年間にも、森林破壊は徐々に増えてきた。その比率は、ボルソナロ氏が大統領になった最初の8か月で急速に高まった。しかし、これは単に彼だけのことでも、ブラジルだけのことでもない。左派のポピュリスト大統領がいるボリビアでも、大きな火災が起きている」

 このように、2014年までブラジル政府は農業ビジネスを抑えて森林の減少を食い止めてきた。だがその流れは2015年に逆転した。政権のポピュリズム化に原因があるようだ。ボルソナロ氏が大統領になる前からその傾向はあった。彼は、その流れを加速した。あえて単純化して言えば、ポピュリズムは環境を破壊する。

 問題は、彼が選挙で正当に選ばれた大統領だということである。農業ビジネスが支援したからだという説明は、一見、わかりやすいが、それだけで大統領になれるだろうか。大衆の広範な支持があるからこそ、ポピュリズムなのである。しかも「ブラジルのトランプ」という呼び名が端的に示すように、ポピュリズムはブラジルだけの現象ではない。そして本家のトランプ大統領もパリ協定からの離脱を公言している。もしポピュリズムが環境を破壊するとしたら、ESG投資家はポピュリズムが世界に広がっているという現実と向き合う必要があるのではないか。では、ポピュリズムはなぜ広がるのだろうか。

4.世界的現象としてのポピュリズム

 そもそもポピュリズムとは何だろうか。大衆の支持を得ることがポピュリズムだとすれば、それは民主主義とどう関わるのだろうか。

 ポピュリズムについては、水島治郎氏が著書『ポピュリズムとは何か』の中でわかりやすい説明をしている。同書によれば、ポピュリズムの語源は1892年にアメリカで創設された人民党(People’s Party)に遡る。当時、二大政党の支配に挑んだ同党は別名ポピュリスト党(Populist Party)と言われ、その党員はポピュリストと呼ばれたという。その背景にあったのは、スタンダード石油やカーネギー鉄鋼会社などの巨大企業の出現による資本主義の発展と経済格差の拡大であった。困窮する都市労働者層などの不満に既存の二大政党が応えていないことが、人民党の登場につながったと言われる。格差の拡大がポピュリズムを生むという構図は、現代のいわゆるトランプ現象とも共通する。

 水島氏によれば、アメリカの人民党自体は短命に終わったが、その後1930年代以降にはラテンアメリカで鉱山主や大規模農園主らの支配に対する民衆の抵抗運動としてのポピュリズムが広がり、民主化の進展を促した。

 一方ヨーロッパでは、1990年代以降、フランス、オーストリア、ベルギー、オランダ、デンマークなどでポピュリズム政党が躍進した。その背景として指摘されるのは、グローバル化と格差の拡大である。冷戦が終焉しグローバル化が進展する中で、従来の左右の政党間の政策距離が縮まる一方、ITや金融業の発展と派遣労働などの不安定労働の拡大によって「勝ち組」と「負け組」の二極分化が顕在化し、左右を問わず、グローバル化を一方的に受け入れる政治エリートへの批判が高まったのだという。

 水島氏の言葉を借りれば、「エリートに対する人々の違和感の広がり、すなわちエリートと大衆の『断絶』こそが、ポピュリズム政党の出現とその躍進を可能とする」。

 ヨーロッパのポピュリズムの特徴は、エリート批判に加え移民の排斥や反イスラムを唱える排外主義的な姿勢にある。英国ではナイジェル・ファラージ(Nigel Farage)氏率いる英国独立党(United Kingdom Independence Party: UKIP)が産業構造の転換で「置き去りにされた」白人労働者層を取り込み、反EU、反移民政策で支持を拡大した。そして当時のキャメロン首相が実施したEU離脱を問う国民投票で、保守党のボリス・ジョンソン(Boris Johnson)氏とともに強力な離脱キャンペーンを行い、実際にEU離脱という投票結果を勝ち取った。このときキャンペーンのキーワードとなったのが「主権を取り戻せ(Take back control)」というフレーズだった。ブリュッセルに陣取るEUの官僚が対決すべきエリートと見做されたのである。

 このように歴史を遡ればポピュリズムとは、本来、民主的手続きを通じた支配階層に対する大衆の挑戦であった。しかしそれは今や、反エリート、反グローバリズムの政治的主張となり、多くの場合、移民を排斥する排他的な自国中心主義に変質してしまった。その原因は、ポピュリズムに自己と他者を峻別する傾向があるからだろう。支配階層などの他者を明確にすることで人々が団結する。今ではグローバリズムの進展と格差の拡大がグローバルエリートへの反感となり、ポピュリズムの燃料になっている。

 そう思って再びアマゾンの問題に立ち返ると、ボルソナロ大統領の支持者たちにとっては、G7首脳や欧米の大手投資家こそ、対決すべきグローバルエリートに見えるのではないか。ESG投資家らがアマゾンの熱帯雨林の保護を訴えるのは、地球全体のサステナビリティを考えれば当然のことだ。だが、大統領の支持者たちには、ブラジルの発展の足かせになる圧力と映るのかもしれない。だからボルソナロ氏は強気だ。対決姿勢を強めれば強めるほど、自分への支持を高めることができる。グローバル社会がブラジルの進路を勝手に決めるのか、今こそ主権を取り戻せ、と。

 もちろん、だからと言って、彼らを擁護することはできない。国内ではむしろ彼らこそが支配階層であり、先住民の土地を奪っているのだから。PRIの連続レポートの第3回では、勇猛果敢な先住民族が実力で収奪者たちから森を守っている様子が描かれている(注9)。タイトルは「先住民の部族が、アマゾンにとって最後にして最大の希望」である。

 収奪者と闘うというだけではない。森を開発するのでなく、森と共生し、そこに森があることが宝だと考える彼らの思想こそ、最後の希望なのだろう。そのことに深く共感した上で、しかし、ポピュリズムが世界に蔓延していく構造を変えない限り、本質的な解決には至らないのではないか。そのためにはグローバリズムで「置き去りにされた」と感じる人々と向き合い、エリートが大衆の信頼を取り戻すことが必要だ。ESG投資はその要請に応えられるだろうか。

表1 PRI 投資家ステートメントの一部

アマゾンにおける森林破壊及び森林火災に関する投資家ステートメント

(中略)

 ブラジル、ボリビア、その他のアマゾン関係国における森林破壊に起因するリスクの増大に鑑み、私たちは、企業が事業活動及びサプライチェーンにおける森林破壊を根絶するために、以下のことを含む明確なコミットメントを示し、努力を倍加するよう緊急に要請する。

1. すべてのサプライチェーンと供給地をカバーする、定量化可能で期限を定めたコミットメントを伴う、商品別の森林破壊ゼロの方針を開示し、実行すること

2. 事業活動とサプライチェーンの森林破壊リスクを評価し、そのリスクを可能な限り低いレベルに削減し、その情報を開示すること

3. サプライヤーによる森林破壊ゼロの方針のコンプライアンスに対する透明性の高いモニタリングと認証のシステムを確立すること

4. 森林破壊ゼロの方針に対する進展を含む、森林破壊のリスクの大きさと管理について毎年報告すること

出所:PRI 投資家ステートメント Investor statement on deforestation and forest fires in the Amazon の最終部分を抜粋して、筆者翻訳。 

<注>

(1) The Guardian(2019年8月23日)、Amazon fires: what is happening and is there anything we can do?

(2) ナショナルジオグラフィック日本版(2019年8月22日)、「アマゾン森林火災、原因は「過剰な伐採」と専門家」

(3) PRI(2018年10月2日)、The Amazon's Carbon Tipping Point. Day 1: The Amazon used to be a hedge against climate change. Those days may be over.

(4) ナショナルジオグラフィック日本版(2019年8月22日)、同上。

(5) QUICK ESG研究所(2019年9月12日)、「【RI特約記事】ノルウェーKLP、ブラジル産大豆を扱う企業とその投資家へ質問を送付 アマゾン森林破壊・火災を受けブラックロックへのエンゲージメントを開始」
  Al Jazeera(2019年8月28日)、Norway's biggest asset investors demand action on Amazon fires

(6) The Guardian(2019年8月30日)、Corporations pile pressure on Brazil over Amazon fires

(7) PRI(2018年10月3日)、The Amazon's Carbon Tipping Point. Day 2: For illegal loggers in the Brazilian Amazon, 'there is no fear of being punished'

(8)  The Guardian(2019年8月23日)、同上

(9) PRI(2018年10月4日)、The Amazon's Carbon Tipping Point. Day 3: 'Our wealth is the forest': Indigenous tribes are the last best hope for the Amazon

【参考文献】
水島治郎(2016)『ポピュリズムとは何か』中公新書

【関連コラム】
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】PRI in Person 2018 参加報告」2018年9月28日


QUICK ESG研究所 特別研究員 水口 剛