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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 8月、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が土地の利用と気候変動に関する特別報告書「Climate Change and Land」を発表した*1。エネルギーを大量に消費する動物性食品の代替として、雑穀、豆類、果物・野菜、ナッツ、種子類が中心とした「持続可能な食事」を選択することで、温暖化ガスの削減に貢献するため食生活の見直しを提言した。

 ブラジルのマルフリグ・グローバル・フーズ社にとって、IPCCの発表は時機が悪かったかもしれない。世界第2位の食肉加工会社である同社は7月に5億米ドルのサステナブル・トランジション・ボンドを発行した*2。同社は業界でも特に二酸化炭素排出量が多く、パリ協定の実現を脅かしかねない存在である。今回のトランジション・ボンドで調達した資金は、自社のサステナビリティ向上に充当する計画だ。具体的には、アマゾンのバイオーム(生物群集)地域の畜産農家のうち、同社が定める厳格なサステナブル調達基準を満たす農家から肉牛を調達する費用に資金を充当する。「ブラウン」な企業でありながらサステナビリティ・ボンドを発行したことは、スペインの石油・ガス大手レプソル社に続き、賛否を呼んでいる。

 フランスの運用会社ナティクシス・アセット・マネジメントの責任投資運用子会社であるMirova社のESGアナリストのフランチェスカ・スアレス(Francesca Suarez)氏は、マルフリグ社の取り組みを、「自社の巨大なサプライチェーンの社会・環境基準の向上に注力したものであり、大いに歓迎する」と評価した。また、「同社は可能な限り持続可能かつ透明性の高い方法による食肉生産を徹底すると決意を表明している。トランジション・ボンドの発行は、同社の覚悟と説明責任を示すものだ」と述べた。一方、今回の債券は「資金使途の透明性の向上を求めるメインストリームの債券ポートフォリオ向け」であり、グリーン投資やサステナブル投資に特化したポートフォリオ向けではないと指摘する。Mirova社は今回の同社のボンド購入を見送った。

 オランダの年金基金PFZWの運用を担うPGGMもボンド購入を見送り、RIの取材に対して「このボンドは、革新性のある持続可能な事業活動や気候変動対策への投資を資金使途としていないため、サステナビリティ・ボンドとしての適格性がないと判断した」と答えた。PGGMの責任投資部門トップのブレンダ・クレイマー(Brenda Kramer)氏は今年の「RI Europe」で講演し、同様の理由から、レプソル社が発行したグリーンボンドに対しても批判的な見方を示していた。

 レプソル社の既発ボンドとマルフリグ社が今回発行するボンドには大きな違いがある。「明確にしておきたいのは、マルフリグ社のボンドはグリーンボンドではなく、そうした商品として売り出されていないことだ」と引受人のESG専門家は指摘する。「そもそもグリーンボンドではないとの認識から、グリーンボンドに特化するファンドやポートフォリオマネジャーには売り込みをかけていない」とも述べた。むしろ、マルフリグ社がサステナビリティについて議論する関係を構築すべく、幅広い投資家をターゲットに発行された。結果、同ボンドは世界初のサステナブル・トランジション・ボンドとなった。こうした呼称の使い分けで、グリーンウォッシングに当たるとの批判をかわそうとしているのだろうか。投資家はここ数年、グリーンボンドだけでなく、メインストリームの債券を含めた総合的なアプローチの必要性を訴えてきた。

 マルフリグ社は森林保全の必要性を訴えるという、大胆な行動に出た。ブラジル国立宇宙研究所(NISR: National Institute for Space Research)は、IPCCが報告書を公表する2日前に、気候変動に懐疑的なボルソナロ大統領の就任以降、ブラジル国内で破壊されたアマゾン熱帯雨林の面積は7月の前年同月比で278%増加したことを明らかにした。NISRは政府機関だが、この発表が政権との対立に発展し、ボルソナロ大統領は「NISRは一部のNGOに加担し、ブラジルに悪影響をもたらす」としてリカルド・ガウヴァン(Ricardo Galvao)所長を解任したと報じられている。こうした政治的な逆風下にありながら、森林破壊問題に取り組む姿勢を公にしたマルフリグ社の行動は勇敢と見なされるだろう。

 マルフリグ社のボンドには、Vigeo Eirisがセカンドオピニオンを提供した。Vigeo Eirisは、同ボンドが抱える「環境および社会的リスクを効果的に管理・軽減する」ための十分な能力を会社側が備えているか疑問視している。国際環境NGOグリーンピースも同様の懸念を示している。マルフリグ社もこれらの課題を認めており、RIに対して、同社がトランジション・ボンドを選んだ理由は、「食肉業界の特性を踏まえ、生産活動とアマゾンをはじめとする森林の保護の両立をめぐる社会、経済および環境面の課題が山積していることを認識している」からだと説明した。問題の核心はそこにあるといえよう。グリーン投資家にとって「トランジション」という用語は極めて重要な意味を持つ。今後10年間に実践すべきあらゆる投資およびエンゲージメントの根拠となるからだ。資本市場にとってトランジション・ボンドは比較的新しいコンセプトだが、市場からの信頼性が高い移行戦略を特定する方法を確立できれば、資本配分の効率化と投資ユニバースの拡大という両面において、責任投資の分野に大変革をもたらすカギとなり得る。

 トランジション・ボンドのコンセプトには議論の余地もあるが、EUタクソノミーは気候移行を明確に取り上げている。タクソノミーの基準を満たすEUグリーンボンド基準は発行体と投資家の双方にとって気候移行の明確な指針になると期待されている。グリーンボンド市場を牽引するアクサ・インベストメント・マネジャーズは2019年6月に脱炭素化に取り組む企業を支援する「トランジションボンド」を提唱し、発行を目指す企業向けにガイドラインを公表した*3。資源国であるカナダにおいても、トランジション・ボンドの普及を通じた産業移行が注目されている。

 「トランジション」の定義を統一することは難しいが、最低限の共通認識として、「トランジション」とは、2℃(またはそれ未満)目標の達成に向けた資本および経済活動の移行を意味する。気候債券イニシアチブ(CBI: Climate Bonds Initiative)の創業者で、欧州委員会のサステナブル・ファイナンスに関するテクニカル・エキスパートグループ(TEG)のうち、EU GBSのワーキンググループに所属するショーン・キドニー (Sean Kidney) CEOは、「パリ協定が求める社会への移行に事実上貢献しない、中途半端にグリーンな事業ではトランジション・ボンドの資金使途としては不十分だ」と指摘する。

 CBIは、今回のマルフリグ社のボンドについて慎重に評価した上でその信頼性を判断するものの、森林破壊と情報開示に対する同社の取り組みは評価に値するとしている。一方で、「より検討すべき問題は、パリ協定に基づく枠組みにおける食肉業界の将来である。『トランジション』は免罪符にはなり得ず、より広範な議論が求められる」と述べている。マルフリグ社は明確な移行プランを策定してはいるものの、パリ協定の枠組みに沿った内容ではない。同社はRIの取材に対して、「歴史的に複雑かつ環境・社会問題を抱えるサプライチェーンから、環境にやさしく、森林破壊、動物福祉、二酸化炭素/メタンガス排出、奴隷/児童労働といった分野における社会的責任を果たすサプライチェーンへ移行促進するべく、懸命に取り組んでいる」とメールで回答した。

 責任投資家はそれ以上の取り組みを求める。同様のボンド発行を検討している企業は、責任投資家のニーズを注意深く見極める必要がある。Mirova社のスアレス氏は、「トランジション・ボンドの資金使途としては、植物由来の代替タンパク質に関する研究開発費などが挙げられる。それに加え、牛肉生産の削減や、より持続可能な植物性タンパク質の生産拡大を目指すという企業戦略を打ち出す必要がある」と述べた。

 世界最大のハンバーガー用食肉生産者であるマルフリグ社は8月、米穀物加工大手アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドと共に植物性タンパク質の生産・販売を行うことで合意した*4。今回のトランジション・ボンドの資金使途には低炭素社会への移行に向けたビジネスモデルの構築は含まれておらず、マルフリグ社もそうした移行計画を構築することを公にしていない。同社がトランジション・ボンドを選択したことは、いまだ初期段階にある「トランジション・ボンド」市場にとって逆風になるかもしれず、他の企業がこれに追随するのをためらったり、更に議論が複雑化する可能性もある。だが、責任投資投資家がClimate Action100+やCDP、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)といったイニシアチブを通じて透明性の向上を企業に求めてきたことから、情報開示を強化すれば投資家の関心を集められるとマルフリグ社が考えたであろうことは想像に難くない。
 


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【参照】
Responsible Investor,   Sophie Robinson-Tillett 「Analysis: IPCC warning on meat consumption adds to scrutiny of beef producer Marfrig’s $500m ‘transition bond’」2019年8月8日(2019年9月12日情報取得)
*1 IPCC, Climate Change and Land
*2 Marfrig issues sustainability bonds, July 30 2019
*3 AXA IM Transition Bond Guidline_FINAL
*4 Marfrig signs deal with ADM to produce plant-based Burgers in Brazi

【関連記事】
2019年8月22日 【RI特約記事】気候債券イニシアチブ(CBI)、EUタクソノミーに準拠した初のグリーンボンド基準を9月に公表
https://www.esg.quick.co.jp/research/1057
2019年3月28日 【RI特約記事】企業による畜産動物福祉に関する取り組みを加速させるために投資家ができること
https://www.esg.quick.co.jp/research/1008


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