画像

 「え?こんなに細かいの?」「これは厳しすぎる」「日本から意見は言えないのか」・・・・。6月にレポートが公表され、EUタクソノミーがベールを脱いだ。徐々にその姿が明らかになってくるにつれ、これを読んだ人からさまざまな声が聞こえ始めた。内容が詳細な上に、基準値の設定が高いので、関係者には一定の衝撃があったのではないか。一方で、「基準値が高いって?いや、本気で1.5℃を目指すなら、当然の水準だろう」という意見もありそうだ。何も禁止規定ではないので、過剰に反応すべきではないが、その影響や意義は理解しておく必要があるだろう。ここまで詳細に規定することが妥当なのか、今までにも何度も鳴ってきた目覚ましコールの1つに過ぎないのか。まずは落ち着いて、これをどう受け止めるべきなのか、考えてみたい。

1.タクソノミーに至るまで

 EUタクソノミーは、それだけが独立してあるのではなく、EUアクションプランという大きな枠組みの一環である。まず、アクションプランの全体像とここに至る経緯を振り返っておこう。

 欧州委員会が「サステナブル金融に関するハイレベル専門家グループ(High-Level Expert Group on Sustainable Finance: HLEG)」を設立したのは2016年末のことだった。HLEGは、2017年の中間報告を経て、2018年1月末に最終報告を公表した。それは8項目の主要な提言に加え、分野横断的な提言8項目、セクター別提言8項目などを含む詳細なものだった。そのうち主要な提言の第一番目にあげられたのがタクソノミーの策定である。

 これを受けて欧州委員会は、2018年3月8日に『アクションプラン:持続可能な成長に向けた金融』を公表した。これは図1に示す10項目からなる行動計画である。その内容は、グリーンボンドに関するEU基準を定め(アクション2)、投資アドバイスの際には顧客のサステナビリティ選好を確認することを求め(アクション4)、機関投資家には運用におけるサステナビリティリスクの考慮を義務付け(アクション7)、企業の非財務情報開示を強化する(アクション9)など、欧州においてサステナブル金融を推進するための総合的な計画になっている。タクソノミーの策定(アクション1)はその基礎をなすと位置づけられた。

 欧州委員会は、アクションプランを着々と実行に移した。まず、2018年5月に3つの法案を提出した。2018年7月にはサステナブル金融に関するテクニカル専門家グループ(Technical Expert Group on Sustainable Finance: TEG)を設置し、タクソノミーやグリーンボンド基準等に関する具体的な議論を始めたのである。

 欧州委員会が提出した法案とは、①サステナブル投資推進のためのフレームワークの確立(注1)、②サステナブル投資とサステナビリティリスクに関する開示、及びEU指令2016/2341の改正(注2)、③低炭素ベンチマークとポジティブ炭素インパクトベンチマークに関するEU規則2016/1011の改正(注3)の3つである。このうち①がタクソノミーの根拠規定になるものである。②はアクション7に関連し、機関投資家とアセットマネージャーがESG要素をどのように投資判断に組み込んでいるかについて情報開示を求めている。また③はアクション5に関わり、低炭素に関するベンチマークの新たなカテゴリーを創出する。

 EUの法制には、加盟国に国内法の整備を求める「指令(Directive)」と、各国の国内法なしに直接効力を有する「規則(Regulation)」があるが、3つの法案はすべて規則である。本稿執筆時点では、いずれも成立はしていない。欧州委員会の提出した法案は、欧州議会(European Parliament)と欧州連合理事会(Council of the European Union: EU加盟国の閣僚で構成される)の双方で審議され、可決されることで成立するが、この3つの法案は、いずれも欧州議会を通過し、欧州連合理事会の承認待ちの状況にある(2019年8月末時点)。

 一方、TEGは、金融セクター、事業会社、研究者、市民社会などからの35人の委員で構成された。彼らは、(1)タクソノミー、(2)EUグリーンボンド基準、(3)低炭素ベンチマーク、(4)非財務情報開示ガイドラインの4つの分科会に分かれ、法案の成立に先立って検討を行ってきた。その成果が2019年6月に明らかになった。グリーンボンド基準については欧州委員会への提言レポート、低炭素ベンチマークについては中間報告がそれぞれ公表され、非財務情報開示については、欧州委員会から、2014年の非財務情報開示指令に基づく2017年版のガイドラインを補完するガイドラインが公表された。そしてタクソノミーに関しても、同時にレポートが公表されたのである。

2.テクニカルレポートを読み解く

 2019年6月、TEGが「タクソノミー・テクニカルレポート(Taxonomy Technical Report)」を公表した。全体で414ページもある。まず、そこで怖気づく。だが、よく見ると構成はわかりやすい。表1に示すように、その内容はパートAからパートFまで6つに分かれており、AからEまでは解説である。タクソノミーの意義や役割、策定の方法論、次のステップなどが説明されている。ここまでで最初の100ページである。最後のパートFが産業別、活動別に見たサステナブルとみなされるための基準、つまりタクソノミー本体である。これが300ページある。この部分が長いのだ。ここは必要に応じて読めばよい。

 タクソノミーとは、もともとは生物学の用語で、分類学を意味する。それは、生物を共通の特徴に基づいて分類し、定義し、名づける学問である。分類学があるおかげで、私たちは生物の種類を認識して、その多様性を理解することができるし、珍しい生き物を見つけたときに、それが新種かどうかの判定をすることも可能になる。

 これに対してEUのサステナビリティタクソノミーは、サステナビリティに貢献する活動を分類し、定義するものである。では、今回のテクニカルレポートは、具体的にはどのようなタクソノミーを示したのだろうか。

 まず、先に述べた法案「サステナブル投資推進のためのフレームワークの確立」の第5条が、以下の6分野をタクソノミーが前提とする環境目的として示している。

①        気候変動の緩和
②        気候変動の適応
③        水及び海洋資源の持続可能な利用と保全
④        サーキュラーエコノミーへの転換、廃棄物の防止、リサイクル
⑤        汚染防止と管理
⑥        健全な生態系の保護

 このうち、今回のレポートは、「気候変動の緩和」と「気候変動の適応」を対象にしている。③以降のタクソノミーは、今後、順次検討するということのようである。また法案の第3条では、特定の活動がサステナビリティに貢献すると認められる条件、つまりタクソノミーに含まれるための条件として次の4つをあげている。

①        1つまたはそれ以上の環境目的に大きく貢献をすること
②        他の環境目的に重大な害を与えないこと
③        最低限の社会的なセーフガード措置に準拠していること
④        欧州委員会が定める基準に準拠していること

 これを前提にテクニカルレポートは、気候変動の適応と緩和に大きく貢献すると考えられる「サステナブルな経済活動」を分類し、その判断基準を示している。目次を見ると、まず「サステナブルな経済活動」の大分類がわかる。たとえば気候変動の緩和に資する経済活動は、次の8業種に分類されている。

農業
林業
製造業
電気、ガス、蒸気、エアコンディションの供給
水、下水道、廃棄物、修復
輸送
情報とコミュニケーション
建設、不動産

 個々の産業の中を見ると、さらに具体的な経済活動の小分類がなされている。たとえば「輸送」の項目を見ると、旅客鉄道輸送、貨物鉄道輸送、公共交通、乗用車・商用車、低炭素交通のためのインフラストラクチャーなどの活動が並んでいる。この中からたとえば乗用車を見てみると、具体的な判定基準が示されている。乗用車の場合には、電気自動車、水素自動車、燃料電池車などの「排気管のない車」は無条件にOKだが、「排気管のある車」の場合にはCO2排出量が2025年までは50gCO2/km以下、2026年以降は0gCO2/kmでなければならないとされている。この条件に合致した車はタクソノミーに含まれる、つまりサステナブルな経済活動とみなされる、というわけである。

 では、50gCO2/kmとは、どのくらいの水準なのだろうか。参考までにトヨタ自動車が公表している車種別の「環境仕様」を見ると、プリウスの2015年発売モデルの燃費は39km/l、CO2排出量では60gCO2/kmとなっている。EUタクソノミーの基準の方が厳しいことがわかる。

 他の項目はどうだろうか。たとえば発電の項目を見ると、太陽光、風力、地熱、バイオマスなどの分類が示されているが、石油や石炭による発電という分類はない。つまり石油や石炭は最初からタクソノミーに含まれていない。現時点での具体的な判断基準は100gCO2/kWhだが、2050年にはゼロとなるよう、定期的に基準を引き上げていくという。そして、石炭火力発電について説明を付している。CCS(CO2回収・貯留)付きの石炭火力発電は短期的には100gCO2/kWhという基準を満たすかもしれないが、新設火力発電の耐用年数は40年以上あるのが普通なので、2050年にネットゼロにできることを示さない限り、サステナブルな経済活動とは認められないというのである。

 タクソノミー・テクニカルレポートは、このような基準を、鉄鋼、アルミニウム、セメントなどの素材生産や、畜産、植林、森林再生などの農林業など、広範な分野で示している。

3.タクソノミーの功罪

 それでは、このEUタクソノミーをどのように受け止めればよいのだろうか。これほどまで規則主義的に、細かくルールで規定するのがよいのかという疑問はある。技術の発展の方向を固定化し、かえって新たな発想の余地を狭めてしまう、という批判もあるだろう。ただし対外的な発信には注意が必要だ。そもそも日本から何かを言ったとしても、EU域内の議論に大きな影響を与えることは難しい。また国際標準化機構(ISO)の場で行われている類似の議論(注4)に関しても、単に自社や業界の利益を優先して基準を下げたいのだと受け取られるような発信にならないよう、気を付けたい。国際社会に対して「サステナビリティに後ろ向き」との印象を与えかねないからだ。

 冒頭で述べた通り、EUタクソノミーは「サステナブル金融推進のためのアクションプラン」という、大きな構想の中の一部である。見た目のインパクトが強いので、ついタクソノミーだけに焦点が当たりがちだが、欧州委員会がなぜこういう提案をしているのか、その意味を理解する必要があるだろう。

 アクションプランの全体像を見ると、機関投資家の開示義務を定め、ベンチマークを提供するなど、サステナブル金融の機運を高めようとする意図であることがわかる。ESGを考慮する市場の流れを強化していこうという、その趣旨は高く評価されるべきだろう。その上で欧州委員会としては、それをするなら、投資家のグリーンウォッシュは避けたい。加えて、実質的にCO2を下げる方向に資金を動員したい。そう考えると、基準が必要だと考えるのは、自然な流れだっただろう。タクソノミーはその帰結にすぎない。

 だが、いったん基準を作り始めると、規則主義的なものにならざるを得ない。何をもってサステナブルと考えるかの線引きをする必要があるからだ。

 おそらくその背後には、市場が必ずしも十分に信頼されていないという事情があるのではないか。たとえばグリーンボンドを例にとると、一部の先進的な投資家を除いて、多くの機関投資家は対象となるグリーンプロジェクトの内容をきちんと吟味して選んでいるわけではなく、グリーンボンドというラベルがついているかどうかしか見ていない、と言われることがある。もし本当にそうだとすれば、タクソノミーを使って外側から規制したくなる気持ちも理解できる。

 そこに弊害があることも事実だろう。まず、それによって投資家の判断はますますタクソノミーに依存してしまう。その結果、いつまでたっても、市場に、グリーンプロジェクトの内容をきちんと判断できる人材が育たないことになりかねない。また、ESG課題は多様であり、気候変動問題だけでなく、海洋プラスチック問題や抗生物質の耐性菌など、次々に新しい課題が出てくる。容易に解決策が見つからない課題や、コンセンサスが定まっていない課題も多い。おそらくサステナビリティに資する活動を網羅的に定義することは不可能なのではないか。本来、だからこそ市場のメカニズムを通して解を生み出していくサステナブル金融に価値があるのではないか。

 それゆえ、これまでESG投資関係者は、市場を広げることを優先してきた。市場が広がり、プレイヤーが増えることで判断の質が高まり、サステナブル金融の水準が上がっていくことを期待していたと言ってよいだろう。アクションプランもそれを後押ししようとしたはずだ。だが、タクソノミーには、発想を固定化しかねないという副作用のおそれがある。

 ではどうすればよいのか。王道は、市場の水準を上げることだろう。タクソノミーは欧州委員会から市場への問題提起である。企業と投資家が対話を通じて、タクソノミーの想定を超えるようなサステナビリティ活動を生み、市場が自律的に機能し得ることを示していく必要があるのではないか。ちょうど新種の生物を発見することで生物のタクソノミーが更新されていくように、サステナビリティのタクソノミーも市場の行動を通じて次々に書き換えていくのである。

 同時にタクソノミーは危機感の表れでもある。設定された基準値を高いと感じるとしたら、現状の経済活動は1.5℃目標を達成できるレベルにない。その強いメッセージとして受け取るべきではないだろうか。
 

図1 欧州委員会のアクションプランの概要

 

表1 タクソノミー・テクニカルレポートの概要

パートA 解説(Explanation)
 なぜタクソノミ-なのか、TEGの役割などの説明
P.10-22
パートB 方法論(Methodology)
 タクソノミ-開発の方法論についての説明
P.23-55
パートC 利用者と使い方(User and use case analysis)
 サステナブル金融を標榜する商品を提供する場合の義務
P.56-78
パートD 経済的インパクト(Economic Impact)
 タクソノミ-の経済的インパクト
P.79-103
パートE 次のステップ(Next Step) P.104-106
パートF スクリーニング基準(Technical Screening Criteria)
 気候変動の適応と緩和のそれぞれについて、業種別に、活動がサステナブルとされる基準を提示
P.107-414

出所:EU Technical Expert Group on Sustainable Finance (TEG) (2019), Taxonomy Technical Reportを基に筆者作成。
 

<注>

(1) Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on the establishment of a framework to facilitate sustainable investment

(2) Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on disclosures relating to sustainable investments and sustainability risks and amending Directive (EU)2016/2341

(3) Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council amending Regulation (EU)2016/1011 on low carbon benchmarks and positive carbon impact benchmarks

(4) 国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)でも、欧州委員会の動きを追いかけるように、タクソノミーに関連する検討が始まっている。ISOとは各国の標準化団体で構成される国際組織で、日本からはJIS規格を策定している日本産業標準調査会(JISC、旧日本工業標準調査会)が参加している。もともと工業製品等の国際規格を策定してきたが、1987年に品質マネジメントシステムのISO9000シリーズを策定し、1996年に環境マネジメントシステムのISO14000シリーズを公表し始めた頃から、さまざまな規格を作るようになった。ISOが国際規格を作るときには技術委員会(Technical Committee: TC)と呼ばれる委員会で検討を行う。2018年にイギリスの提案によってサステナブル金融の規格を開発するための新たなTCとしてTC322の設置が決まり、2019年3月に最初の会合が開かれた。一方、これまで環境マネジメントシステムの規格を開発してきたTC207の中に、アメリカの提案でグリーンボンドとタクソノミーのワーキンググループ、フランスの提案で気候変動ファイナンスのワーキンググループ、中国の提案でグリーンファイナンスのワーキンググループができている。このように同じような内容のTCやワーキンググループが乱立しており、混乱している印象は否めない。またISOに法的拘束力はないので、ISOがサステナブル金融等に関する国際規格を示すことに、実務上どの程度の意味があるのかは議論の分かれるところである。
 

【関連コラム】

QUICK ESG研究所「【RI特約記事】EUサステナブルファイナンスに関するテクニカル・エキスパートグループ(TEG)が3つの報告書を発表」2019年7月11日
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】EUサステナブル金融アクションプランの進捗状況」2019年3月14日
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】サステナブル金融とは何か - 欧州委員会アクションプランの意味すること」2018年4月27日
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】サステナブル金融への挑戦 - EUハイレベル専門家グループの提言」2018年2月28日
QUICK ESG研究所「欧州委員会の専門家グループによるサステナブル・ファイナンスの実現に向けた提言」2017年11月1日
 


QUICK ESG研究所 特別研究員 水口 剛