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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

欧州委員会のサステナブルファイナンスに関するテクニカル・エキスパートグループ(TEG)は、6月18日、EUタクソノミー、EUグリーンボンド基準、低炭素ベンチマークに関する3つの報告書を発表した。更に、EU非財務情報開示指令(NFRD)に関するガイドラインを更新し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の最終提言に沿った情報開示を行うよう求めた。

TEGは、EUにおけるサステナブルファイナンスの基準策定に向けて欧州委員会に助言することを目的とし、金融機関、評価機関など35名の専門家で構成される。TEGの発足当初、2019年6月末で活動を終える予定であったが、2019年末までの延長が決まった。

1.EUタクソノミー

1つめの報告書は、2050年までにGHG排出実質ゼロというEUのサステナビリティ目標達成に資する経済活動を分類している。414ページに及ぶこのレポートは、67の経済活動(※1)を気候変動の緩和策(climate change mitigation)と分類し、9の経済活動(※2)を気候変動の適応策(climate change adaptation)として分類した。また、金融市場の参加者やオブザーバー向けの26ページから成るユーザーガイドも含まれている。

タクソノミーで設定されている環境目標は下記の6つである:
(1) 気候変動の緩和
(2) 気候変動への適応
(3)  水および水資源の持続可能な使用と保護
(4)  サーキュラーエコノミーへの転換、廃棄物の防止とリサイクル
(5)  汚染防止と抑制
(6)  健全な生態系の保護

そしてタクソノミーの対象となる経済活動、つまりサステナブルと定義される経済活動は、下記条件を満たす必要がある:
(1) 上記6つの環境目標の少なくとも1つに大きく資する
(2)  他の5つの環境目標に重大な悪影響をもたらさない
(3) 最低限の社会的なセーフガード措置(ILO中核的労働基準)に準拠している
(4) これらの要件を満たしているか判断するテクニカル・スクリーニング基準を満たす

EUタクソノミーはサステナビリティの目標実現のために資金を誘導する指針となる。また、タクソノミーは段階的に策定される予定だ。今回のタクソノミーレポートでは、気候変動緩和と適応の観点から経済活動を分類したが、今後、他の環境目標への貢献をもとにした分類も進める。

タクソノミーに関する現行法案(欧州議会、欧州理事会、欧州委員会の三者協議で唯一合意が得られていない)は、UCITS(EUの法律に従って設立・運用されている投資ファンド)など一部の「グリーン」商品にタクソノミーに沿った情報開示を求めているが、タクソノミーへの準拠を義務化していない。

 

2.EUグリーンボンド基準(EU GBS)

2つめの報告書は、EUグリーンボンド基準の設定にあたり、常に進化するタクソノミーを採用すべきかどうか、整合性を取ることを含め提言している。

市場のベストプラクティスに基づき、EUグリーンボンド基準(EU GBS)には次の4つが構成要素として盛り込まれた。

(1) EUタクソノミーとの整合性
EUグリーンボンドによる調達資金は、下記条件を満たすプロジェクトに充当またはリファイナンスされるとした。
(a)EUタクソノミーの6つの環境目標のうち少なくとも1つに大きく貢献する
(b)その他の環境目標のいずれにも重大な悪影響をもたらさない
(c)最低限必要なセーフガード措置を講じている
(d)EUタクソノミーにおいてテクニカル・スクリーニングの対象となっている場合は、ファイナンスされたプロジェクトまたは経済活動はその基準を満たす必要がある。それらが直接適用されない場合は特別に対応する。

(2) 「グリーンボンド・フレームワーク」の策定
発行されたグリーンボンドがEU GBSに準拠していることの確認、発行体のグリーンボンド戦略が環境目標に整合していることの説明、グリーンボンドの調達資金の使途、発行プロセスおよびレポーティングの全ての重要項目についての詳細な説明を含むもの

(3) 調達資金の使途に関する報告(アロケーションレポート)と環境へのインパクトに関する報告(インパクトレポート)の義務化

(4) 第三者機関による「グリーンボンド・フレームワーク」と最終的なアロケーションレポートの検証の義務化

EU GBSは市場におけるベストプラクティスの実践を促す任意のガイドラインとなる見通しだが、中国、インド、その他アジア諸国のグリーンボンド国内基準と同様に、基準を満たさない債券はEU GBSとしての発行が認められないだろう。

 

3.気候ベンチマークとベンチマークのESG情報開示

3つめの報告書は、アセットクラスごとのベンチマーク(株式ベンチマーク、社債ベンチマーク、ソブリン債ベンチマーク、コモディティ・ベンチマーク、インフラストラクチャー・ベンチマーク、プライベートエクイティ、デッド・ベンチマーク、ヘッジファンド・ベンチマーク)にESG情報開示の最低基準を設定することを提言し、「気候移行ベンチマーク(Climate Transition Benchmark)」と「パリ協定整合ベンチマーク(Paris-Aligned Benchmark)」の最低基準についても提言を示した。本レポートが最終提言報告書となるはずだったが、今年4月の三者協議で欧州議会がより野心的なベンチマークの設定を打ち出したことで、TEGは当初示した基準の根本的な見直しを迫られた。その結果、TEGは全てを白紙に戻してやり直し、新たなマンデートに基づきCTBとPABの定義を提案するに至った。今後、8月2日まで市場参加者をはじめとするステークホルダーからのフィードバックを受け、2019年9月中に最終報告書の発行を予定している。

 

4.非財務情報開示指令(NFRD)の改訂

最後に、EU非財務情報開示指令(NFRD)に関する法的拘束力のないガイドラインが更新され、TCFDの提言内容が反映された。具体的には、11の最終提言全てが盛り込まれ、銀行、企業、保険会社および資産運用会社に気候関連情報の開示基準を遵守するよう求めている。欧州委員会の金融安定・金融サービス・資本市場同盟総局(FISMA)のヴァイスプレジデントを務めるValdis Dombrovskis(ヴァルディス・ドンブロウスキス)氏は、新ガイドラインを” “climate emergency”(欧州の多くの政府が使い始めた表現)の観点に照らして評価し、「今回の新ガイドラインは企業に対して、気候変動が自社ビジネスに及ぼすインパクトだけでなく、自らの事業活動が気候に及ぼすインパクトについても情報開示を促すものである。それにより投資家もより多くの情報に基づく投資判断が可能になる」と述べた。また、「TEGが発表した3つの報告書は、EUの政策策定やグリーンファイナンスをめぐる世界的な議論の高まりに大きく寄与するものであり、高く評価している」とコメントした。RIは今回のTEGの報告書についてより詳しい分析を行う予定である。

 

※1 「農業,林業」「製造業」「電気,ガス,蒸気及び空調供給業」「水供給,下水処理並びに廃棄物管理及び浄化活動」「運輸業」「情報通信業」「建設業」の7セクター。産業分類は、NACE(欧州共同体産業分類)に基づく。
※2 「農業,林業及び漁業」「電気,ガス,蒸気及び空調供給業」「水供給,下水処理並びに廃棄物管理及び浄化活動」「情報通信業」「金融・保険業」「専門・科学・技術サービス業」の6セクター。産業分類は、NACE(欧州共同体産業分類)に基づく。
 


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【参照】
Responsible Investor,   Sophie Robinson-Tillett「EU’s long-awaited draft ‘green taxonomy’ is released alongside low-carbon benchmarks and green bond recommendations」2019年6月18日(2019年7月11日情報取得)
Financial Stability, Financial Services and Capital Markets Union 「Technical expert group on sustainable finance (TEG)」 https://ec.europa.eu/info/publications/sustainable-finance-technical-expert-group_en#greenbond

 

【関連記事】
「【RI特約記事】欧州委員会、非財務情報開示ガイドラインを採択」 2017年7月25日 https://www.esg.quick.co.jp/news/652
「欧州委員会の専門家グループによるサステナブル・ファイナンスの実現に向けた提言」 2017年11月1日 https://www.esg.quick.co.jp/research/792
「【水口教授のESG通信】サステナブル金融への挑戦 - EUハイレベル専門家グループの提言」 2018年2月28日 https://www.esg.quick.co.jp/research/853
「【水口教授のESG通信】サステナブル金融とは何か - 欧州委員会アクションプランの意味すること」 2018年4月27日 https://www.esg.quick.co.jp/research/876
「【RI特約記事】EUサステナブル金融アクションプランの進捗状況」 2019年3月14日 https://www.esg.quick.co.jp/research/1003


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