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 ESG投資情報を発信するレスポンシブル・インベスターズ(RI: Responsible Investor)は6月11日と12日の2日間にわたり、ロンドン中心部で第12回目となる「RIヨーロッパ2019」を開催した。ESG投資に積極的な運用会社やインデックスプロバイダー、ESG評価機関、金融情報ベンダー、規制当局、NGOなど900人のESG関係者が一堂に会した。

 同イベントは、5つのパネルディスカッション、3つの基調講演、24のセッション(分科会)で構成され、サステナブル金融に関するEUアクションプラン、ESG評価やESG投資のためのベンチマーク、気候変動緩和策におけるタクソノミー(分類手法)、気候関連財務情報開示タクスフォース(TCFD)などの最新動向について、専門家による活発な議論がなされた。

  初日1回目のパネルディスカッションでは、EUアクションプランについて専門家が話し合った。英国の環境保護機関である環境庁の議長、エマ・ハワード・ボイド(Emma Howard Boyd)氏は、気候変動対策について「今後10年間は次の100年に影響を及ぼす。気候変動を緊急事態と認識して、期限までに到達すべきレベルを十分に満たすスピードで対応できているのか」などと指摘。同アクションプランを「素晴らしい計画」と称賛したうえで「我々全員が、資本政策などの取り組みが急務であることを知らせる役割を担っている」と述べ、気候変動対策について一段の行動が必要と訴えた。

 同ディスカッションに参加したスペインのエネルギー企業レプソルのルイス・カブラ(Luis Cabra)氏は、多様なエネルギー源を組み合わせて電源構成を最適化するエネルギーミックスについて、パリ協定に準拠し、現在の状況から持続可能性のあるものへと移行させると宣言。グリーンボンドなどに関しても明確な適用ルールの導入を歓迎し、同分野でも積極的に活動していくとの方針を示した。

 初日2回目のパネルディスカッションでは、ESG投資に関わるベンチマークの在り方や投資家の取るべき行動、透明性の確保などについて議論が行われた。パリ協定で掲げた脱炭素化社会の実現に向けて、エド・デイビー(Ed Davey)元英エネルギー・気候変動大臣は「会計・監査の規制を検討する必要があり、企業はその規制への対応を迫られる可能性がある」「投資家に対しては、パリ協定で掲げた目標とどう合致しているか情報開示を義務付けるようにすべきだ」などと述べた。他のパネラーからは「気候変動やESGの測定基準は情報の改善が進んでいる。データは十分に入手可能で、気候変動の移行リスクを回避するためドラスティックな資産配分の選択を(投資家に)促すことに障害はない」(MSCI)といった意見が出ていた。

 気候変動緩和策によるタクソノミーに関するパネル(Getting Technical with the Green Taxonomy)では、「EUのサステナブル金融のタクソノミーは、政策決定者がグリーンエコノミーの条件を構築するための貴重なツールとなる」(OECD)との声が聞かれた。一方、オックスフォード大学のディレクター、ベン・カルデコット(Ben Caldecott)氏は「タクソノミーに対して多くの批判が市場から聞かれる」と指摘。「タクソノミーは国ごとの環境の違いなどを考慮に入れておらず、それが障害になる可能性がある」と述べたうえで、タクソノミーをより機能させるため、独立した科学的アドバイスを得ることが必要との考えを示した。

 会場を3つに分けたセッション(分科会)では、各パネリストが各種専門分野について熱い議論を交わした。

 ESG情報を巡っては、パネリストから「ESGデータはいま変革期を迎えている。このところの質と量の両データの増加は(ESG投資を行う上で)本当にエキサイティングだ」(ブルームバーグ)との声があがった。こうした状況を踏まえ、「投資家は利用可能なESGデータを調査するための時間と努力を惜しまないことが必要。企業の業績を向上させるために企業と密接に関わることも求められる。困難な仕事だが、正しい方向に向かうために必要な努力だ」(Vigeo Eiris)といった声が聞かれた。 

 TCFDに関しては課題の1つとして、現時点でシナリオ分析と財務上の影響のつながりが不十分であることを指摘する声があった。気候変動情報を提供するフォー・トゥエンティ・セブン(Four Twenty Seven)社のエミリー・マッツァクラッティ(Emilie Mazzacurati)氏は「気候変動リスクは、セクター、地域、時間枠などシナリオ分析への異なるアプローチを必要としている」と指摘。こうした課題を受け、同社は金融機関を支援するための新しいデータセットやツールの開発に取り組んでいると強調した。

 ESG投資手法のトレンドについても議論された。武器やたばこなど特定の業種や企業を投資対象から除外する「ネガティブ・スクリーン」が主流だったが、最近では財務情報とESG情報を総合的に評価する「ESGインテグレーション」を選好する動きが広がっており、アセットオーナーやアセットマネジャーの投資事例などについて意見が交わされた。

 ノルディア・アセット・マネジメントのヒルデ・ジェンセン(Hilde Jenssen)氏は、アクティブ・ストックの投資事例にESG要因がどう影響したかという質問に対し、米フェイスブックの事例を挙げた。ノルディアは個人情報の不正流用を巡り、フェイスブック株の売却を2018年6月に決定した。同不正流用の発覚後、ノルディアはフェイスブックに不正流用に関する質問メールを送ったが返答がなかったという。当時のフェイスブックの対応に加え、2018年5月に欧州で導入された一般データ保護規制(GDPR: General Data Protection Regulation)を受け、「先行きの規制リスクに対する不透明感の大きさを考慮すると、フェイスブック株は『かなり割高』と判断し、売却を決定した」などと経緯を説明した。

 こうした企業の先行き投資判断について、企業がESG要因のリスクに対して「サステナビリティ・ポリシーに準じて企業が明確な対応を進めているか確認する上でさらなる情報の取得が欠かせない」などと述べた。

 投資判断プロセスにおいては、ESG要因の調査・分析、機械学習やデータサイエンティストを活用して社内でレーティングし、銘柄を選択。加えて、フェイスブックの投資判断でも決め手のひとつとなった、対話を通じて投資(候補)先企業にESGへの配慮を迫るエンゲージメント・プロセスを重視していると話した。

 初日のセッション終了後にはカクテルレセプション、その後に夕食会も催され、世界各国から集まった参加者にとって有意義な情報交換の場となった。


【参照】
・「RIヨーロッパ2019」ウェブサイト https://www.eiseverywhere.com/ehome/rieurope2019/summary/
パネル、基調講演、セッション(分科会)の一覧

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QUICK ESG研究所 『「RI ヨーロッパ 2017」参加報告』 2017年6月13日


QUICK ロンドン支店 荒木 朋