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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 温暖化と抗生物質の過剰使用が世界的に広がれば、2,300億ドル規模の市場を持つ水産養殖セクターを揺るがしかねない。資産総額12兆ドルを擁する、畜産動物の問題に特化した投資家イニシアチブ「FAIRR(Farm Animal Investment Risk & Return)」は、投資家は水産養殖セクターのESGリスクを見過ごしていると最新の報告書「Shallow returns? ESG risks and opportunities in aquaculture」で警告した。

 水産養殖セクターの成長に伴い、今や我々が口にする魚は天然魚より養殖魚の方が多い。同セクターは、過去5年の間に年平均6%弱で成長し、400%ものリターンを上げている。だがFAIRRは、その成長を支えるのはESGリスクに満ちた不透明な集約型養殖であると指摘した。アビバ、CANDRIAM、DNBアセットマネジメント、ノルウェー保険最大手KLPなどの投資家がこの主張に賛同している。

 「ほとんどの投資家は、水産養殖が気候変動の原因の1つであることや、養殖業が海水温の上昇といった気候変動の脅威にさらされていることを認識していない。投資家は、水産養殖セクターが抱えるサステナビリティ関連リスクを十分に把握した上で投資を行うべきだ」と、FAIRRのディレクターであるマリア・レッティーニ(Maria Lettini)氏は述べている。水産養殖の世界的な拠点である東南アジアでは海水温の上昇と海洋の酸性化が進んでおり、2050年までに養殖魚の生産量が最大30%減少する可能性がある。また、養殖業者が抗生物質の過剰使用の主犯格となっている地域もある。例えば、チリのサーモン養殖における抗生物質の使用は養鶏の10倍近くに上る。そのため、水産養殖セクターは将来的に抗生物質耐性への対応を迫られる可能性が高い。

 さらに、養殖魚の餌となる天然魚が急減するなか、世界の魚食ニーズは2050年までに倍増すると予想されており、水産養殖セクターがこうしたニーズに持続的に対応することは難しくなるとみられる。レッティーニ氏は、「以前は、養殖魚によって天然魚の減少が食い止められると考えていたが、現在は養殖魚の餌にするために天然魚を捕獲するという深刻な問題が表面化している」と指摘する。さらに、フナムシなどの寄生虫から病気が発生するリスクもあり、対策費用として年間推定60億ドルかかるとみられるほか、水産養殖が広範な環境に排出する廃水の抑制を求められる可能性もある。折しも、世界最大のサーモン養殖業者モウイ(旧マリンハーベスト)は、化学薬品使用について虚偽報告をした疑いで調査を受けている。FAIRRはモウイ社の事例について水産養殖セクターにおけるガバナンスと透明性の欠如を示すほんの1例にすぎないと断じている。

 米国では先月、ノルウェーの複数の主要サーモン養殖業者が価格協定を結んでいるとして集団訴訟が起こされた。FAIRRは問題解決に向けたマネジメントの強化を促し、抗生物質の代わりにプロバイオティクスを使用するほか、バクテリア、藻類、昆虫など魚粉に代わる飼料の使用を増やすよう提言している。

 また、セクター内でイノベーションを進めることもリスク管理の強化に役立つと報告書は指摘している。Sophie’s Kitchen、Good Catch Foods、Quorn Foodsなどのスタートアップ企業は、植物由来の原料を使った疑似餌を製造している。ここ数か月、「ブルーエコノミー」と呼ばれる分野への投資家の関心が広がっている。2018年10月には、セーシェル共和国政府が世界で初めて1,500万ドル相当のブルーボンド国債を発行した。調達資金は海洋保全および漁業開発プロジェクトに投入される予定で、Calvert Impact Capital、Nuveen、プルデンシャル・フィナンシャルが同国債を購入した。その直後の2019年1月に、北欧投資銀行(NIB)がバルト諸国のソブリン・ブルー・ボンドを発行した(https://sebgroup.com/press/news/seb-participating-in-issuance-of-blue-bond-for-the-baltic-sea)。セーシェル共和国によるブルーボンド発行を支援したのは米国に拠点を置くNGO「The Nature Conservancy(TNC)」で、今後5年以内に20か国で同様の国債発行を通じて総額30億ドルの資金を調達するという野心的な目標を掲げている。これだけの資金があれば、広さ400万㎢の海洋に存在する資源の3分の1の保全が可能になる。TNCは先月Encourage Capitalと共同で、持続可能な水産養殖業がもたらす投資機会に関するインパクト投資家向けガイドラインをまとめた。その中で、責任ある水産養殖は、天然魚の乱獲や家畜生産に代わるエコフレンドリーな事業であり、インパクト投資家に魅力的な投資機会を提供すると説明している。TNCは、沿岸生態系に依存する業界がその保全費用を負担する「エコシステム・インシュアランス」にも取り組んでいる。既に、メキシコのユカタン半島に旅行者税を原資とするトラストファンドを設立し、岩礁の保守管理費用に充てている。

 RIは欧州委員会、世界自然保護基金(WWF)、国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP FI)と連携してブルーエコノミーに関する投資家向けリサーチプロジェクトを立ち上げ、7月8日にこのテーマでウェビナーを開催する予定である。


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【参照】
Responsible Investor,  Ella Milburn 「Investors neglecting to manage risks of $230bn fish farming sector – FAIRR」2019年6月6日(2019年6月28日情報取得)

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QUICK ESG研究所「【水口教授のヨーロッパ通信】工場的畜産のリスク - 動物愛護からESG課題へ」2016年5月23日 https://www.esg.quick.co.jp/research/11
QUICK ESG研究所「【水口教授のESG通信】ポスト抗生物質時代の黙示録 - 欧州投資家が注目する食品問題」2018年7月31日 https://www.esg.quick.co.jp/research/911
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】畜産動物の問題に特化する投資家イニシアチブ(FAIRR)が抗菌剤に関するEU新規制を歓迎」2018年11月19日 https://www.esg.quick.co.jp/research/948 
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】企業による畜産動物福祉に関する取り組みを加速させるために投資家ができること」2019年3月28日 https://www.esg.quick.co.jp/research/1008


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