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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、5月31日に「2019 Status Report」を公表した。報告書は、企業のシナリオ分析の実施を促すため、「事業に即した利用しやすいシナリオの策定を目指す」ことを謳っている。また、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)など、国際機関による気候関連シナリオは具体性に乏しく、多くの企業が事業に即した“標準”シナリオを求めている、としている。

 報告書は2017年6月の最終提言に基づく情報開示の進捗状況を調査。今回は1,110社を超える企業のレポート(財務報告書、年次報告書、統合報告書、サステナビリティ報告書)を対象に、最終提言で定めた「中核的要素」と「推奨される開示内容」について、AIを用いて調査したところ2018年に比べ改善が認められた。特に気候関連リスクの識別・評価・管理に関し、短・中・長期のリスク及び機会(「推奨される開示内容」a)と、リスク及び機会の事業・経営戦略・財務計画への影響(「推奨される開示内容」b)の開示例が増えた。一方、2℃以下シナリオを含む複数の気候関連シナリオを想定した組織のレジリエンス(「推奨される開示内容」c)は、前回同様、最も開示が進んでいない。(参照:p.7-8、「2.Key takeaways」

 TCFDは同報告書で、2つの新たな取り組みを進める意向を示した。1つは「気候関連のシナリオ分析の導入および実施方法に関する追加的なガイダンス(Additional process guidance around how to introduce and conduct climate-related scenario analysis)」を示すことだ。もう1つは「事業に即した利用しやすいシナリオ(business-relevant and accessible climate-related scenario)」の策定である。TCFDは、IEAやIPCCが策定した国際的な気候シナリオは主に政策策定や調査を目的としたもので、個々の企業が事業内容に即したシナリオ分析をするには適していないと指摘する。本報告書の調査で「自社の戦略のレジリエンスを評価するためにシナリオ分析を使用している」と回答した企業も、多くは「事業計画や情報開示における、気候関連のシナリオ分析の適用はまだ初期の段階で、本格導入には至っていない」と報告している。

 企業の事業計画や情報開示への適用を念頭に置いた、ビジネス志向のシナリオを策定するには、気候変動が及ぼす影響を地域別に把握するほか、業績を左右する気候変動関連の要因、業界毎の不確実な気候変動関連の主な要因の特定が必要とされる。多くの投資家は、社内のシナリオ分析モデルの開発を始めている。スウェーデン最大の年金基金Alectaはカーボンプライシングの予測に基づきシナリオ分析の手法を開発した。デンマークの公的年金ATPも独自のシナリオ分析ツールの開発を進めている。

 国連環境計画金融イニシアチブ(UNEP FI)が2019年5月に20の機関投資家と協働で発表した報告書「Changing Course」では、シナリオ分析で使用できるメソドロジーを紹介し、シナリオ策定のガイダンスを提供した。TCFDの「2019 Status Report」も、「シナリオ分析に役立つ、事業に即した詳細なデータとツールの不足」と「ビジネス志向のシナリオ策定と、気候関連のシナリオをビジネス上のニーズに結び付けることの難しさ」を強調している。また、「標準的な」シナリオの策定を求める声もある。TCFDは、こうしたシナリオは「機密性の高い企業情報を開示しなくてはならないという企業の不安を減らし、シナリオ分析にかかるコストを軽減し、情報開示の透明性および比較可能性が向上する可能性がある」と期待を示す一方、標準的なシナリオは柔軟性に欠けるため、各企業が自社の業績に影響を与える気候変動関連要因を特定しにくくなる可能性があると懸念を示す。

 次回の進捗報告書は、2020年9月の発表を予定している。

 一方、IEAが今週3日間にわたり開催した、世界のエネルギーモデル分析コミュニティ向けイベント「International Energy Workshop」には「気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)」のPeter Damgaard Jensen会長が出席した。



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【参照】

Responsible Investor,  Daniel Brooksbank 「TCFD considers work on standardised, “business-relevant” climate scenarios」2019年6月5日(2019年6月25日情報取得)

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QUICK ESG研究所 「【水口教授のESG通信】ESG情報開示はどこへ向かうのか」 2018年2月1日 https://www.esg.quick.co.jp/research/844 

QUICK ESG研究所 「【RI特約記事】AP2(スウェーデン)がTCFDの最終提言に則ったシナリオ分析を採用」 2018年3月6日 https://www.esg.quick.co.jp/research/856

QUICK ESG研究所 「【RI特約記事】IOSCOがTCFD提言に沿ったESG情報の開示を要請」 2019年2月6日 https://www.esg.quick.co.jp/research/989


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