no_action
RI_logo

本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 企業が、気候変動対策を求める株主提案を株主総会議案から外すため、米証券取引委員会(以下、SEC)の「ノーアクションレター制度」を利用する例が目立つ。エクソンモービルはこの制度を使うことで、英国国教会寄付基金とニューヨーク州退職年金基金による気候変動に関する株主提案を、2019年の総会議案から除外できた。

 この「ノーアクションレター制度」という不透明な仕組みは、企業が投資家の圧力に対抗する手段として一躍注目を浴びた。
事態が一段落したことを受け、RIは株主提案の支持者を困惑させるこの制度について検証する。

 社会的責任投資を行うTrillium Asset Managementで株主行動担当ディレクターを務めるジョナス・クロン(Jonas Kron)氏は、エクソンモービルへの株主提案をめぐるSECの決定は「強く懸念される」とし、「我々の運用資産総額は9兆ドルあり、市場のかなりの部分の意見を代弁しているといえる。この株主提案への投票を希望していたが、SECのスタッフは『どの議案を議決にかけるべきかを決めるのは我々だ』といって否定した」と述べた。さらに同氏は、問題は、SECが今回のような「可決される可能性の低い」提案を株主総会の議題から除外したことで「今後の提案内容はさらにエスカレートせざるを得ない」ことだと指摘する。「エクソンの株主総会での投資家への質問は『同社はGHG排出削減目標を設定するべきか否か』という内容だったかもしれないが、取締役の改選を問う議決に突然変わってしまった」とも述べた。

 SECは規則14a-8に基づき、時価2,000ドル相当以上の株式を1年以上保有している株主に対して、毎年1件の株主提案(一般に法的拘束力はない)を提出する権利を認めている。だが、会社側はSECに「ノーアクションレター」を求めることで、株主提案を議題に含むことを阻止できる(そうする場合が多い)。これは、会社側がその提案を株主総会の議題から除外しても、SECはそれについて追及しない―つまりそれを法執行の対象としない(「ノーアクション」)―ことを確約するものだ。

だが、ガバナンスを重視する米投資家連合「Shareholder Rights Group」のディレクター、サンフォード・ルイス(Sanford Lewis)氏は、SECはノーアクションレター制度に対するスタンスを変更したか否か「巧妙にごまかしている」と述べ、「実際には制度の適否を運用で判断しており、実質的な改正だ。それでも制度改正ではないように装うのがSECの常とう手段だ」と指摘する。

 また、2017年11月にSECスタッフが新たなガイダンスを公表して以降、GHG排出量削減目標の設定を求める株主提案をめぐり、SECが規則14a-8(i)(7)で定めるマイクロマネジメントの解釈を変更したことに多くの投資家は気づいている。ニューヨーク州会計監査局のディレクターMillicent Budhai氏は、SECの解釈が変わりはじめたと認識したのは、2018年のEOG Resourcesに対するGHG排出量削減目標の設定の株主提案からだと、RIのウェビナーで述べている。

 Shareholders Rights Groupによると、SECが本件で下した判断はSECの「長年の慣例」に反するものだった。それまでは、「石油・ガス関連企業を含め、同様の株主提案を株主総会の議題からマイクロマネジメント事項と見なすことで除外できる」もなかった。

 Budhai氏も「ニューヨーク州退職年金基金は2000年代半ば以降、同様の株主提案を繰り返し提出してきた」と指摘し、SECが唐突にその提案内容を「マイクロマネジメント事項」と判断したことに困惑を隠せないと、Shareholders Rights Groupに同意する。

 「Interfaith Centre on Corporate Responsibility」のジョシュ・ジィナー(Josh Zinner )CEOは「ノーアクションレター」は株主権利を「阻害」する幅広い手段の1つと捉えるべきだと述べている。その背後で、米商工会議所、米国ビジネスラウンドテーブル、米製造業者協会といった影響力の強いロビー団体がSECに規則改定を促す圧力をかけているとしている。つまり、一部の企業に対してGHG排出量削減目標を求める株主提案を提出することは「極めて困難」になった、とルイス氏は指摘する。

 「提案内容が具体的すぎる場合はマイクロマネジメントと見なされ、内容が曖昧すぎると会社側は(SEC規則14a-8(i) (10)に基づき)事実上既に実施していると主張するだろう。」ルイス氏は、ノーアクションレター制度は「非公式な規則」ではあるが、瞬く間に「極めて多くの物議をかもした」と説明している。同氏によると、11月に多数の株主提案が提出されるため、通常は12月から2月にかけてSECにノーアクションレターの発行を求めるケースが増える。会社側がSECにノーアクションレターの発行を依頼してから30日間に株主提案の提出者はその件でSECと議論を交わし、最終的にSECが規則14a-8に違反しているかどうかの判断を下す。SECの判断に法的拘束力はないものの、当局の確固たる見解と見なされる傾向がある。

 SECに提案を退けられた投資家に打つ手はあるのだろうか。1つの選択肢は、不服を申し立てることである。その実例として、今年デボンエナジー社に提出されたGHG排出量削減を求める株主提案が「マイクロマネジメント事項」と見なされて議案から除外されたケースが挙げられる。提案支持者の不服申し立てに対して、SECは「我々の見解を見直す根拠はない」として取り合わなかった。弁護士として申し立てを支援したルイス氏によると、これは典型的なケースである。申し立ての相手は事実上、当初の判断を下した当事者であるため、申し立てが認められることはほとんどないからだ。

 株主の申し立てが「極めて重要な事項」に関係している場合や、懸案が前例のないまたは極めて複雑な事項である場合、SECスタッフはSECにノーアクションレターの中身を審査するよう依頼することもできる。デボンエナジーのケースでは、そうした措置はとられなかった。では申し立てが認められなかった場合、ほかに不満を訴える手段が株主に残されているのだろうか。今年、JBハント・トランスポート・サービシズに対してGHG排出量の削減を求める株主提案を提出したTrillium Asset Managementは、会社側がその提案を除外したことを受け、SECを通じて「委任状勧誘規則の適用除外」を申請した。そして全ての株主に対し、同社のコーポレートガバナンス/指名委員会のメンバーを選任する投票を行わないよう求めた。今年4月の株主総会で、取締役は全員再選された。

 Trillium Asset Managementのクロン氏は、GHG排出量の削減目標の設定を求める同様の株主提案でありながら、なぜ米小売り大手ロス・ストアーズに対する提案は認められ、Jハントへの提案は認められなかったのか疑問を投げかけている。昨年は同様の株主提案が株主の21%から支持を得ており、JBハントもこれを議題から除外しなかった。おそらく企業側もSECによる見解の変化を察知し、それに便乗しようとしているのだろう。クロン氏は、「SECがなぜ案件ごとに対応に差をつけているのか全くわからない。SECは、市場が適正に機能するよう市場全体のルールを制定すべきである」と指摘する。ニューヨーク州会計監査局は昨年、米航空部品メーカーのトランスダイム・グループに提出した株主提案に対して会社側がSECにノーアクションレターの発行を要請したことを受け、制度自体の適用を避けるべく同社を提訴した。

 会社側はSECへの要請を取り下げることで事態の収拾を図り、裁判を回避した。2018年3月の株主総会ではGHG削減を求める株主提案は34.9%の株主から支持を得た。ルイス氏は、こうした係争にかかるコストは「ごく少額」から「極めて高額」まで幅広いと見解を示す。同氏は、なぜ企業は法的拘束力のない株主提案を懸命に回避しようとするのかという問いに対して、「株主提案は企業の行動に抑制と均衡をもたらす最後の砦というべきもので、企業はこれさえ覆してしまえば、今までどおり業務を継続できる。自分達の知り得ない長期的な影響など、全く気にも留めないのだ」と答えている。なお、RIはSECに本記事に対するコメントを求めたが、回答は得られていない。


RI_logo
 

【参照】
Responsible Investor,  Paul Verney 「The SEC’s ‘no-action’ process: An opaque mechanism to block investor action on climate change」2019年5月31日(2019年6月17日情報取得)


QUICK ESG研究所