RIロゴ

本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

 2015年7月、フランスで「エネルギー転換法173条」が成立し、年次報告書における気候変動関連情報の開示が制度化された。上場企業、銀行および信用提供機関、機関投資家(保険会社、年金またはミューチュアルファンド、政府系ファンド)が対象で、資産残高が5億ユーロを超える大手機関投資家に対し、リスク管理や投資判断においてESG基準をどう考慮しているか、また気候変動による物理的な影響と低炭素社会への移行がもたらす影響をどう考慮しているか開示を求めている。

 気候変動関連の調査・研究を行う米国のFour Twenty Seven社は、フランスの金融機関が173条にいかに対応しているか、各社の情報開示が前年に比べてどれほど進展したかを明らかにするため、2018年に発行されたアニュアルレポート(対象は2017年のポートフォリオ)の分析を実施した。分析対象はフランスの公的年金基金および運用残高が20億ユーロを超える民間の保険会社を含む49のアセットオーナーで、その運用資産総額は5兆5,000億ユーロに上る。

 調査結果によると、49のアセットオーナーのうち、年次報告書で173条の規定に基づく情報開示を確認できたのは36機関だった。内訳は、保険会社25社、年金基金5機関、アセットマネジャー2社、銀行4行であった。なお、173条は「コンプライ・オア・エクスプレイン」原則に基づき、気候変動が重大なリスクではないと説明できる場合には、173条に則ったレポートを公表する必要はなく、監督当局に提出するだけでよいとしている。そのため、気候変動に関するレポートを開示していない機関もある。

 金融機関のうち全体の47%に当たる23機関で前年の内容を改善、または包括的なレポートに改めるなど改善がみられた一方、前年に比べて内容の改善が図られていない報告は4機関(全体の8%)で、うち1機関は2017年のレポートは確認できたが、2018年発行のレポートでは確認できなかった。

 では、各機関はどのような情報を開示したのか。12機関(全体の25%)は、二酸化炭素排出量またはエネルギー転換リスクへのエクスポージャーを取り上げるにとどめ、物理的リスクに関する情報は開示していない。また、全体の10%に当たる機関が物理的リスクを検討課題の一つに挙げながらも、十分な分析結果を提供できない状況にある(物理的リスクに関する情報開示を阻む要因として、多くの機関が評価ツールおよびモデルの不足を挙げている)。物理的リスクへのエクスポージャーを分析したのは11機関(全体の23%)で、前年の7機関から大きく進歩した。気候変動に伴う物理的リスクを評価した機関のうち9機関は、ボトムアップ分析によって少なくとも一部のポートフォリオのリスクエクスポージャーを資産ごとに評価している。一方、2機関はトップダウン方式によってマルチアセットクラスの物理的リスクをセクターごとに分析している。 8機関は、リスクの評価手法を開発中とした。これらの機関は、運用ポートフォリオのサステナビリティに関する幅広い分析の一環として、他の多くの基準とともに気候変動に伴う物理的リスクを企業レベルで調査しているが、まだ完了していないことを認めている。

 調査対象とした3機関(アクサ、ゼネラリ・フランス、コムジェスト)による情報開示内容の概要と前年からの改善項目は以下のとおりである。

<アクサ>

 フランスを代表するグローバル保険会社の1つで、運用資産残高は9,050億ユーロである。2018年の情報開示の内容は2017年とほぼ変わらず、173条に則りボトムアップアプローチと社内分析に基づいているが、調査の精度を高め対象範囲も広げた。分析対象とした資産は、商業用不動産、インフラ、不動産も含めて計340億ドル相当と、前年の150億ドルから大幅に増えた。不動産は、世界14か国での投資のうち前年の41%を大きく上回る88%を分析対象とした。

 同社は前年同様、欧州の自然災害のほか、個々の資産の地理的位置や建築資材の破壊率などの要素も考慮して分析している。また2018年は、173条で定められた従来の開示内容(ESG基準に関する自社の原則とコミットメント)に加え、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく情報開示も初めて行った。前年と異なり、暴風による経済的損害の分析だけでなく、洪水が自社のポートフォリオで保有するインフラにもたらす潜在的な影響についても分析している。

 同社はバリュー・アット・リスク(VaR)手法を使って、自社の株式および債券ポートフォリオ内の投資先企業ごとに、気候変動によって発生する可能性のあるコストと収入を評価しているが、それは主にエネルギー転換がもたらすリスクに焦点を当てたものである。

<ゼネラリ・フランス> 

保険大手ゼネラリグループのフランス子会社で、5,210億ユーロ相当の資産を運用している。同社も気候変動が自社の保有不動産に及ぼす可能性のある物理的リスクについて、2017年より詳細な分析結果を開示している。

 2017年はパリ市内の不動産のみを分析していたが、2018年は対象を同社が保有する全ての不動産に広げた。これにより分析対象資産の数は112から268に増えた。89%がパリ市内、7%がパリ市外の国内、4%が海外である。自然災害の調査項目は、従来の洪水と干ばつに地震と雪崩も追加し、幅広い分野の物理的リスクを分析した。対象資産のリスクを「高い」から「極めて低い」までのランクで評価した結果、全体の5.4%に当たる18の物件は洪水リスクが「高い」と評価された。全体の2%に当たる11の建造物は干ばつリスクが「中程度」と評価され、そのうちの4つがパリ近郊の同じ建築地域に集中していることがわかった、と開示している。

<コムジェスト>

 グローバルに展開するアセットマネジメントグループで、257億ユーロ相当の資産を運用している。同社は運用残高が最も大きい3つのファンド(グローバル、欧州および新興市場)について物理的リスクに関する情報を開示している。Four Twenty Seven社は、物理的リスクを ①業務リスク ②市場リスク ③サプライチェーンリスク の3つに分類した。また、各ポートフォリオのリスクスコアを、関連するベンチマーク指標と比較し、保有資産の相対的なリスクエクスポージャーを特定している。こうした資産レベルの評価には、暴風雨、干ばつ、豪雨、洪水、海面上昇、熱ストレスに対するエクスポージャーも含まれる。分析の結果、ポートフォリオ内のセクターと保有資産の地理的分布に基づいて、気候変動がもたらす物理的リスクへのリスクエクスポージャーを反映した総合スコアを算出している。地域別にみて、同社ポートフォリオの中で気候変動に伴う物理的リスクへのエクスポージャーが最も大きいのはアジア企業であった。そのうち半数は日本と中国に拠点を置いており、台風や豪雨による影響を受けやすい。その他の投資先は米国や欧州に拠点があるため、こうしたリスクへのエクスポージャーは比較的小さい。また、海面上昇に影響を受けやすい地域への投資は15%にとどまり、関連リスクも比較的低い、と開示している。

 

 全体として2018年は、気候変動に伴う物理的リスクに関し、フランス金融機関の情報開示に進展がみられた。投資家にとって、物理的リスクに関する情報開示は難しい課題である。多くの機関投資家は自社のポートフォリオのリスクを評価する上で必要なツール、モデルおよびデータを十分備えておらず、物理的リスクよりエネルギー転換リスクへの対応を優先する傾向にある。物理的リスクの情報開示で先行している機関は、資産レベルのリスクエクスポージャーを開示しており、いかにVaRやシナリオ分析を使って物理的リスクを評価するか検討し始めている。2019年は新たにフランス銀行(中央銀行)をはじめとする複数の機関投資家が情報開示を開始した。

 TCFDの提言に基づく情報開示を導入する動きや中央銀行および監督当局からの圧力は続いており、異常気象がもたらす損害も拡大している。173条の成立から3年目となる2019年の公表でも、気候変動に伴う物理的リスクに関する情報開示はさらに進むと考えられる。

 

For further questions, please contact Frank Freitas (ffreitas@427mt.com)


RIロゴ

【参照】
Responsible Investor, Roman Dhulst and Natalie Ambrosio 「Article 173: Lessons learned from 2018 climate risk disclosures in France」2019年5月2日 (2019年5月22日情報取得)


QUICK ESG研究所