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本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳したものです。

 現在、プロキシ―・アクセスに関する規定を付属定款で定める米国企業は540社を超える。プロキシ―・アクセスとは、株主が特定の取締役候補者の選任案を株主総会に提案することができる権利のことであり、通常、発行済株式の3%以上を3年間以上保有している株主のみに認められている。

 S&P500種指数構成銘柄では、プロキシ―・アクセスを付属定款に定める企業が2014年にはわずか6社であった、2019年現在その割合は60%を超える。プロキシ―・アクセスの導入には、ニューヨーク市会計監査官のスコット・ストリンガー(Scott Stringer)氏が率いるガバナンス部門が立ち上げた「ボードルーム・アカウンタビリティ・プロジェクト」による影響が大きい。
 ストリンガー氏の下でガバナンスおよび責任投資部門の副監査官を務めるマイケル・ガーランド(Michael Garland)氏はレスポンシブル・インベスターに宛てたメールで「2019年は、これまでエンゲージメントによる対話を拒否し続けていたNetflix、Hospitalities Properties TrustおよびSenior Housing Properties Trustが付属定款でプロキシ―・アクセスを認める規定を設けるなど、大きな成果が得られた」と述べた。また、このかつてないほど急速なガバナンス改革は、巨大ミューチュアルファンドによる支持や、ニューヨーク市会計監査局がカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)と協働で推進したプロキシ―・アクセス導入キャンペーンの効果でもある。

 会計監査局のレポートによると、2018年度、プロキシ―・アクセスを認めることを求める株主提案を受けた企業には、過剰な役員報酬を支払っている企業、取締役会メンバーに性別や人種の多様性がほとんど、または全く見られない企業、重大な気候変動関連リスクを抱えている企業や、温室効果ガス排出量が多いにもかかわらずCDPを通じて排出量を開示していない業界が含まれていた。
 結果、Citrix Systems、Humana、IBM、Monster Beverage Corporationなど35社が付属定款でプロキシ―・アクセスを認める規定を設けた。また、プロキシ―・アクセスに関わる株主提案のうち、決議が成立した割合は過去最高の88%に達し、2017年の72%から大きく上昇した。株主総会の決議で株主提案が否決された企業は、例外なく議決権の過半数が特定の株主の支配下にあった。

 株主の取締役選任について、何らかの成果があったのだろうか。米機関投資家評議会(The Council of Institutional Investors、以下CII)は今年初め、実際にプロキシ―・アクセスを行使している人物として、スティーブン・コルマー(Steven Colmar )氏を挙げている。コルマー氏は、400近くのカイロ整体クリニックを運営する小規模企業The Joint Corpの株主である。同氏は2017年3月に同社の取締役を辞任し、2018年に株主提案でプロキシ―・アクセスの規定を付属定款に設けるよう求めた。全ての株主がこの提案に賛成したことを受け、取締役会はプロキシ―・アクセスの導入を決めた。これに伴い、2019年の株主総会ではグレンヒル・キャピタル・マネジメントのプリンシパルを務めるグレン・クレブリン(Glenn Krevlin)氏を取締役候補者に選任する案が提出された。

 CIIによると、米国でプロキシ―・アクセスが実際に行使されたケースは、The Joint Corpが2件目である。2016年にGAMCOアセットマネジメントが同権利の行使を初めて試みたが、結局は株主提案が撤回され実現しなかった。CIIの副会長であるエイミー・ボーリス(Amy Borrus)氏は、「The Joint Corpを除き、現時点でプロキシ―・アクセスの行使を検討している個人およびファンドは見当たらない」と述べる。

 実例がないことについては、多くの株主やキャンペーンの支持者は懸念していない。株主による取締役候補者の選任が可能であるという事実だけでも取締役会にとっては圧力となり、責任感や対応力の向上につながるという考えがあるからだ。では、プロキシ―・アクセスの導入は、取締役会の責任感と対応力の向上に結びついているのだろうか。CIIの調査によると、運用資産残高が上位20位内の大手公的年金基金でさえ、(発行済み株式の3%以上という)株式保有要件を満たしていない。つまり、それら基金は実際には行動を起こせないということだ。一方、米国の4大ミューチュアルファンドはいずれもプロキシ―・アクセスを行使するための要件を問題なく満たしているが、権利を行使する可能性が最も低い投資家でもある(RIは今回取材を試みたものの、コメントを得ることはできなかった)。

 プロキシ―・アクセスを導入したからといって、取締役会の責任感や対応力が向上したと一概には言えない。例えば、エクソンモービルをはじめとした「Climate Action 100+」でエンゲージメント対象となっている複数の企業の取締役会は、今も堂々と株主提案を排除している。また、投資家が協働で企業の取締役会に対し、気候変動への責任の追及や経済全体の脱炭素化に取組む「Climate Majority Project」がターゲットとする、電力会社の取締役会の動きも引き続き注視していく必要があろう。だが、これら企業の取締役会が警戒するのは不信任投票であり、プロキシ―・アクセス(取締役選任議案)自体ではない。

 投資家は、プロキシ―・アクセスという貴重なツールの活用を検討すべき時期に来ているのかもしれない。


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【参照】
Responsible Investor, Paul Hodgson 「As investors focus on climate change, is now the time to deploy proxy access?」2019年4月24日 (2019年5月22日情報取得)


QUICK ESG研究所