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 本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳したものです。

 2019年1月、ブラジル南東部のブルマジーニョ市近郊にあるコヘーゴ・ド・フェイジョン鉱区で、同国の資源採掘大手ヴァーレが所有する尾鉱ダムが決壊した。この事故で少なくとも165人が死亡、150人以上の生存が絶望視されている。当時、ダムの社員食堂で食事をしていた従業員やその家族たちは、有毒な鉄鉱石を含む汚泥の波に飲み込まれていった。ヴァーレ社は2015年にも、今回の現場から100キロほど離れたマリアナで関連会社の所有するダムの決壊事故を起こしている。
 「World Mine Tailings Failures」のウェブサイトでは、ブルマジーニョのダム決壊の様子を捉えたフィルム映像を紹介。同サイトによると、同様の事故は過去にも繰り返されてきたという。1990年以降、重大な被害をもたらす尾鉱ダムの決壊事故の発生頻度が高くなってきたことを受けて、国際大ダム会議(ICOLD)と国連環境計画(UNEP)が統計データの収集を始めたが、ここ30年で事態は悪化の一途をたどっている。

 尾鉱ダムとは、採掘した鉱石から有用鉱物を採取し製錬する過程で生じる廃棄物「尾鉱」を貯蔵し処理するためのダムで、世界に最大18,000基あるとみられている。ただし、正確な数は把握されておらず、こうした基本情報すらないことが、ヴァーレ社やブラジルに限らず、業界全体における構造的な問題となっている。鉱山会社、特にそれぞれの現場レベルでの社会的、環境的なリスク管理の実態は概ね不透明であり、尾鉱ダムの場所や崩壊リスクの有無を網羅した国および公共機関によるデータベースは存在しない。世界の主要な鉱山・金属企業とその関連団体で組織される国際機関ICMM(国際金属・鉱業評議会)もそうしたデータは作成していない。

 豪州大規模ダム連邦委員会(ANCOLD)のスポークスマンは、「尾鉱ダムは初期費用が格安なため、地震の危険度が低い地域に数多く建設されている。現行のガイドラインに沿って適切に設計すれば、安定した状態が保てるはずだ」との立場を変えていない。また、尾鉱ダムの危険性分類基準は既に存在し、概ね各国で共有されているとする。

 一方で、World Mine Tailings Failuresのエグゼクティブディレクターを務めるリンゼイ・ニューランド・バウカー氏は、「実際には基準を大幅に逸脱したダムが存在する。不正や違法行為というより、鉱業界の抱える不確実性が問題となっている」として、「鉱山の運営許可が出て、いったん生産が始まってしまうと、商品の価格が好調に推移している間は、生産能力の拡大を止める手立てはない。増産を急ぎ、尾鉱の堆積場所としてダムがどんどん積み上げられていく」と指摘している。ブルマジーニョもそうした一例で、ダムの高さはガイドラインで最善とされている基準を37メートル上回る87メートルに達していた。バウカー氏によると、「ダムの容量を増やしていく計画のプロセスに投資家や規制当局が関与することは難しい」。さらに、ここ30年間で鉱業界は地表に近い低品位の鉱石を優先するようになってきており、それに伴い尾鉱の量も増えている。つまり、急拡大するリスクの管理や最終的な処分への体制整備が追い付いていないのである。

 コヘーゴ・ド・フェイジョンのダムはここ3年ほど稼働しておらず、ヴァーレ社は同ダムを廃止するためダムとしての指定を解除し、環境を復元する過程にあったという。
稼働していないダムの撤去がどの程度進んでいるのかは明らかではない。バウカー氏は、「土地の修復コストが嵩むことから業界内ではダムの廃止を避ける動きが広がっている」とも述べている。

 ヴァーレ社は、同社が所有する10基のダムを廃止する場合、約50億レアル(13億ドル)の投資が必要であると試算。一方で、採鉱が環境に及ぼす影響の査定を行っているMalach Consulting社のスティーブン・H・エマーマン博士は、「ヴァーレ社はダムの廃止コストを著しく過小評価しており、より現実的なコストは尾鉱ダム1基あたり推定10億ドルになる。ダム10基の廃止コストとして会社側が確保したとする10億ドルでは全く足りない。最低でも100億ドル程度は必要になるだろう」と指摘する。

 ICMMはウェブサイト上で「鉱山会社は、鉱床を掘り尽くした後、土地を修復する責任がある。土地の修復は操業が終了に近づいてから準備するのではなく、当初から継続的に行う活動とすべきである」と呼び掛けている。

 尾鉱ダム問題について、ヴァーレ社の事件以降、株主行動を起こす投資家も現れた。2月には、スウェーデンの公的年金基金AP1、AP2、AP3、およびAP4の代表者で構成される倫理委員会(Council on Ethics)が、同基金に対しヴァーレ社を投資対象から除外することを推奨。Council on Ethicsは、2015年のマリアナでの最初の尾鉱ダム決壊事故からヴァーレ社と広範な対話を行ってきたものの、コヘーゴ・ド・フェイジョンのダム決壊の結果、同社における尾鉱ダムの安全性向上に関する措置が十分ではないと判断した[1] 。これを受け、AP1は4億700万スウェーデンクローナ(3,860万ユーロ)相当の同社の株式および債券の売却を開始したと報じられている[2]。4月には、Council on Ethicsと英国国教会年金理事会が国連責任原則(PRI)のサポートのもと、尾鉱ダム安全確保イニシアチブ「The Investor Mining & Tailings Safety Initiative」を発足した。このイニシアチブを通じ、96の機関投資家(運用資産総額10.3億ドル)が683の資源採掘事業者の取締役会議長とCEOに対し、「45日以内に子会社や関連会社、共同出資施設がかかわる尾鉱ダムに関して、取締役会議長および/またはCEOが署名した具体的な情報を開示すること。開示できない場合は、その理由と対応について説明すること」を要求するレターを送付した[3]。


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[1] AP2, The Council on Ethics of the Swedish National Pension Funds (AP Funds) recommends exclusion of Vale S.A , 2019年2月20日 (2019年4月25日情報取得) 

[2] IPE, Vale: Swedish funds cut mining giant from portfolios after dam collapse, 2019年2月21日 (2019年4月25日情報取得)

[3] Investor Mining and Tailings Safety Initiative, The Church of England(2019年4月25日情報取得)

 

【参照】
Responsible Investor, Ella Milburn 「How big is the mining sector tailings dam problem?」2019年3月4日 (2019年4月25日情報取得)


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