画像

本稿は、レスポンシブル・インベスターの掲載記事をQUICK ESG研究所が翻訳、編集したものです。

LOGO

 2019年3月21日、ブリュッセルの欧州委員会(以下、EC)本部でハイレベルコンファレンス「A global approach to sustainable finance」が開催された。会議では、多くの政治家、企業の経営幹部、中央銀行の代表、社会運動の活動家、投資家などがサステナブルファイナンスについて議論を交わした。2017年と2018年の過去2回の会議では将来予想される障害と目標が議論の焦点になっていたが、3回目となる今回の会議はこれまでとは違い、サステナブルファイナンスの本質に迫る切迫感があるものであった。

 ここ数年リストに挙がっていた目標は、完全ではないものもあるが、多くが達成されつつある。昨年5月にECが公表した、EUアクションプランの4項目をカバーする3つの規制案のうち2つは既に政治的合意に達している。残る1つも協議が最終段階に進んでいるほか、その他の多くの規制についても小幅な改訂が進行中である。グリーンタクソノミーの策定をめぐり、200人を超えるチームが急ピッチで作業を進めるなか、BNPパリバアセットマネジメントや欧州投資銀行といった大手機関投資家は、タクソノミーがまだ最終化されていないにもかかわらず、既にこれを投資および債券発行戦略に組み入れている。 

 こうした動きはEU内にとどまらない。会議では世界各国から様々な意見が出され、EU以外の規制当局や政策立案者がよりサステナブルな市場の形成に向けて自らが果たすべき役割について次々に前向きなコメントを発した。 

 証券監督者国際機構(IOSCO)の議長で香港証券先物委員会のCEOを務めるアシュレイ・イアン・アルダー氏は、気候変動の問題はもはや「企業の社会的責任(CSR)の議論の一部にとどまらず、重要な長期的金融リスクであり、我々が正面から向き合うべきテーマである」と結論づけた。IOSCOは2019年1月にサステナブル金融に関するネットワークを立ち上げた際、アルダー氏は「論争や議論は大歓迎だが、実行に移すのが遅れることは望まない。気候変動は待ったなしの問題であるからだ」と述べた。

 気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(Network for Greening the Financial System)の議長でオランダ中央銀行(DNB)のエグゼクティブ・ディレクターでもあるフランク・エルダーソン氏は、中央銀行は自ら率先して行動すべきだと指摘した。具体的には、「世界中の中央銀行と監督当局は、法が自分たちに何をしてくれるのか問うのではなく、法がなくても自分たちに何ができるのかを問うべきである。答えはいくらでもある。金融機関の活動を規制、監督するミクロ・プルーデンス政策に気候関連金融リスクの管理を組み入れることができる。その手段としてはストレステストやシナリオ分析が考えられる。また、準備預金の管理に気候変動の考え方やリスク管理を組み入れることもできる。自らが手本となってリードすべきなのである」と述べた。 

 イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、金融安定理事会の議長在任中に自らが立ち上げた「気候変動関連の財務情報開示に関するタスクフォース(TCFD)」の進捗状況を顧み、TCFDは「投資家が意思決定する際に最も有用な情報開示の仕方とシナリオ分析のベストプラクティスについて分析している。今年6月に開催されるG20サミットの場でその結果を提示する」と述べた。

 日本の金融庁のチーフ・サステナブル・ファイナンス・オフィサーに就任した池田賢志氏は、5月に政府とTCFDコンソーシアムを協同開催し、気候変動をめぐる「機関投資家と企業の建設的なダイアログ」を国内で推進すると明言した。

 フランスのブリュヌ・ポワルソン国務大臣は、「エネルギー転換法173条で気候変動関連情報の開示が定められて3年が経った。今、我々が早急にやらなければならないのはESG関連情報の開示方法の標準化である」とし、開示方法が最も優れていると認められた投資家に再度懸賞金を付与する旨を発表した。

 ドイツ政府は、グリーンボンドまたはサステナブルボンドを発行することが財政的に意味があるかどうか検証する方針を明示した。これは、グリーンボンドが世界の金融市場で無視できない資産クラスになることを想定した動きといえる。また、フィンランドのPetteri Orpo財務大臣は、世界の財務当局によるサステナブルファイナンスのベストプラクティス策定に焦点を当てた新プロジェクトへの参加を呼びかけた。現時点では約15ヵ国が参加しており、既に第1回の代表者会合も開かれている。同氏は、プロジェクトの共同議長であるチリのFelipe Larrain Bascuñán財務大臣の言葉を代弁し、「各国の財務大臣が取り組まなければ、気候変動に歯止めはかけられない。もちろんお茶を飲みながら外交交渉を行うことも有意義だろう。だが、財務大臣は税金と予算という最強のツールを手にしている。そこで、我々は何か行動を起こすことを決断した」と述べた。

 アセットオーナーサイドでは野心的ながらも具体的なソリューションが策定されつつある。世界最大の年金基金GPIFの最高投資責任者である水野氏は、「ユニバーサルオーナーにとってリスク回避だけではなく、持続的に投資することのできる資本市場の形成に寄与する必要がある」と述べた。その一環として、アセットマネジャーの意識改革に取り組む必要があり、「我々の業界が直面する最大の課題はマインドセットである。規制による後押しでもない限り、アセットマネジャーは自らの行動を変えられないという話をたびたび耳にする。資産運用は、最も高い報酬を得られる業界の1つである。ここ数十年にわたり優秀な学生を採用してきたにもかかわらず、規制対象にならなければ自らのビジネス慣行を変えられないというのでは、情けない」と指摘し、会場から大きな拍手を受けた。水野氏は、アセットオーナーはアセットマネジャーに提示する契約内容を改定する責任を負うとし、「例えば、我々が他社にも追随するよう呼びかけていることの1つは、アセットマネジャーとの契約を現行の年次更新から5年またはそれ以上の期間ごとの更新に変えることである。それにより、アセットマネジャーが短期的なリターンを追求するインセンティブはなくなるだろう」と述べた。

 欧州最大のアセットマネジャー、アムンディでインスティテューショナル・クライアント部門の共同責任者を務めるJean Jacques Barberis氏は、アセットオーナーとアセットマネジャーはいわば「ニワトリとタマゴ」の関係にあり、サステナビリティに関しては互いに相手からの指示待ち状態にあることを認めた。一方、「アセットマネジャーはリサーチを通じて、ESG投資がリターン向上に寄与していることを継続的にアピールするとともに、サステナビリティに整合する商品を幅広い資産でより多く提供する責任がある」とも述べた。

 今回のカンファレンスで行われた多くの議論は、ようやく「仮定の話」から「実践的かつ具体的なソリューション」へと移行したといえよう。ECのサステナブルファイナンスに関する技術専門家グループ(TEG)を統括するPRIのネイサン・ファビアン氏は、「当局が環境および社会的要素を主要金融規制に明確に組み入れれば大きな一歩になる。ほんの数年前なら、こうした考えは異端と思われていただろう」と述べた。


RIロゴ

【参照】
Responsible Investor, Sophie Robinson-Tillett「EU High-Level Conference: Concrete achievements and a new credibility as finance chiefs step up 」2019年3月22日(2019年4月5日情報取得)
Bank of England, Mark Carney, Governor Bank of England「A New Horizon」2019年3月21日(2019年4月5日情報取得)

【関連記事】
QUICK ESG研究所「【RI特約記事】EUサステナブル金融アクションプランの進捗状況」2019年3月14日


QUICK ESG研究所